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第11話 真の力

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 ハイエビルスネイクを倒したからと言って慢心することもなく、寧ろより慎重に魔獣を倒すようになった。その結果、フィムの協力もあってワイルドボアに奇襲をかける事に成功し、見事ワイルドボアを討伐することが出来たのだった。

その翌日も魔獣を倒し続けた結果、レベルも二桁の大台を突破し、このまま行けば明日にでもこの森を抜けられると思っていた。そんな矢先──

“さぁて!そろそろレッドベアーを倒しに行こうか!”

 ワイルドボアの死体を収納に入れ終え、一息ついていた僕に向かってフィムがそんな言葉を口にした。フィムの言葉に内心ドキリとしながらも、僕は平然を装って笑みを浮かべてみせる。

「あはははー、そうだなぁ!あ、そういえば、僕達が行く予定の村ってオークしか住んでいないのか?」
“え?あーそうだねー。僕が前に見た時はオークしかいなかったような気がするけど”
「そうかー!オークの皆さんに歓迎して貰えると良いなぁー、フィム!」
“……まさか裕介、レッドベアーと戦わずに村に行こうなんて考えてないよね?”

 僕はフィムに心を見透かされて思わず冷や汗を掻いてしまう。レベルが10に上がったとはいえ、相手の情報は何一つない。
一度遭遇した時に『鑑定』しとけば良かったのだけれど、わざわざ情報を得るために今更危険を冒すこともしたく無い。

 もしレッドベアーのレベルが20を超えていたら、恐らく勝ち目は無いだろう。あの巨大な身体を傷つけられるイメージが全くわかないのだ。

「な、なぁフィム。その事なんだけど、レッドベアーと戦うのは止めないか?相手の実力も分からないし、危険を冒したくないって言うさ……」

 意を決してフィムに心の内を伝える。3日間も行動を共にしたのだ。きっと僕の気持ちを分かってくれるはず。そう思って顔をあげるたが、フィムは何も言わずフヨフヨ浮いているだけだった。

 それから暫くすると、フィムはゆっくりと僕の方へ近づいてきた。それから顔の前で止まると、静かに話し始めた。

“もしかして裕介、逃げるの?”
「逃げるわけじゃないよ……もう少し強くなって、レッドベアーを余裕で倒せるくらいの力を手に入れたら、その時は戦うさ!今はそう、戦略的撤退っていうかさ!」
“……そう。じゃあここでお別れだ”
「え?」

 フィムが僕にそう告げると、僕の目の前に窓が現れた。そこには『水の精霊(フィム)が契約の解除を申請しています。受け入れますか? はい/いいえ』という文字が映し出されていた。

「ま、待ってよフィム!いきなり契約を解除するって、なんでだよ!!」
“僕が裕介と契約したのは、面白そうだったからだよ。裕介は僕の力を借りれて、お互いに得があった。でも裕介が、これからもずっと今みたいな逃げ腰でいるなら、一緒に居る意味がないと思ってね”

 フィムの言葉を聞いて、契約した日のことを思い出した。確かにフィムは、僕といたら面白うだから力を貸してくれるとは言った。だからってこんなの脅しじゃないか。

「そうやって、僕を脅してでもレッドベアーと戦わせたいのか?僕の気持ちも考えずに!!……フィムもあいつらと同じじゃないか!!」

 あいつらはいつもそうだった。僕の気持なんか微塵も考えずに、一方的に決めつけて。自分達に出来るんだから、皆出来ると思い込んでいる。フィムも大和達とおんなじだったんだ。

 この世界で初めてできた友達だと思っていたのに、僕はフィムに憎悪に似た感情を向けた。だがそんな僕に、フィムはゆっくりと問いかけた。

“じゃあ裕介は、僕の気持ちを考えてくれた?”
「……フィムの、気持ち?」
“裕介の使ってる『魔法』は、僕の力だ。僕は裕介と一緒に戦ってるんだよ?それなのに、僕の力じゃ、レッドベアーには勝てないって言うの?そんなの……悲しいじゃないか”

 フィムの声は悲しみに満ちていた。その感情が、波のように僕の心を激しく打ち付ける。それでも僕は、フィムの気持ちを受け入れることが出来なかった。

「フィムの気持ちは分かったよ……でも、今の僕じゃレッドベアーと戦っても勝てる気がしないんだ。フィムには申し訳ないけど、僕の『水刃ウォーターエッジ』で奴の身体を傷つけられるイメージが全然湧かないんだよ」
“どうして?裕介の魔力があれば、レッドベアーなんて一撃で倒せるはずだよ!?”
「そんなこと言われても……これを見たら分かるだろ?」

 僕は近くにあった木に向かって『水刃ウォーターエッジ』を放つ。木に当たった『水刃ウォーターエッジ』は、表面を激しく切り刻んだものの、木を切り倒すことは出来なかった。

「一応これでも魔力を沢山流してるつもりなんだ!それでも、木の表面を削るので精一杯で、とてもじゃないけど、レッドベアーを倒せるとは思えない!フィムも分かってくれるだろ?」

 現状を目の当たりにしたら、流石にフィムも分かってくれるはず。だがその作戦は逆効果だったようだ。悲しみに暮れていたフィムの心から、陽気な気分が伝わり始めた。いつの間にか、顔の前にあったはずの『契約解除』の窓も消えている。

“よーく分かったよ!裕介は、『精霊魔法』と『魔法』の違いを理解していないってことがね!”
「『精霊魔法』と『魔法』の違い?何か違いがあるのか?」
“まぁ実際にやって見たら分かるよ!”

 フィムはそう言いながら僕の肩に止まった。

“良いかい裕介。もう一度『水刃』を放つ準備をするんだ!”
「はぁ……何度やっても同じだと思うぞ?」

 僕はそう言いつつも、フィムに言われた通り右手を木に向けて魔法を放つ準備をする。先程と同量の魔力を掌に込めて、後は詠唱するだけだ。

“よし!じゃあ次は僕との繋がりを意識するんだ!僕と裕介は一心同体!いい?”
「繋がり?分かった。やってみるよ」

 言われるがまま、肩の上に乗っかっているフィムに意識を向けていく。なんとなくほのかに冷たさを感じる。フィムが水の精霊だからだろうか?

“最後はイメージ……裕介も一緒に、木を切り倒すイメージをするんだ。上手くいかなくても大丈夫!僕が裕介のイメージを補うから!”
「木を切り倒すイメージって言われても……上手くいかなくても知らないからな!」

 文句を言いつつも、自分が思う「木を切り倒す」イメージをする。けれど、実際に『水刃』で木を切り倒したことなんてないため、完全にイメージをすることが出来ない。

 だがそんなとき、小さな光の球が僕のイメージの中に割って入ってきた。その光の球が僕の『水刃』に触れ、力を増大してくれる。そんな感じがしたのだ。

(あ、なんだか行ける気がする)

「『水刃ウォーターエッジ』!」

 フィムの合図を待たずに勝手に放った『水刃ウォーターエッジ』は、今までのモノより何倍もの大きさをしていた。木をスルリと通り抜け、ドンドン奥に向かって進んで行く。数秒後、幾つもの木々が地面に倒れていき、轟音が森の中に響き渡った。

“わははは!!凄いでしょ!これならレッドベアー何て一殺さ!!”

 自信満々にフヨフヨと浮かぶフィム。確かにこれならレッドベアーも余裕で倒せるだろう。ただ一つ、戦う前にフィムに言っておきたいことがある。

「こんな方法があるならもっと早く教えてくれよ!!」


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