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第2話 ハルスの街
第26話 ルナはどこ?
しおりを挟む武器をこちらにチラチラと見せつける様に手に取っていくフランツ。俺の恐怖心を仰ごうとしているのだろうが、俺はフランツに意識をさいている余裕はなかった。
(ルナかぁぁぁ、あのバカ野郎!何が俺の事は全て分かってますだよ!!確かに、悪徳領主はこういう奴らに捕まって裁かれるかもしれないよ?でもそれは最後じゃん!こんな序盤じゃないじゃん!もうちょっと考えてくれよ!!)
あのど天然メイドのお蔭で死地に立たされることになるとは思いもよらなかった。正直天然だったとしても、王子を誘拐させるなんて馬鹿にもほどがある。
しかし、ルナが今回の件に関与しているという事を知れただけで安心できた。彼女が俺を殺させるはずが無い。という事は、今もこの場所の近くに潜んでいるのだろう。
(まてよ?逆に命の保証が取れたんだ。だったらここで悪徳領主っぽく振舞って、更に悪評を広めるのもありなんじゃないか?ルナはそれを見越していたとか……いやそれは無いか)
そんな二手先まで考えられるようなメイドではないことは確かだ。だがこの状況をプラスに働かせてこそ、悪徳領主というもの。ここはルナのパスでビックゴールを決めるとするか。
「ま、待ちたまえ!!確か君はフランツと言ったね!?どうだねフランツ君!いくら欲しいんだ?言い値を君に払おうじゃないか!」
「ああ?……金どうこうの話しじゃねぇんだよ。俺はアンタの腐った性根が許せねぇって言ってんだ。アンタみたいのが王にでもなった日にゃ、この国は終わる。その前に、俺がアンタを終わらせる!」
「ひぃぃ!止めてくれぇ!何でもする!子供達も解放するし、なんなら父上達に今回の件を訴えてくれて構わない!そうすれば、私が王になることは無いだろう?だから命だけは助けてくれぇ!」
涙を流しながらフランツに訴えかける俺の迫真の演技によって、フランツの表情が一瞬揺らぐ。いくら鬼畜のゴミ糞王子と言えど、彼から見れば俺は子供なのだからそうなるのも当然だ。
彼のような性根の優しい人間だからこそ、俺みたいなクズ人間を殺すことにも躊躇する。
だが誰かが汚れ役を担わなければならない。フランツはそれが分かっているから、その役目を引き受けたのだ。
まるで前世の俺が、山内が彼女とのデートに遅れないよう、仕事を引き受けた時と同じように。
「ふん……今更おせぇよ。あの世で後悔するんだな」
フランツは目を背けながらそう口にすると、手に持った武器を振り上げた。
「うわぁぁぁ待ってくれぇ!助けてくれぇぇ!殺されるぅぅぅ!」
俺は叫びながら、部屋の窓へと目を向ける。ルナにこの声が聞こえてるはず。きっと直ぐにでもルナがやって来て、フランツをボコボコにすることだろう。その後で、俺はこの男が殺されないよう、段取りを取らねばならない。
だが何故か、ルナの姿は見えない。その間にも、フランツの覚悟が決まろうとしていた。
「……ふぅ。俺がやらなきゃいけないんだ。俺が……」
「ルナ!?おい、ルナ!!マジでヤバいぞ!!早く助けろって!!」
「うぉぉぉ!」
フランツが覚悟を決め、雄叫びをあげながら武器が振り下ろされる。最早これまでかと思われた瞬間──
「ギャァァ!!」
部屋の外から男の叫び声が聞こえてきた。その声にフランツの手が止まる。
「な、なんだ、どうした!おい、ユーリ、ファトマ!クソ!見張りは一体何してやがる!」
フランツは俺に背を向けると、部屋の外へと飛び出していった。そしてすぐに、フランツの悲鳴が上がり、外は静けさを取り戻す。ルナが仲間を含めた全員を気絶させたのだろう。
俺はやっと助けが来たことに安堵し、自力で縄を引きちぎって部屋の外へと出ていく。部屋の外は木々に囲まれていた。どうやらここは何処かの森にある小屋のような場所らしい。
「おい、ルナ!流石にこれはやりすぎだって!小便どころかうんこ漏らすところだったぞ!」
凝り固まった体をほぐしながら暗闇に向かって叫ぶ。しかし、ルナの声は返って来ない。
かわりに暗闇から現れたのは、黒装束に身を包んだ二つの何か。その手には血で汚れた細い剣が握られている。フランツを襲ったのはルナではなく、目の前にいる二人だったのだ。
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