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第2話 ハルスの街

第20話 計画の修正

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 奴隷を購入した翌日。俺は、再び頭を抱えて悩んでいた。

 目の前には購入した六人の子供の奴隷が並んで立っている。一番小さな子は八歳、上は十二歳という微妙な年齢の子供達。皆、主人である俺の前に集められて緊張しているようだ。

「さて、どうしたものか……」

 子供達の顔を見つめながら、静かに息を吐く。評価下げ作戦が失敗しただけでなく、子供の奴隷という大きな荷物を抱えてしまった。

 子供達に自由な暮らしを与えてやりたくても、そんなことすれば益々俺の評価があがってしまう。それならばこの屋敷で仕事を与えようと考えてみたものの、何をやらせれば良いのかすら思い浮かばない。

 そんな俺の悩みを見透かしてか、一番体の大きな男の子が慌てて口を開いた。

「あ、あの!俺達何でもやります!父さん達の手伝いしかしたこと無いですけど……それでも頑張ります!」

 男の子の言葉に続くように、一緒に並んでいた子供達も背筋をピンと伸ばして、俺の顔を真っ直ぐに見つめてきた。やる気満々なのは良いが、八歳の子供に任せられる仕事なんて無い──

 そう思いかけた瞬間、体に電流が走ったかのような感覚に包まれた。

 それと同時に頭の中にイメージが浮かび上がっていく。今度こそ、俺の評判を下げるような名案を思い付いてしまったのだ。

「ルナ!今すぐオレットを呼んできてくれ!」
「オレットですか?畏まりました」

 俺に命令され、ルナは直ぐにオレットを呼びに部屋を飛び出していく。残された子供達は、少し不安そうな顔でルナが出ていった扉を見つめている。

 それからすぐにオレットを連れたルナが戻ってきた。

「アルス様どうしましたか!」

 相変わらずヘラヘラした顔をしているオレットだが、子供達の方を見て一瞬だけ穏やかな笑みを浮かべて見せる。確かオレットには妹が居た筈だ。彼女になら幼い子供達を預けても安心だろう。

「今日からお前を子供達の世話係に任命する!ゾーイ、ミゲル、ルーシー、エリナの四人に勉強をおしえてやれ!それと、屋敷内で出来る超簡単な仕事も与えるように!」
「はぁーい、承知しました!それじゃあ四人共、私について来てくださいねぇ!」

 オレットは元気よく返事をすると、四人の子供を連れて部屋から出ていった。残された二人の子供達は、なぜ自分達だけが外されたのか分からず不安になったのか目を泳がせ始める。

「あの。俺達はどうすれば良いんでしょうか……」

 消え入りそうな声で俺に問いかけてくる少年。その隣に立っている少女も、微かに体を震わせながら少年の服を掴んでいた。

 俺はレイゲルから貰った契約書に目を通し、子供の名前を確認する。

「カイルとアンヌだったな。二人はこれから俺と一緒に、街で活動して貰うことにした。まぁ大した仕事じゃないから、気負わず俺について来てくれ」

 そう口にしながら二人に笑みを向けるも、二人の表情は暗いままだった。俺と一緒に行動しなければいけないという不安があるのだろうか。だがこればかりは我慢してもらうしかない。

 返事をしない二人をルナが無表情で見つめていると、アンヌがおずおずと右手を上げた。

「どうした?なにか言いたい事でもあるのか?」

 アンヌにそう問いかけると、彼女はコクリと頷いたあとルナの方へと目を向ける。発言しても良いのか確認を取ろうとしたのだろう。それに対してルナが一度だけ小さく頷くと、アンヌは小さな声で話し始めた。

「その、殿下と一緒に活動するというと、具体的にどんなことをするのでしょうか……」
「それは仕事場に着いてから説明した方がいいだろう。二人に危険が及ぶ内容では無いから、安心しろ!」

 そう答えるとアンヌとカイルは安堵の表情を浮かべた。事実、これから行う作戦で二人が怪我をすることは無い。だからこそ俺は自信を持って答えることが出来たのだ。

「それじゃあ早速だが街へ行くぞ!ルナは馬車をまわしておいてくれ!」
「畏まりました」

 俺の指示を聞いてルナは直ぐに部屋を出ていく。二人にルナの後を追うように告げ、俺は自分の準備へ取り掛かった。

 引き出しをあけると、そこには兄達からプレゼントされた箱がはいっていた。中には煌びやかな指輪やネックレスが収納されている。その装飾品を付けられるだけ身に着け、俺は部屋を後にした。


 ◇


 屋敷を出た俺達がやって来たのは、ハルスの街にある武器屋。ここは鍛冶工房が隣接しているらしく、カンカンと鉄を叩く音が聞こえてくる。

「よし!行くぞ奴隷達よ!さっさと前を歩くがいい!」
「は、はい!すみませんアルス様!」

 慣れない言葉でアンヌ達に命令する。二人は怯えたような表情を浮かべながら、武器屋の中へと入っていく。その様子を見ていた街の人々が、ヒソヒソと小声で話し始めた。このチャンスを見逃すまいと、俺はわざとらしく両手を上げ、十個の指輪をチラつかせる。

 これぞ悪徳領主の風貌。思えば俺にはこういったモノが欠けていたのかもしれない。今度は良く分からない銅像とか買ってみるのも良いかもしれないな。

 そんな事を考えながら武器屋の中に入ると、お店の中には小さなおじさんが一人いるだけだった。そのおじさんは俺を見るなり、眉間にシワを寄せて苛立ちを露にした。

「いらっしゃい……」

 嫌々ながらも挨拶をするおじさん。普通ならムッと来るだろうが、俺は待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。

「おいおいなんだこの店はぁ!領主である私が来たというのに、挨拶の一つもないのかぁ!」

 俺の言葉を聞いて眉をピクリと動かすおじさん。ただの金持ち坊主が来たと思ったのが、領主と聞いて驚いていた。

「すいやせんねぇ!挨拶したと思ったんですが、聞こえなかったですかい!?じゃあもう一度……いらっしゃい!何かご入用ですかい!?」
「ふん!奴隷達の剣と防具を買いに来てやったのだ!適当に見繕え!」

 俺が領主と知っても態度を変えないおじさん。中々張り合いのあるやり取りに、思わずテンションが上がる。まさかここまで悪徳領主ムーブをかませるとは思わなかった。

 そのままの勢いで、金貨が詰まった袋をカウンターに投げつける。その態度が気に食わなかったのか、おじさんは俺を睨みつけたまま眉をピクピクと引くつかせ始めた。

「この子達の防具ねぇ……御自分のは買わなくても良いんですかい?」
「ハハハ!こんなむさ苦しい店で私の物を買うわけが無いだろう!この店ももう少し店構えが良ければ、少しはましになるのだがなぁ!ルナもそう思わないか!?」
「はい。その通りでございます」

 無表情で頷くルナ。まさかここで彼女の表情が良い味を出すことになるとは。おじさんも顔を真っ赤にしてキレている。

「ッツ……そうですかい!武器はあっちの棚から好きなもんを選んでくだせぇ!防具はこっちで適当に見繕って構いませんね!?」
「ああ好きにしろ!だが私の奴隷だという事を忘れるな!奴隷達が死ねば、貴様のせいにしてやるからな!」
「分かってますよぉ!ほら坊主共、こっちに来て採寸するぞ!……ったく。すげぇ奴が領主になったもんだなぁ」

 小さな声でボソリと呟いた言葉が、俺の耳に響き渡る。この街に来てようやく、待ち望んでいた言葉を耳にすることが出来た。彼こそ俺が求めていた逸材だったのだ。

 予想以上の最高の結果に、俺は心の中で感動の涙を流すのだった。

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