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第1章 ちょい悪徳領主への道

第3話 憂鬱な授業

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 食事会の翌週。俺は宮廷魔導士と一対一で魔法の授業を受けていた。

「──という訳でございまして、我々宮廷魔導士は日々魔法の研鑽を積んでいるのであります!」
「……そうか、それはとても素晴らしい事だな。それじゃあ話はそれくらいにして、早速だが魔法の稽古を始めてくれ」

 クルシュ兄様の計らいで始まった魔法の稽古。その教師としてやってきたドノバンだが、騎士団軽視のヤバい奴だった。のっけから、如何に魔法が素晴らしいモノかの話で始まり、その節々に騎士団を小馬鹿にしたような話しが入る。

「おっと、これは失礼致しました!それではまず稽古を始める前に、アルス様の魔法適性を測定しましょう!」
「分かった。宜しく頼む」

 そういってドノバンは六冊の魔導書を取り出した。それぞれ、火・水・風・土・光・闇と記されている。その内の一つ、火と書かれた魔導書を俺に手渡すと、目の前に設置された的を指さした。

「まずは火属性の適性を調べましょう!その後は風、最後に光の順番でそれぞれの初級魔法を発動させてください!」
「ん?全部の属性をやらなくていいのか?」

 俺がそう言うとドノバンは大きく頷いて見せる。

「大抵の人間は、自分の得意とする属性と対になる属性には適性がないのです!火属性が使えればそれでよし、使えなければ水属性に適性があるということになるのです!」
「……そういうものなのか」

 俺はドノバンの言葉に納得の意を示しながらも違和感を覚えていた。

 俺は今まで独学で魔法の勉強をしてきている。その結果、全属性に適性があることが分かっていた。確かに、水属性よりも火属性の方が上手に使えると言った得手不得手はあるが、全く使えないという事はない。

 これが転生者だからというのであれば納得出来る。しかし、他の人間も俺と同じように対となる属性の魔法を使える可能性があるかもしれない。

 ここで俺が全属性の魔法を使うところを見せれば、宮廷魔導士達もきっと考えを改めてくれる事だろう。そうすれば、我が国の魔導士団は他国を抜いてトップへ躍り出る。

 だが、俺は絶対にそんなことはしない。何故ならクソほど面倒になることが目に見えているからだ。

 俺がこの稽古で得たいものは、各属性の上位魔法についての情報。特に図書館にもあまり情報が無かった『治癒魔法』・『無属性魔法』について聞きたいのだ。

 『治癒魔法』に関しては、いずれ治癒士の者に聞くとして、ドノバンには『無属性魔法』について教えて貰おう。

「そういえば、城の図書館で『無属性魔法』の魔導書を見たことが有るんだが、それの適性は測らなくていいのか?」
「『無属性魔法』ですか?宮廷魔導士の中で使う者が居りませんでしたので、失念しておりました……アルス様が希望なさるようでしたら、次回の稽古の際そちらの適性も調べましょう!」
「あー……いや大丈夫だ。ただ知識として知っていれば今後の役に立てると思ったんだ」

 自分から聞いておいてあれだが、俺はドノバンの提案を拒否した。

 事前に図書館で『誰でも使える無属性魔法』という魔導書を読んでいる。その際に適当な魔法を使って、自分に適正があることは分かっていた。

 だからここで無属性魔法に適性があるとドノバンにバレるより、情報だけ手に入れられればその方が良い。下手な真似をしてクルシュ兄様に伝わり、派閥への勧誘が過激化するのを避けれるしな。

「おお!アルス様は既に魔導士としての未来を見据えておるのですね!それでしたら次回までに『無属性魔法』の魔導書を用意しておきましょう!」
「いや、用意出来たら俺の所へ持ってきてくれ。別に自分で使う訳じゃないし、稽古の時間を使う必要はないさ」
「それもそうですな!それでは用意が出来次第、アルス様にお届けに参ります!」

 これでクルシュ兄様の目を気にせず魔法の勉強をする手筈は整った。後は気にせず魔法の稽古に励むことにしよう。

「それじゃあまず、火属性の初級魔法──『火球』からいくぞ!」

 そう言って俺はドノバンが指さした的に向かって掌を向ける。火属性の魔法が発動できることは分かっていたが、少し緊張していた。なにせ、部屋の中で発動できた魔法と言えば、最下級の『着火』『水出』『風流』といった攻撃性が無い魔法ばかり。

 この世界に生まれて初めて、俺は攻撃魔法を発動できる。

「──『火球《ファイヤーボール》』!」

 魔法を発動させると、俺の掌からソフトボールくらいの大きさの火の球が放たれ、的に向かって飛んで行った。火球はそのまま的にぶつかり、的の中心を焦がして消えていく。

 思ったよりもショボい威力だ。そう思っていると、隣で見ていたドノバンが歓声を上げた。

「素晴らしい!初めての行使であの的まで火球を届かせるとは!アルス様には火属性の適性がありますな!」
「そ、そうか。それじゃあ次は風属性をやってみよう」

 興奮気味のドノバンをあしらいながら、そのまま他の属性魔法も発動していく。風属性魔法の『風刃』に光属性魔法の『光明』。その全ての発動に成功した俺を見ていたドノバンは、感動を抑えることが出来なかったのか、俺の手をガッチリと握りしめてきた。

「初めての魔法行使で全ての魔法を発動成功させるとは!流石アルス様!クルシュ様がアルス様にご期待なさるのも、このお力を見抜いていたからなのですね!」
「そ、そんなことはないだろ!たまたま上手く出来ただけで──」
「そんなわけありません!普通は魔法発動の痕跡が見られるだけでも凄いというのに!まさにアルス様は魔術の申し子!」

 鼻息を荒げながら興奮気味に語るドノバン。これは不味すぎる。ドノバンの表情を見る限り、発言に嘘があるとは思えない。そうなると、今日の話はクルシュ兄様どころか王城中に広がってしまう。それは絶対に避けなければならない。

「いや、実は独学で魔法の勉強をしていてな!最初は俺も全然発動できなかったんだぞ!?今回のはその経験があったから上手く発動できただけだ!」

 正直に言えば初めから魔法の発動は出来た。でもそんなことを馬鹿正直に告げる必要は無い。俺もあくまで平凡な人間。

 そう告げたはずなのに、ドノバンの両目からは大粒の涙が流れ出ていた。

「このドノバン、感動で涙が止まりません!アルス様が自らの意思で魔術への道を歩み始めていたとは!我々宮廷魔導士一同、アルス様がその道を歩み続けるためのお力添えをさせていただきます!」
「いやいやいや!実はその時期から同時に剣術も勉強してたからな!魔法だけじゃないからな!王子としてのたしなみだからな!」
 
 必死にドノバンを説得するが、なぜか「分かっています。このドノバン、アルス様の意を汲みますゆえ!」と言って首を振るのみ。

 俺はそれから一時間以上、ドノバンを説得し続けたのだった。

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