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第2話 ハルスの街

第10話 一人目の共犯者

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「私共も何度か直してはいるのです!その度に、冒険者同士の喧嘩が起きたりなどして、直したところから壊れていくのですよ!まったく、困ったものです」

 そう来たか。恐らく、冒険者達に確認したところで、似たような答えが出てくることだろう。一部の冒険者とグルになっていれば、調査から逃れるのなんて簡単だしな。

 オルトの平然とした態度に俺は確信した。こいつは絶対に何かを隠している。

「オルト。俺はお前を捕まえに来たわけじゃないんだ。この俺が、わざわざお前に合いに来てやっているんだぞ?仲良くしようじゃないか」
「それは、勿論でございます!我々がこうして生活できるのも、王家の方々のお陰でございますから!」

 意味深な言葉でオルトの味方だと思わせようとしたものの、中々ガードが堅いのかオルトは口を割る様子が無い。もっと強引にいくしかないか。

 俺は顎に手を当て、オルトを睨みつけた。

「はぁ……よく聞け、オルト。ゾルマとの間で起きたことは全て不問にしてやる。だから何をしていたか全て吐け!」
「ッ……一体何をおっしゃっておりますやら!あははは!」
「父上がこのままお前達を見過ごすと思っているのか?このまま行けば、お前もいずれゾルマみたいに、土を舐めることになるぞ?」
「……」

 流石に自分も処刑されるのではないかと動揺し始めるオルト。しかしそれでもなお、口を割らない。見かけによらず忠誠心があるのか、それとも単に強情な奴なのか。まぁあと一押しでコイツも落ちるだろう。

「そうか、そうか!そんなに土が好きなら、俺の方から父上に伝えてやろう!数日後には、お前もゾルマと同じく、美味しい土を食べられるようにな!行くぞ、ルナ!」
「はい、アルス様」

 満面の笑みでオルトに告げると、ルナと共に部屋を後にしようと立ち上がる。その瞬間オルトが焦りで顔を歪ませながら声を上げた。

「お、お待ちください!すべて……不問にして頂けるのですね?」
「当然だ。王子である俺に二言はない」

 俺が再度通告するも、オルトは目を左右に動かして額に汗をにじませたまま暫く口を閉じていた。俺を信じて話すべきか迷っているのだろう。だがオルトも覚悟を決めたのか、大きく息を吐いた後、静かに話し始めた。

「ゾルマ様から頂いた金は……私と一部の冒険者に分配いたしました」
「なるほどな。随分と懐があったまっただろう。それで、ゾルマからは何を依頼されていたんだ?」

 俺の問いかけにオルトは少し言葉を詰まらせる。そして何度も目を左右に動かし、爪を噛んで身体を振るわせ始めた。

 横領については口を割ったものの、ゾルマからの依頼内容は話したくないらしい。だがこれを聞かなければ意味はない。オルトがとんでもない悪事に手を染めていた場合、俺が責められる可能性もあるからな。

 それからオルトの顔をジッと見続け、奴が口を割るまで待ち続けた。

 残っていた紅茶が空になった時、ようやくオルトが諦めたのか堰を切る用に話し始めた。

「禁制の精力剤……その素材の採取でございます。それと、女性用媚薬の横流しです」
「禁制っていうと、ハナモレアの蜜か……バレたら極刑ものだな」
「そ、その、金に目が眩んでしまいまして」

 俺が『極刑』だという事実を告げたのに、オルトの表情は少し晴れやかなものになっていた。内に秘めていたものを吐き出せた安堵からだろうか。少なくとも、自分の行いに後悔しているのは確かだろう。

 しかし、禁制の精力剤とはいえ、オルトはその素材を採取したのみ。製造はおろか恐らく製造方法も知らないだろう。となると罪に問えたとしても、『極刑』までにはならないはず。

 まぁ本人には『極刑』になるであろう罪を不問にしてやった恩人と思わせておくとしよう。そして忠誠心を仰いだ方が今後のためになる。

「今回は目を瞑ってやる。そのかわり、今後は俺に忠誠を誓え!何か情報が入ればすぐに俺に報告しろ!」
「はい!!」
「その報酬として『修繕費』名目で金は入れてやるから、いくらか懐に入れても構わん。ただし、施設の修繕は必ずしろ!分かったな!」
「は、はい!!このオルト、アルス王子に命を捧げさせていただきます!!」

 そう言って涙を流し手を組むオルト。当初の予定とは大幅にずれてしまったが、これで手駒が一つ増えた。俺の『ちょい悪徳領主』生活も一歩前進だな。

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