コミュ症の精霊魔術士〜『呪い』持ちのせいで追放されましたが、精霊には超絶愛されてるので問題ありません〜

服田 晃和

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第16話 生きていくために

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 僕とフィムがオークの村で寝泊まりするようになってから、三日が経過した。【呪い】持ちというだけで、人間達から追放された僕を、村のオークの皆さんは快く迎え入れてくれている。

「コフケ、そっちに行ったぞ!」
「あいよぉ!!おらぁ!!」
「よし、良いぞ!ルータス、そのまま抑え込め!」
「よっしゃ!俺に任せとけ!」

 フランツさんの的確な指示により、ワイルドボアの突進を盾で抑え込むルータスさん。その隙に、コフケさんががら空きになったワイルドボアの腹部へと剣を突き刺す。

「ブォォォォ……」

 ワイルドボアが最後の叫び声をあげた後、その巨体が地面に倒れこんでいった。

「よーし、みんな良くやった!!これで今日は肉三昧だぞ!」
「やったぜ!!やっぱり魔法使いが居ると違うなぁ、コフケ!」
「だな!しかもただの魔法使いじゃねぇ!なんたって裕介は『精霊魔法』の使い手だからな!」

 三人のオーク達が笑いながら僕の方に顔を向ける。この三人は、俺と同じ【呪い】持ちであるフランツさんと、ルータスさんとコフケさんだ。村の中でも特に親身になって接してくれた三人で、彼らが居てくれたお陰で僕は何不自由なくこの村で過ごすことが出来ている。

「そんな事ないですよ!僕は『水壁ウォーターウォール』を使ってワイルドボアを誘導しただけですから!」
「それがすげぇってんだよ!裕介のお陰で、こっちは随分楽してんだからよぉ!」
「そうだぜ!?お前さんさえ良ければ、ずっとこの村に居て欲しいくらいだ!」

 ルータスさんとコフケさんが、ワイルドボアに縄を巻き付けながらそんなことを言ってくれた。僕を必要としてくれるのはとても嬉しかったが、その反面彼らとの別れが近づいている寂しさもあった。

「残念だけど、裕介には目的があるからなぁ。三日後にはマルケスの街に向けてこの村を出ていくんだぞ」
「はー……分かってるよぉ」
 僕が申し訳なさそうに下を向いていると、フランツさんが変わりに説明してくれた。それを聞いて二人は深く溜息を零していた。

 フランツさんの言う通り、僕は三日後にこの村を出て、村から一番近いマルケスという街に向かう予定でいる。理由は勿論、日本に帰る方法を探すためだ。この村でその情報を得られなかった以上、次の場所に進んで行くしかない。

「そう落ち込むなよ、ルータス!俺とお前は村長から裕介の案内役を任されてんだ!まだ暫くは一緒に居られんだぜ?」
「それもそうだな!裕介が魔族の国を行き来しやすいように、身分証を作るまでは一緒に居る約束だし。そういえば、裕介はどの組合で証明書を作るか決めたのか?」

 ルータスさんに問われ、僕は顎に手を置いて考える。僕の事情を知った村長さんが、魔族の国でも生きていきやすいように『身分証』を作るべきだと教えてくれた。

 身分証はその名の通り、向こうの世界でいう『運転免許証』みたいなものらしい。僕の年齢でいうと『学生証』のようなモノだ。それを持っているかいないかで、街に入る時や国境を越える時の手続きがかなり短縮されるそうなのだ。

 その為にも、僕はマルケスの街で身分証を作らなくてはならない。その為にはまず、どこかの組合に所属する必要がある。組合は全部で4つあり、『商業組合』『冒険者組合』『薬士組合』『狩人組合』が存在する。

 『商業組合』は名前の通り、商いをする人向けの組合だ。『薬士組合』は薬草や色々な材料を使って、回復薬や解毒薬など、様々な薬を作る人達の組合らしい。この二つは僕に関係が無いので、所属する気はない。

 僕は今、『冒険者組合』か『狩人組合』の何方に所属するか悩んでいるのだ。『冒険者組合』は、魔獣の討伐依頼から商人の護衛依頼まで何でも受け付ける組合。一方の『狩人組合』は魔獣の調査・討伐のみを仕事としているらしい。

「組合の規模的に考えれば、『冒険者組合』一択なんでしょうけど……僕の性格的には『狩人組合』なんですよね。護衛依頼とか難しそうですし」
「まぁ分からなくもないけど、それで良いのか?間違いなく『冒険者組合』の奴らから舐められちまうぞ?」

 フランツさんがそう言って心配そうに僕の顔を見つめる。フランツさん曰く、『狩人組合』は『冒険者組合』の残飯処理と言われているらしい。狩人組合でやれる事は冒険者組合でもやれる。冒険者としてやっていけない奴が、狩人になるとまで言われているそうだ。

「正直言うと嫌ですけど……僕の目的は元の世界に帰る事ですから!身分証と、生きていく分のお金が手に入ればそれで充分です!それに、僕にはフィムが居ますから!」

 他人に舐められることには慣れている。例えこの先辛い目にあうことがあったとしても、僕は逃げない。フィムと一緒にレッドベアーを倒した時から、もう覚悟は出来ているんだ。

「そうそう!裕介には僕が居るからねぇ!何かあっても、僕が守って見せるよ!」
「がははは!!フィムの嬢ちゃんがそう言うなら心配いらねぇな!でも裕介、女の子に頼ってばっかりじゃダメだぞ!?しゃんとしろよな!」
「わ、分かってますよ!僕だってやる時はやって見せます!」
「えーほんとうかなぁー?レッドベアーから逃げようとしたのは誰だったけぇ!?」

 僕の言葉に反応したフィムが、満面の笑みを浮かべて僕の顔を覗き込んできた。僕は恥ずかしさから顔を背けるも、少し口元を緩ませる。

「まぁ裕介が決めたんなら仕方ねぇな!身元保証人には俺とコフケがなってやるからよ!その代わり、悪さするんじゃねぇぞ!」
「そうそう!幾ら裕介が強いからって、冒険者に喧嘩売られても買うんじゃねぇぞ!?正当性の無い反撃は、犯罪になっちまうからな!」
「ありがとうございます!!二人にご迷惑をおかけしないよう、気を付けます!」

 組合に所属するためには、身元を保証してくれる人が複数名必要になる。その身元保証人にルータスさんとコフケさんがなってくれたのだ。僕が何か問題を起こしてしまうと、二人にも迷惑が掛かってしまうため、なるべくひっそりと生活してかないといけない。

「それじゃあ狩りの続きをしますかぁ!裕介が村を出るまでに、教えられることは教えてやんなくちゃな!」
「はい!宜しくお願いします!」

 僕の目的は元の世界に帰る事。この村を出ていったら、もう二度と皆と会うことは無いと思う。けど僕は、この村で過ごした日々を一生忘れはしないだろう。
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