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第2話 ハルスの街

第25話 ドッキリ?

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「なんだ、ここ。見たこともない部屋だ」

 目が覚めた俺の目に映りこんだのは、薄暗く汚れた壁だった。俺が眠りについた寝室とは似ても似つかない部屋のありさまに、思考が停止する。それに、なんだか体が自由に動かない。

「は!もしかしてこれは夢か!?何だよ驚かせんなよなーったく!」

 俺は必死に目を覚まそうと、何度も目を閉じたり開けたりしてみる。しかし、目の前の景色は一向に変わらない。

 それどころか、後ろ手に組まされている腕が痛みを感じてきた。夢の中ならば絶対にありえない現象。俺は恐る恐る視線を下に向ける。

 その視線の先には、俺の足と腹を椅子に固定して縛り付ける縄のようなものがあった。

「ハハハハ……なに、これ。なんで俺、縛られてんの?もしかして、ルナの奴がいたずらでもしちゃったのかなぁ?」

 何が起きているのか全く理解できず、不安から足がガクガクと震え始める。部屋の中を確認しようと辺りを見回すと、前方に窓ガラスが見えた。その先には漆黒に染められた空と、小さく輝く星々が見える。

「お、おかしいなぁ!なんで誰も迎えに来ないのかなぁ!おーい、ルナ!もう悪戯はやめなさーい!昼間の件は俺も悪かったからさぁ!」

 きっと俺がルナを煽るような発言をしたのが気に食わなかったんだ。それでお灸をすえるつもりでこんなことをしたに決まってる。いや、むしろそうじゃないと俺が困る。

 だがそんな願いも空しく、俺が何度叫ぼうともルナがやってくることは無かった。

「はぁ……だめか。仕方ない。何とかして自力で屋敷に帰ろう」

 諦めて縄を引きちぎろうとしたその時、壁の向こう側から足音が聞こえてきた。一瞬ルナが来てくれたのかと思い声を上げようとする。しかし、足音の間隔がいつもと違うことに気づき、俺は咄嗟に口を閉じた。

 扉が開き、暗闇の中から人の姿が現れる。その人間の姿に俺は思わず目を見開いた。見覚えのあるガチムチヤクザみたいな風貌。その男が俺を睨みつけながらニヤリと笑みを浮かべた。

「よぉ領主様……ご機嫌はどうだい?ぐっすりと眠ってたみたいじゃねぇか」
「お前は、昼間の冒険者じゃないか!一体これは何の真似だ!」

 俺がフランツを睨みつけながら問いかけると、奴は俺の胸倉を掴みながら声を荒げて見せる。

「決まってんじゃねぇか!お前みたいなクソガキに、キツイお灸をすえてやるんだよ!自分がどれだけひでぇことしたのか、身をもって味わいやがれ!」
「なんだと!そんな事の為に俺を誘拐したってのか!ふざけるんじゃない!」
「はっ!好きに吠えてるといい!後からピーピー泣いても止めやしねぇからな!」

 俺の胸から手を離すと、フランツは後ろに立っていた仲間にぼそぼそと声をかけ始めた。そのままフランツを残し、仲間達は外に出て行ってしまう。どうやら俺に拷問を行うのはフランツ一人のようだ。

 部屋の隅に置かれていた机の上に、見たことも無い武器を並べていくフランツ。その背中を見ていると、俺の頭の中に一つの疑問が浮かんできた。

 彼等はどうやって俺を誘拐したのかという点だ。

「な、なぁ!一つだけ聞きたいことが有るんだが、どうやって俺を誘拐したんだ?屋敷には賊が侵入できないように結界を張ってあったはずだぞ?」

 俺の言葉にフランツの動きが止まる。振り返ったフランツの顔は、満面の笑みに染まっていた。奴の顔を見て、何か物凄い方法があったのかと想像を膨らませていく。

 しかし、フランツの口から出た内容は、その想像をはるかに上回るものだった。

「冥途の土産に教えてやる。俺達があんたをここに連れてこれたのは……全部アンタの所のメイドのお蔭さ!」
「……は???メイドだと!?そんな馬鹿な……誰が俺を裏切ったって言うんだ!」

 フランツの言葉に俺は動揺を隠すことが出来ない。メイド達が俺を裏切るだなんて、1ミリも想像していなかった。誰が裏切ったのか、その検討すらつかない。

 慌てふためく俺に対し、フランツは上機嫌になってぺらぺらと話し始めた。

「俺達が屋敷に忍び込もうとしたところに、アンタを背負ったメイドがやって来たんだ。あのメイド、『アルス様もきっと、貴方達に捕らえられることを望まれると思います』とか意味わかんないこと言ってたぜぇ!アンタは仲間にも見捨てられたんだよ!ざまぁねぇな!!」

 真実を告げたフランツは、高らかに笑い声をあげながら再び机の方へと体を向けた。カチャカチャと金属音が響き始める。
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