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第1章 ちょい悪徳領主への道

第6話 最低最悪な人生計画

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「おお、アルスではないか!元気にしていたか!?」

 父上は俺の顔を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべながら俺の元へ歩み寄ってきた。そのままの勢いで、力いっぱい俺を抱きしめる。数カ月ぶりに会った父上は、相も変わらず凄まじいオーラを放っていた。

「お久しぶりでございます、父上!父上もお変わりないようで、安心いたしました!」
「フハハハ!まだまだお前に心配されるような歳ではないぞ!さぁ、今日は久しぶりの親子での食事だ!たっぷりとお前の話を聞かせてくれ!」

 そう言って俺の手を取り、自分が座っていた席の近くへと俺を連れていく。久々の父上との食事に緊張しながらも、俺達は食事を取りながら会話を弾ませた。

「時にアルスよ!稽古の方は順調のようだな!クルシュ達がお前にも早く仕事を与えろと、急かしてくるぞ!」
「アハハ……兄様達は私を過大評価しているだけです。まだ私には学ぶべきことが多いですから」

 父上の言葉に、手紙の内容が頭を過る。まさか兄達が父上にまで俺の話をしていたとは。来週末の遠征も、既に父上に相談しているのではないかと不安が過る。

「そう謙遜する事ではない!お前が類まれなる魔法の才を持つ上に、騎士団の猛者とも渡り合える剣の実力を持っている話は耳にしておる!」
「それは皆が話を大きくしているだけです!魔法は低位の魔法しか扱えませんし、剣だって見習の兵士達を倒すのでやっとですよ!」

 俺がそう言うと、父上はニヤリと口角を上げた。正体を見透かされているかのような瞳でジッと見つめられ、俺は思わず顔をそむけてしまう。

 もしかしたら俺の実力は既に父上にバレているかもしれない。父上には子飼いの暗部が居るという噂がある。そいつらが俺の情報を持っていて、父上に報告しているという可能性も考えられる。

 しかし俺はあくまでも表では平凡な王子を演じている。だからこそ、父上も深くまで追求してこないのだろう。

「そうなのか?クルシュとレオンの話では、師団長を任せられる程だという話であったのだが……ワシからも仕事を任せてみようと考えていたのだぞ?」
「私に公務なんて早すぎますよ、父上!それこそ、あと五年ほど稽古をして、兄様達の手伝いから始めるべきだと思います!」
 
 俺がそう進言すると、父上は白く伸びた髭に手を当てて黙りこんだ。仕事なんてまっぴらごめんだ。ここで変に父上から評価されたら、最悪王位を継げとか言われる気がしてならない。ここは穏便に済ませるのが吉だ。

「アルスがそういうのであれば、そうしよう。しかし、そうなると困ったのう。お前に任せようと思っていた仕事を誰に任せるとするか……」
「いったいどんな仕事だったのです?簡単な仕事であれば、私も見学させて頂きたいのです!」

 仕事はやりたくない。だがこれは遠征を断るいい口実になる。俺はあくまでも見学者として、この仕事に同行する。仕事の内容にもよるが、父上からの依頼であれば兄様達の遠征を断っても何も問題は無い。

 まさかここで不安の種が無くなるとは。父上最高!!

 そんなテンション爆上げの俺を余所に、父上は深刻そうな面持ちで話し始めた。

「最近、エドハス領の領主を横領の罪で摘発してなぁ。あ奴め、横領だけではなく帝国の奴等とも繋がっておったのじゃ」
「帝国と!?大問題ではありませんか!帝国とは和平を結んでいるとはいえ、数年前まで戦争していたのですよ!?」

 帝国といえば、実力主義国家。自分達が最強だと信じてやまない帝国は、数年前までわが国と戦争していたらしい。つまり、今は和平を結んでいるとはいえ、安易に繋がりを持っていい国では無いのだ。

「勿論本人は処刑。ソレに関わっていたと見られる者達も裁きは終えておる。帝国との繋がりも途絶えただろう」

 父上の言葉に、食堂が静まり返る。自業自得とはいえ、領主が処刑されるという事はかなりの罪を犯していたということになる。何らかの機密情報を帝国側に流していたのかもしれない。

 静まりかえった食堂に、父上の深いため息が響き渡る。

「はぁ……問題は領主が居なくなってしまった事の方でな。そこで、次の領主が決まるまでの間だけ、お前にエドハス領を任せてみようと思っていったのだ」
「私が領主の代わりですか?私よりも適任が居るのではないでしょうか?隣領の領主にでも任せるとか。私にはまだ、領主を務める自信もありませんので……」

 俺はそう言って父上に頭を下げる。

 魔法の才があろうと武の才があろうと、領主の代わりになるなんて出来る筈がない。確かに、立場的には第六王子である俺ならば領主代理になってもおかしくは無いだろう。だが流石の俺でも統治は無理だ。俺にそんな才能ある筈がない。他人の人生を左右するような仕事なんて、死んでもやりたくない。

 俺が父上に謝罪を告げると、食堂は再び静寂に包まれる。父上の顔を見ると、少し残念そうに俺の方を見つめていた。

 でもしょうがないだろ。いくら俺が政治に巻き込まれず自由に過ごしたいからって、領民達を蔑ろにすることは出来ない。

 父上に見つめられながら黙る事数分。流石に諦めたのか父上はため息を零して首を横に振った。

「クルシュやレオンもお前を評価しているし、アルスであれば政治面でも才を振るってくれると思ったのだが……仕方がないか」

 父上は諦めてくれたのか、食事に意識を戻す。俺もそれに合わせて食事を再開する。

 しかし、これで仕事に同行できなくなってしまうのは残念だ。適任が居ないと悩んでいる様子だったし、領主代理が決まるのは暫く先になってしまうだろう。そうなると、遠征も断れなくなってしまった。

 仕方がない。昼を食べ終えたらもう一度どちらの遠征に行くか考えるとしよう。

 それから一旦悩むのを止めて、スープを口に運ぼうとしたその時だった。

 俺の脳内に一つのアイディアが思い浮かんだのだ。それは、まさしく己の野望を叶える為だけのモノ。他人の将来など微塵も考えていない、最低最悪なプランであった。

 俺は食事の手を止め、その場に立ち上がる。何事かと俺の方に顔を向けた父上の瞳を、まっすぐに見つめ返しながら俺は口を開いた。

「父上!やはり私がエドハス領に向かいましょう!王族の血を引く者として、一刻でも早く民の不安を拭い去らなければ!」
「ど、どうしたのだ、アルス!今しがた、自信は無いと言ったばかりではないか!」
「思えば私には覚悟が足りておりませんでした……自信などやれば後でついてくるもの!今は民を安心させるのが私の役目!明日にでも王城を発ち、エドハス領の領主として、立派に努めてまいります!」
「おおお!!そうかそうか!それではそのように手配しておこう!頼んだぞ、アルスよ!」

 そう言って父上は嬉しそうに立ち上がり、俺の元へと歩み寄ると、先程よりも力強く俺の事を抱きしめてくれた。俺も父上と同じくらいの力で抱きしめる。

 こうして、俺の自由気ままで最低最悪な人生計画がスタートしたのだ。

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