上 下
26 / 71
第2話 ハルスの街

第26話 ルナはどこ?

しおりを挟む

 武器をこちらにチラチラと見せつける様に手に取っていくフランツ。俺の恐怖心を仰ごうとしているのだろうが、俺はフランツに意識をさいている余裕はなかった。

(ルナかぁぁぁ、あのバカ野郎!何が俺の事は全て分かってますだよ!!確かに、悪徳領主はこういう奴らに捕まって裁かれるかもしれないよ?でもそれは最後じゃん!こんな序盤じゃないじゃん!もうちょっと考えてくれよ!!)

 あのど天然メイドのお蔭で死地に立たされることになるとは思いもよらなかった。正直天然だったとしても、王子を誘拐させるなんて馬鹿にもほどがある。

 しかし、ルナが今回の件に関与しているという事を知れただけで安心できた。彼女が俺を殺させるはずが無い。という事は、今もこの場所の近くに潜んでいるのだろう。

(まてよ?逆に命の保証が取れたんだ。だったらここで悪徳領主っぽく振舞って、更に悪評を広めるのもありなんじゃないか?ルナはそれを見越していたとか……いやそれは無いか)

 そんな二手先まで考えられるようなメイドではないことは確かだ。だがこの状況をプラスに働かせてこそ、悪徳領主というもの。ここはルナのパスでビックゴールを決めるとするか。

「ま、待ちたまえ!!確か君はフランツと言ったね!?どうだねフランツ君!いくら欲しいんだ?言い値を君に払おうじゃないか!」
「ああ?……金どうこうの話しじゃねぇんだよ。俺はアンタの腐った性根が許せねぇって言ってんだ。アンタみたいのが王にでもなった日にゃ、この国は終わる。その前に、俺がアンタを終わらせる!」
「ひぃぃ!止めてくれぇ!何でもする!子供達も解放するし、なんなら父上達に今回の件を訴えてくれて構わない!そうすれば、私が王になることは無いだろう?だから命だけは助けてくれぇ!」

 涙を流しながらフランツに訴えかける俺の迫真の演技によって、フランツの表情が一瞬揺らぐ。いくら鬼畜のゴミ糞王子と言えど、彼から見れば俺は子供なのだからそうなるのも当然だ。

 彼のような性根の優しい人間だからこそ、俺みたいなクズ人間を殺すことにも躊躇する。

 だが誰かが汚れ役を担わなければならない。フランツはそれが分かっているから、その役目を引き受けたのだ。

 まるで前世の俺が、山内が彼女とのデートに遅れないよう、仕事を引き受けた時と同じように。

「ふん……今更おせぇよ。あの世で後悔するんだな」

 フランツは目を背けながらそう口にすると、手に持った武器を振り上げた。

「うわぁぁぁ待ってくれぇ!助けてくれぇぇ!殺されるぅぅぅ!」

 俺は叫びながら、部屋の窓へと目を向ける。ルナにこの声が聞こえてるはず。きっと直ぐにでもルナがやって来て、フランツをボコボコにすることだろう。その後で、俺はこの男が殺されないよう、段取りを取らねばならない。

 だが何故か、ルナの姿は見えない。その間にも、フランツの覚悟が決まろうとしていた。

「……ふぅ。俺がやらなきゃいけないんだ。俺が……」
「ルナ!?おい、ルナ!!マジでヤバいぞ!!早く助けろって!!」
「うぉぉぉ!」

 フランツが覚悟を決め、雄叫びをあげながら武器が振り下ろされる。最早これまでかと思われた瞬間──

「ギャァァ!!」

 部屋の外から男の叫び声が聞こえてきた。その声にフランツの手が止まる。

「な、なんだ、どうした!おい、ユーリ、ファトマ!クソ!見張りは一体何してやがる!」

 フランツは俺に背を向けると、部屋の外へと飛び出していった。そしてすぐに、フランツの悲鳴が上がり、外は静けさを取り戻す。ルナが仲間を含めた全員を気絶させたのだろう。

 俺はやっと助けが来たことに安堵し、自力で縄を引きちぎって部屋の外へと出ていく。部屋の外は木々に囲まれていた。どうやらここは何処かの森にある小屋のような場所らしい。

「おい、ルナ!流石にこれはやりすぎだって!小便どころかうんこ漏らすところだったぞ!」

 凝り固まった体をほぐしながら暗闇に向かって叫ぶ。しかし、ルナの声は返って来ない。

 かわりに暗闇から現れたのは、黒装束に身を包んだ二つの何か。その手には血で汚れた細い剣が握られている。フランツを襲ったのはルナではなく、目の前にいる二人だったのだ。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界で俺はチーター

田中 歩
ファンタジー
とある高校に通う普通の高校生だが、クラスメイトからはバイトなどもせずゲームやアニメばかり見て学校以外ではあまり家から出ないため「ヒキニート」呼ばわりされている。 そんな彼が子供のころ入ったことがあるはずなのに思い出せない祖父の家の蔵に友達に話したのを機にもう一度入ってみることを決意する。 蔵に入って気がつくとそこは異世界だった?! しかも、おじさんや爺ちゃんも異世界に行ったことがあるらしい?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

処理中です...