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第15話 【呪い】持ち
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村の中に入ると、門番をしていたオークのうちの一人が、僕等の事をもう一人のオークに任せて、村の奥へと走っていってしまった。多分、村の長に報告をしに行ったのだろう。
僕とフィムは先を歩くオークから離れないように、急ぎ足で歩を進めていく。村にいた他のオーク達からは好奇の目で見られていたものの、敵意を感じることは無かった。
それからしばらく歩き続けると、村の中で一番大きい家の前でオークが止まった。
「オルビス様!ゲイツに報告させました、件の人間と精霊殿を連れてまいりました!」
オークがそう一声かけると、家の中から三人のオークが姿を現した。一人は先程走っていた、門番をしていたオーク。もう一人は金属の鎧を身にまとっていた。その中央で杖を持ったオークが一人。恐らく、あの中央にいるオークがこの村の村長だろう。
「ご苦労。お主が、アルデンド王国に召喚された異界の人間で相違ないか?」
オーク村長が僕の顔を見ながら問いかけてきたが、返事をしていいものか迷ってしまう。勝手に口を開くなとか言われたらどうしようかと思っていたが、案内をしてくれたオークが僕の肩を小突いて、返事をするように促してくれた。
「は、はい!近藤裕介と申します!この度は、急なお願いにも関わらず村に受け入れて頂きありがとうございます!」
「気にせんでもよい。こんな夕暮れに、森の中へかえすことなど、そんな無碍なことはせんわい」
「あ、ありがとうございます!!」
なんだ、全然良い人たちじゃないか。アルデンド王国の人達なんかより、よっぽど人情味のある人達だ。このままいけば、村に住まわせてくれそうだ。そう思ったのも束の間、村長の目が細くなった。
「それで、なぜ人間に召喚されたお主が、魔族領……それも『還らずの森』に転移させられたのかのう?まるで捨てられたようでは無いか。何か後ろめたい事をしたからなのでは無いか?」
「っつ……それは……」
核心を突かれた僕は、必死に頭を回転させた。本当のことを伝えるか、それとももっともらしい言い訳を考えてこの場をやり過ごすか。やっぱり【呪い】持ちについて、魔族がどんな印象を持っているか分からない以上、安易に真実を話すべきではない。
結局、僕はその場をやり過ごすためだけに嘘をつくことを選んだ。しかし、僕の口が開くよりも先に、フィムの口が開いた。
「それはねー、裕介が【呪い】持ちだったからだよ!災いをもたらす存在とか言われて、捨てられたんだってさ!人間の国では、まだそんな風習があるみたいだねー!笑っちゃうよね!」
「ちょ、フィム!!なんで勝手に話しちゃうんだよ!!」
慌ててフィムの口を押えようとするも、彼女はそれを払いのけて話を続けようとする。
「だって本当の事でしょ?」
「いや、本当の事だけどさ!!オークの皆さんだって、アルデンド王国の人と同じように思うかもしれないじゃないか!!」
僕はそこまで口にしたあと、周りが静かになっていることに気付き、慌てて口を塞いで村長の方に顔を向けた。村長と他のオーク達は、真直ぐな目で僕を見つめている。僕はなんとか言い訳をしなくちゃと口を開くも、それは村長の言葉によって遮られた。
「あ、あの、これは──」
「なるほどのう。確かに、人間の国では『呪い』持ちは災いをもたらす象徴として、忌み嫌われていると聞いたことがある。全く……愚かな話だ」
村長がそう言い終えると、オークの皆さんが僕に向けていた視線が、同情の混じった柔らかなものに変わった。
「あの、皆さんは【呪い】持ちが嫌じゃないんですか?」
「何とも思っとらんよ。この村にも三人程【呪い】持ちがおるが、普通に暮らしておる。そこに居るフランツも【呪い】持ちじゃ」
「え!?そ、そうだったんですか!?」
「おう。俺は他のやつよりも足が遅くなる【鈍足の呪い】ってやつを持ってるぜ。まぁオークの俺にとっちゃ、何の意味もねぇ呪いだけどな!」
そう言って笑うフランツさん。オークの皆さんにとって、【呪い】は特別なものでは無かったのだ。それを聞けただけで、僕の心に引っかかっていたモヤモヤがスッと消えていった気がした。
「良ければ、お主の【呪い】を聞かせてはくれんか?無理にとは言わんが」
村長に問われ、僕は一瞬悩んだものの、覚悟を決めて話すことにした。皆さんに受け入れて貰うためにも、話しておくべきだ。そう思い、僕は静かに話し始めた。
「僕の【呪い】は……対人好感度補正(極大減少)というモノです。簡単に説明すると、他の人間が僕の事を凄く嫌いになって、好きになりにくいという呪いです」
「ふむ。その呪いのせいで、召喚を行った人間達がお主に嫌悪感を抱き、転移を行ったというわけか。成る程、筋は通っておるのう」
そう言って顎に手を当てる村長さん。ひとしきり何か考えた後、隣に立っていたオークの顔を見て問いかけた。
「ガイルよ、どう思う?裕介とやらは、我らを脅かす存在だと思うか?」
「話が出来すぎているとは思いますが……我々の事を『オークの皆さん』などと呼ぶ人間です。敵意を持っているとは考えにくいでしょう」
「ワシも同感じゃ。ならば断わる理由は無かろう」
村長はそう言って僕を見ると、穏やかな笑みを浮かべた。
「裕介よ、我々はお主を歓迎しよう。お主が我らに危害を加えようとしない限り、村に滞在することを許すことにする」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「フランツよ、村の西側に空き家があったろう。そこに二人を案内してやれ」
「分かりました!よし行くぞ、坊主!」
「は、はい!」
村長さんたちにお辞儀をして、フランツさんの後をついていく。この世界に来てようやく、腰を落ち着かせることが出来たのだった。
僕とフィムは先を歩くオークから離れないように、急ぎ足で歩を進めていく。村にいた他のオーク達からは好奇の目で見られていたものの、敵意を感じることは無かった。
それからしばらく歩き続けると、村の中で一番大きい家の前でオークが止まった。
「オルビス様!ゲイツに報告させました、件の人間と精霊殿を連れてまいりました!」
オークがそう一声かけると、家の中から三人のオークが姿を現した。一人は先程走っていた、門番をしていたオーク。もう一人は金属の鎧を身にまとっていた。その中央で杖を持ったオークが一人。恐らく、あの中央にいるオークがこの村の村長だろう。
「ご苦労。お主が、アルデンド王国に召喚された異界の人間で相違ないか?」
オーク村長が僕の顔を見ながら問いかけてきたが、返事をしていいものか迷ってしまう。勝手に口を開くなとか言われたらどうしようかと思っていたが、案内をしてくれたオークが僕の肩を小突いて、返事をするように促してくれた。
「は、はい!近藤裕介と申します!この度は、急なお願いにも関わらず村に受け入れて頂きありがとうございます!」
「気にせんでもよい。こんな夕暮れに、森の中へかえすことなど、そんな無碍なことはせんわい」
「あ、ありがとうございます!!」
なんだ、全然良い人たちじゃないか。アルデンド王国の人達なんかより、よっぽど人情味のある人達だ。このままいけば、村に住まわせてくれそうだ。そう思ったのも束の間、村長の目が細くなった。
「それで、なぜ人間に召喚されたお主が、魔族領……それも『還らずの森』に転移させられたのかのう?まるで捨てられたようでは無いか。何か後ろめたい事をしたからなのでは無いか?」
「っつ……それは……」
核心を突かれた僕は、必死に頭を回転させた。本当のことを伝えるか、それとももっともらしい言い訳を考えてこの場をやり過ごすか。やっぱり【呪い】持ちについて、魔族がどんな印象を持っているか分からない以上、安易に真実を話すべきではない。
結局、僕はその場をやり過ごすためだけに嘘をつくことを選んだ。しかし、僕の口が開くよりも先に、フィムの口が開いた。
「それはねー、裕介が【呪い】持ちだったからだよ!災いをもたらす存在とか言われて、捨てられたんだってさ!人間の国では、まだそんな風習があるみたいだねー!笑っちゃうよね!」
「ちょ、フィム!!なんで勝手に話しちゃうんだよ!!」
慌ててフィムの口を押えようとするも、彼女はそれを払いのけて話を続けようとする。
「だって本当の事でしょ?」
「いや、本当の事だけどさ!!オークの皆さんだって、アルデンド王国の人と同じように思うかもしれないじゃないか!!」
僕はそこまで口にしたあと、周りが静かになっていることに気付き、慌てて口を塞いで村長の方に顔を向けた。村長と他のオーク達は、真直ぐな目で僕を見つめている。僕はなんとか言い訳をしなくちゃと口を開くも、それは村長の言葉によって遮られた。
「あ、あの、これは──」
「なるほどのう。確かに、人間の国では『呪い』持ちは災いをもたらす象徴として、忌み嫌われていると聞いたことがある。全く……愚かな話だ」
村長がそう言い終えると、オークの皆さんが僕に向けていた視線が、同情の混じった柔らかなものに変わった。
「あの、皆さんは【呪い】持ちが嫌じゃないんですか?」
「何とも思っとらんよ。この村にも三人程【呪い】持ちがおるが、普通に暮らしておる。そこに居るフランツも【呪い】持ちじゃ」
「え!?そ、そうだったんですか!?」
「おう。俺は他のやつよりも足が遅くなる【鈍足の呪い】ってやつを持ってるぜ。まぁオークの俺にとっちゃ、何の意味もねぇ呪いだけどな!」
そう言って笑うフランツさん。オークの皆さんにとって、【呪い】は特別なものでは無かったのだ。それを聞けただけで、僕の心に引っかかっていたモヤモヤがスッと消えていった気がした。
「良ければ、お主の【呪い】を聞かせてはくれんか?無理にとは言わんが」
村長に問われ、僕は一瞬悩んだものの、覚悟を決めて話すことにした。皆さんに受け入れて貰うためにも、話しておくべきだ。そう思い、僕は静かに話し始めた。
「僕の【呪い】は……対人好感度補正(極大減少)というモノです。簡単に説明すると、他の人間が僕の事を凄く嫌いになって、好きになりにくいという呪いです」
「ふむ。その呪いのせいで、召喚を行った人間達がお主に嫌悪感を抱き、転移を行ったというわけか。成る程、筋は通っておるのう」
そう言って顎に手を当てる村長さん。ひとしきり何か考えた後、隣に立っていたオークの顔を見て問いかけた。
「ガイルよ、どう思う?裕介とやらは、我らを脅かす存在だと思うか?」
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村長はそう言って僕を見ると、穏やかな笑みを浮かべた。
「裕介よ、我々はお主を歓迎しよう。お主が我らに危害を加えようとしない限り、村に滞在することを許すことにする」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「フランツよ、村の西側に空き家があったろう。そこに二人を案内してやれ」
「分かりました!よし行くぞ、坊主!」
「は、はい!」
村長さんたちにお辞儀をして、フランツさんの後をついていく。この世界に来てようやく、腰を落ち着かせることが出来たのだった。
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