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第1章 ちょい悪徳領主への道

第1話 俺の最後

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 定時の鐘が鳴る。それと同時に、オフィス内に大きなため息が響き渡った。

「はぁぁぁ……今日も残業かよ!!クソすぎじゃねぇか!!今日金曜だぞ!!他の部署の奴等全員飲みに行ってんじゃねぇか!」

 同じプロジェクトメンバーである倉本が、そそくさと部屋から出ていく他部署の人達を指さしながら怒号を上げる。ただ誰もその声に反応することは無く、メンバーは皆パソコンに向かって、集中していた。

 ただ一人、倉本の隣に座る山内を除いては。

「仕方ないんじゃないっすかねぇー。顧客の要望ですし?てかそもそも、誰かさんが大見得きって、期限変えずに内容変更出来るとか言ったのがいけないんですけどねぇ」

 山内は間延びした声で倉本に向かって煽るような言葉を口にする。それが気に食わなかったのか、倉本は席から立ち上がり、山内の胸倉を掴んでキレ始めた。

「なんだ山内てめぇ!!俺が悪いって言いてぇのか!?顧客の要望を聞くのが俺達の役目だろうが!」
「そりゃそうっすけど、普通に考えて納期伸ばしません?無理なもんは無理じゃないっすか。てかこうなったの全部倉本さんのせいなんすから、大声出さないでくださいよ」

 山内は倉本の顔を見ることなく、淡々と口にしていく。
 
 山内の言う通り、全ての責任は倉本にある。本来であれば、俺達は定時で帰ることが出来ていた。しかし倉本が、客先からの無理難題を納期延長せずに対応可能だと答えてしまったのだ。

 当の本人は、自分が悪いとは微塵も思っていないようで、その証拠に山内の胸元から手をはなすと、PCの電源を落とし荷物をまとめ始めた。

「お前らがちゃんとやらねぇのが悪いんだろうが!もういい!俺は帰るからな!!後は全部お前らがやっとけよ!!」

 倉本はそう言って部屋から出て行ってしまう。この暴挙にたいし、俺を含む他のメンバーは声もあげられずにいた。倉本は社長の甥っ子。つまり、奴が何かミスをしたとしても、問題にはならない。俺達が何を言ったところで、上に揉み消されて終わりなのだ。

 ──それから二時間後。日は完全に落ち、窓の外は真っ暗になっていた。ふと山内の方に目を向けると、何度も時計に視線を送っているように見える。ああ、そう言えば今日は山内にとって大事な日だったか。

「山内、お前もう帰っていいぞー!皆も今日はいったん帰っていいぞ!後は俺がやってくからさ」
「何言ってんすか!久岡さん一人にやらせるわけにはいかないっすよ!」

 山内はそう言いつつも、若干嬉しそうに口角を上げる。今日は久しぶりに彼女に会えると嬉しそうに話していたから、今すぐにでも帰りたいはずだ。それが倉本のせいでおじゃんになりかけたのだから、あそこまでブチキレていたのだろう。

 ここは独身まっしぐらのプロジェクトリーダーである俺がお前のために体を張ってやる。

「お前今日、彼女とデートだって言ってたろ?仕事なんてやってないで早く行けって!」
「いやでも……すいません!お言葉に甘えさせて貰います!」

 山内は一度否定しようと悩んだものの、すぐさまPCをシャットダウンし荷物を纏めて風のように去っていった。他のメンバーも俺にお礼を言いながら、オフィスを去っていく。こうして一人取り残された部屋の中で、俺は一人ため息を零した。

「あぁぁぁ……俺も彼女とかいればなぁ。最近じゃまともに飯も食えてねぇし、そろそろ死ぬかも知んねぇな!」

 縁起でも無い言葉。ただ実際、今日まで三十連勤という社畜生活。家に帰ったのなんてシャワーを浴びるためと、着替えのためだけ。飯はコンビニ弁当か補給用ゼリー。こんな生活してたら、いつか死ぬだろう。

 こんなことなら適当に生きてくれば良かったと思ってしまう。仕事をそつなくこなし、プロジェクトリーダーなんか任されたせいで、自分の時間が少しも取れない。
 
 そんな人生に意味なんてあるのだろうか。

「はぁーっと。馬鹿なこと言ってないで、仕事しますかー」

 その前にコーヒーでも飲もう。そう思い、席から立ち上がった瞬間、激しい痛みが頭を襲った。立っていられなくなるくらいの痛みに、思わずその場に倒れこむ。

 次第に手足が震えだし、呼吸が苦しくなってきた。
 
「山……内……」

 ポケットに入れていた携帯を何とか取出し、まだ近くにいるはずの山内へ電話をかけようと試みる。しかし、その願いも空しく携帯が右手から滑り落ちていく。もうそれを掴みなおす気力もなく、俺の視界は徐々に暗くなっていった。

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