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1巻

1-3

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「陛下。この度のうたげへのご招待、誠にありがとうございます」

 父上が陛下に向かって頭を下げる。
 我が家では傲慢ごうまんに見える父も、社交場では正しい振る舞いをすることを、初めて知った。

「おお、ダグラスか! けいの息子の『鑑定の儀』の結果は聞いている。『魔導士』だったそうじゃな。よかったではないか」
「は! これで今後も、カールストン家の役目は無事に果たしていけるかと。エリック!」
「は、はい! エリック・カールストンと申します! こ、この度は誠にありがとうございます。今後は父上と共に、カールストン家の役目を果たして参ります!」
「うむ。よろしく頼むぞ」

 アルバート陛下はニコリと微笑ほほえみ、エリックへと言葉を返した。
 その間も、ずっと陛下の裾をつまんでいる女の子に、俺は強い印象を受けた。銀色の髪に紅い瞳という、お人形のような女の子だ。

「それでは陛下。後がつかえておりますので」
「そうだな。今後も頼んだぞ」
「は!」

 父上が頭を下げた後、俺達はその場を後にした。
 だが気を緩めることは出来ず、父上は次のところへと歩き出している。
 俺も兄さんも急ぎ足でついていく。

「さぁ次だ。次はラドフォード公のところへ行くぞ」

 ラドフォード公とは、陛下の弟、エドワード・ラドフォード公爵のことである。勿論だが貴族の中で一番偉い。
 ラドフォード公のもとへ向かい、また列に並んで順番を待つ。
 同じくらいの時間待って、ようやく順番が回ってきた。
 ラドフォード公は陛下よりもかなり若く見える。
 驚いたことに、アルバート陛下の時と同じように、ラドフォード公の裾を掴んで離さない女の子が居た。
 ただしちょっと目つきが鋭く、俺を睨みつけているように見える。

(何この子。めちゃくちゃ怖いんですけど。俺何かした?)

 冷や汗を掻きながら女の子に注目していると、父上に名前を呼ばれた。

「アレク! 挨拶しなさい」
「あ、はい。アレク・カールストンと申します。よろしくお願いいたします」
「気にしなくてもいい。それより君は、六歳になったばかりなのかね?」
「はい。五月に六歳になったばかりでございます」

 なんでそんなことを聞くのか不思議に思っていると、ラドフォード公が、隣に立っていた女の子の背中を押した。

「この娘も、四月に六歳になったばかりでね。仲良くして貰えるとありがたい。アリス、挨拶しなさい」
「アリス・ラドフォードと申します。よろしければ私と仲良くして頂けますか、アレク様」

 ニコッと笑い俺に挨拶してきた彼女は、美しくもあり、心の奥を見透かされているような怖さがあった。

「アレク様は五月で六歳になったのですよね?」

 アリス様に再確認された俺は、改めて答える。

「はい。五月の五日に六歳になりました」

 俺が答えると、アリス様はニマァと笑った。なにか変なことをたくらんでいそうな顔だ。

「お父様! 私、アレク様と少しお話しして参りますわ!」

 アリス様がいきなりそんなことを言い出した。

「おお、そうか! あまりはしゃぎ過ぎるんじゃないぞ!」

 ラドフォード公はアリス様のお願いをすんなりと了承した。普通、自分の娘が男の子と話したいなんて言い出したら止めるもんじゃないか?
 まぁまだ六歳の子供同士だし、友達にしか見えないか。
 俺も父上に同伴するのは飽きてきたし、アリス様と一緒に豪華な食事にありつくとするか。
 横目で父上の表情を確認すると、「上手くやれ!」と言った目で俺を見ていた。

「それでは行って参りますわ。アレク様、あちらに美味しそうな料理がありましたの。一緒に行きましょう?」

 そう言って歩き出してしまうアリス様。
 俺は彼女について行き、料理が載っているテーブルへ目を向ける。
 しかしテーブルの少し手前でアリス様の歩みが止まり、俺の方に振り向いてきた。

「さっきの話だけど、貴方は私より生まれが遅い。そうよね?」

 急に話しかけてきたと思ったら、さっきよりちょっと口調が崩れてないか?
 まぁ、アリス様が俺よりも先に生まれたのは確かだ。

「そうですけど、それがどうかしましたか?」

 俺の返事を聞いたアリス様は、悪戯いたずらを思いついた子供のように口端を上げた。
 そして俺の顔を指差し、とんでもないことを言い放ってきたのだ。

「じゃあ私の方がお姉さんね! 私の言うことは何でも聞きなさい! いいわね!」

 ラドフォード公のところにいた時とは、態度も口調も違う。素はきっとこちらなのだろう。
 まぁアリス様は公爵家のご令嬢で、俺は辺境伯家の次男だからな。
 今のうちからゴマスリしといた方が、カールストン家にとっては都合が良いだろう。彼女に嫌われるのは避けなければならない。

「分かりました、アリス様。何をすればよろしいのでしょうか?」

 俺が間髪容かんはついれずに答えると、アリス様はきょかれたような顔になった。
 まさか承諾されるとは思っていなかったのだろう。
 俺の顔を差していた彼女の指が、ゆっくりと下がっていく。
 大人しくなってくれるか、という淡い期待を抱いたが、どうやら無駄だったようで、言葉を詰まらせながら、彼女は再び命令をしてきた。

「じゃ、じゃあ食事を取ってきてくれるかしら! とびっきり美味しいのを頼むわよ!」
かしこまりました。少しお待ちください」

 俺は彼女に言われた通り、食事を取りにテーブルへ向かった。
 それから、「面白い話をしなさい!」「飲み物を持ってきなさい!」「美味しそうなものを持ってきなさい!」の三つを、繰り返し命令された。
 そして、四回目の飲み物を取りに行って戻った時、アリス様が三人の男の子に話しかけられていた。アリス様は凄く嫌そうな顔をしているのに、彼らはそれに気づかないのか、必死になって会話を続ける。

「あぁアリス様、本日もとてもお美しい! やはり気品溢れるアリス様には、赤色のドレスが似合います! さぁどうです? このヴァルトと、向こうのテラスで夜風にでも当たりませんか?」

 三人のうちの一人、ポッチャリ君がアリス様に言った。
 まだ太陽が沈んでもいないのに夜風とは、貴族の口説くどき文句はよく分からないな。
 アリス様は差し出された彼の手を取る様子はない。

(顔だけ見れば、アリス様は綺麗だからな。顔だけな。性格は難ありだし体は……まぁ今後に期待って感じか)

 俺がポッチャリ君の後ろに立って待っているのが分かったのか、アリス様は彼の口説きを無視して俺を呼ぶ。

「遅いわよ、アレク! どれだけ私を待たせるつもり? 貴方が待たせるから、変な虫が寄ってきたじゃない!」
(おい、変な虫とか言うなよ! ぽっちゃり君がめちゃくちゃショック受けてるぞ! それに、取り巻き達が俺を睨んでるじゃないか‼)

 心の中で文句を言いながら、リンゴに似た果物のジュースをアリス様に渡す。

「すみません。少々混雑していたため遅くなりました。こちらアッポウのジュースになります」

 すると、ぽっちゃり君と取り巻き二人が、俺に向かって怒ってきた。

「おい貴様! 召使いの分際で、私とアリス様の会話をさえぎるとは、許さんぞ!」
「そうだ! ヴァルト様とアリス様は、これからあちらのテラスで良い雰囲気になる予定だったのだ!」
「そうだぞ! ヴァルト様の口説き文句で落とせない女性なんて居ないんだからな!」

 取り巻きにめられたヴァルト君は少し上機嫌になる。
 落とせない女性が居ないとか、どう見ても君達、俺と同年代だよね? その年で何人もの女性に手を出している方が引くんですけれど。
 俺が彼らの言い分に若干呆れていると、俺の代わりにアリス様が反論した。

「あら? アレクは召使いなんかじゃないわ? カールストン家の次男よ。貴方達こそ、そんな言葉遣いで大丈夫なのかしら?」

 アリス様の言葉を聞いた途端、取り巻き二人は「ヤバい!」という顔をして、後ずさりをする。
 しかし先頭に立っていたヴァルト君はというと、表情を変えることなく続けた。

「ほぉー、君はカールストン家の次男だったのか! 私はバッカス侯爵家の長男! ヴァルト・バッカスだ! まぁ君とは、家の格は一緒かもしれないが、長男である私の方が偉いぞ!」

 ヴァルト君はそう自己紹介をしながら胸を張る。
 その動作によって、豊かに実ったお腹がぶるんと音を立てて揺れた。
 俺は思わず、その可愛さにクスリと笑ってしまう。

「な、なにがおかしい! 私を馬鹿にしているのか!」

 俺が噴き出したのを見て、ヴァルト君は怒り始めた。

「そんなことはありません。あまりにも素敵なお名前でしたので、感動してしまいまして」

 俺が笑いをこらえながらそう言うと、ヴァルト君の機嫌はすぐに治った。
 ちょっとこの子はバカなのかもしれない、と俺が思っていると――

「そんなつまらない話していないで、どっか行きなさいよ。アレクもそんなやつ相手にしてないで、面白い話の続きを話してよ」

 アリス様がそう言い出したから大変だ。流石のヴァルト君も、アリス様の言葉には黙っていられなかったようで、顔を真っ赤にしている。

「こ、公爵家ご令嬢でも、今の言葉は許せませんぞ! 父上に伝えさせて頂きますから!」

 そう言ってヴァルト君と取り巻き二人は、俺達のもとから離れて行った。
 俺も、公爵家ご令嬢でも言い過ぎだと思う。まぁアリス様のことだし、どう思われようと気にしないのか。
 ヴァルト君が人混みへ消えて行くのを見送った後、アリス様に視線を戻すと、彼女は瞳を少し潤ませ、唇を噛みしめうつむいていた。

「またやっちゃった……」
「アリス様? どうしました?」

 明らかに様子が変だったので声をかけると、アリス様は一瞬体をビクッとさせたが、先程までと変わらない態度で返事をした。

「何でもないわ! それより食べ物はどうしたのよ! 全然りないわよ! 取ってきなさい!」

 仕方なく、俺は再び食べ物を取りに行く。
 しかし、食べ物を持って帰ってくると、アリス様はまた暗い顔をしていた。

「アリス様。どうされました? 何かあったのですか?」

 そう聞くと、アリス様がポツリと言った。

「どうせアレクも、私のこと嫌だと思ってるんでしょ……」
「え? 別に嫌だなんて思っていませんが?」
「嘘よ! あれだけ沢山無理やり命令したのよ! 嫌いになったに決まってるわ!」

 俺からしたら、六歳の可愛い子供が、駄々をこねてお願いをしてくるようなものだ。
 俺は子供が好きだし、甘えて貰えるのは嬉しい。
 だから嫌いになんかなってはいない。

「よく分かりませんが、私はアリス様のこと嫌いじゃないですよ? 可愛いじゃないですか」

 俺は本心で思っていたことを伝える。
 するとアリス様は、驚いた顔で見つめてきた。

「う、うそよ。だって私……アレクに色々やらせてたじゃない」
「まぁ確かに、一月ひとつき先に生まれただけで、私の言うこと全部聞きなさい! と言うのはどうかと思いますが。それでも私の話で笑ってくれて、飲み物を持ってきた私にしっかりお礼を言ってくださる貴方は、素敵な女性だと思いますよ?」

 会話を進めていくうちに、アリス様の表情がどんどん変わっていく。
 おびえた様子だったのが、「嫌いじゃない」と言われたところで目を見開き、「素敵な女性」と言われたところで、頬を赤く染めた。

「ほ、ほんとに、私のこと素敵だと思う?」
「えぇ。本当ですよ」
「じゃ、じゃあ、私と……」
「はい? 私と、何ですか?」

 アリス様は大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせ、俺の目を真っ直ぐ見つめてこう言った。

「私とお友達になってくれるかしら‼」
「アリス様がよろしければ。喜んで」

 そんなことならと、すぐに了承した。
 俺の返事を聞いたアリス様は、その場で小さくジャンプし、「やったー!」と喜んでいた。
 友達になってくれなんて、小学生の頃に聞いた以来かな? 全く懐かしいものだ。


 やがてパーティーはお開きの時刻となり、俺はアリス様に別れの挨拶をする。

「アリス様」
「アリスでいいわ! だって私達、と、友達でしょ?」
「ですがそれでは」
おおやけの場では、今まで通りでいいわ! でもそうでない時はアリスって呼んで欲しいの! 勿論敬語も無しよ! ダメかしら?」

 瞳を潤ませ、俺の裾を掴みながら懇願こんがんしてくるアリス様。
 まぁ二人の間だけならいいか。可愛い六歳児からのお願いだ。聞いてあげよう。

「分かったよ、アリス。これでいい?」
「うん! また会えるのを楽しみにしてるからね、アレク!」

 そう言葉を交わし、俺達はお互い帰路についた。


         ■


 二年後――。

「本日はお招き頂き、誠にありがとうございます」

 父上がアリスの父親、エドワード・ラドフォード公に挨拶をする。
 今日はアリスの八歳の誕生日。
 俺は父上と一緒に、プレゼントを持って、王都で開かれるパーティーに来た。
 初めて会った日から、俺は王都周辺でパーティーが行われる度に、父上に連れられて参加しなければならなくなった。
 アリスがラドフォード公に、「友達が出来たの!」と大喜びで話したせいである。
 ラドフォード公は、娘がこんなに喜ぶ姿を初めて見たのか、俺とアリスを何とかして会わせてあげようと、父上に手紙を出したらしい。
 その結果、父上はエリック兄さんよりも俺の方が、公爵家と関係を結ぶのに適任だと思ったのだろう。俺と二人でパーティーに参加する機会が増えた。
 俺はその度にエリック兄さんに睨まれるので、あまり良い出来事ではなかった。
 それでも俺と一緒に大喜びで歩き回るアリスを見ると、仕方ないという気持ちにもなる。
 転生して初めて出来た友達だ。大事にしないといけない。
 俺が父上の隣でラドフォード公に頭を下げていると、突然左腕が引っ張られる。

「アレク久しぶり! 会いたかったわ! ずっと待ってたのよ!」
「アリス様、お久しぶりです。八歳のお誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう! ねぇお父様、アレクと食事に行ってきてもいいでしょう?」
「本当はダメなんだが……仕方ない。こっちは何とかしておくから楽しんできなさい」
「お父様ありがとう! さぁアレク、早く行きましょ!」

 俺はラドフォード公に会釈えしゃくをして、その場を後にした。
 アリスの誕生日パーティーだというのに、当の本人があそこに居ないのは問題な気がするが……。
 やはりラドフォード公は娘に甘い人だな。初めて会ったパーティーでもこんな感じだった気がする。
 俺とアリスは手を繋ぎながら、食事が並んでいるテーブルへ歩いていく。
 この二年間で俺達は大分仲良しになった。
 事あるごとにパーティーに呼ばれていればそうなるのも必然かもしれない。
 まぁ仲良くなったのは二人だけではなく、三人なのだが。

「ここにいたのですね、アリス様! お誕生日おめでとうございます! アレクも久しぶりだな!」

 大きな声で声をかけてきたのは、二年前のパーティーでアリスにちょっかいをかけていたヴァルト・バッカスだ。
 あの時以降、なぜか意気投合してしまい、今ではお互い呼び捨てになっている。
 アリスもヴァルトとうまくやれているみたいだ。

「ありがとうヴァルト!」
「久しぶりだなヴァルト。少しはせたか?」

 三人が集まると、ここはパーティー会場だというのに、周りの人が気にならなくなる。凄く居心地のいい空間だ。

「アリス様、こちらお祝いの品でございます!」

 ヴァルトは胸ポケットから取り出した小さな小包を、アリスに渡した。

「あ、ありがとう! 開けてもいいかしら?」
「勿論!」

 アリスはすぐに中身を確認する。中には綺麗な刺しゅうが施されたハンカチが入っていた。

「うわぁ綺麗なハンカチ! ありがとうヴァルト!」
「いえいえ! 喜んで頂けて、私も幸せです!」

 ヴァルトは頬を赤く染め、照れているのを隠すように頬を掻く。
 アリスはそのハンカチを大事そうに両手で包み、再び小包へとしまった。そしてなぜか、急にもじもじし始める。なんだ? トイレか?
 俺がそんなことを考えていると、ヴァルトが右肘で俺のことを小突きながら咳払せきばらいをした。
 あぁ、次は俺の番てことか。
 俺は少し恥ずかしくなりながら、胸ポケットから小さな箱を取り出す。

「アリス、八歳の誕生日おめでとう! 女の子にプレゼントする機会なんて滅多にないから、何を渡したら良いか分からなかったけど。アリスに似合うと思って……」

 そう言って、アリスに小箱を手渡す。
 アリスは顔をパアッと明るくして、小さく飛び跳ねた。

「ありがとうアレク! ねぇ、今開けてもいいかしら?」

 そして、返事も聞かずに箱を開け始める。
 箱の中身を見たアリスは、頬を赤く染めて満面の笑みを作った。彼女の口から言葉が漏れる。

「……綺麗」
「アリスの髪に似合うと思ってさ。高価なものではないけど」

 俺がアリスに渡したのは、白い花の飾りがついた髪留め。
 けして高いものではないが、アリスのために、真剣に悩んで選んだものだ。

「ううん。高価じゃなくたっていい! アレクが……私のために選んでくれたなら! どんなものだって嬉しいわよ! 本当にありがとう!」
「喜んで貰えて良かった。また来年も何か贈るから、期待せずに待っといてくれ」
「絶対よ! 私が死ぬまで、毎年プレゼントを贈りなさいよね‼ その代わり……私も死ぬまでアレクにプレゼントを贈るから……! なんてったって……友達だもの」
「ははは! 分かったよ。アリスが死ぬまでプレゼントを贈る! 約束するよ!」

 俺とアリスは照れくさく笑い合いながら、来年の約束をする。
 この関係に、どんな未来が待っているのか希望を膨らませながら。


         ■


「いよいよ明日かー」

 誕生日を迎えた俺は八歳になり、二時間後に『鑑定の儀』が迫っていた。
 俺は現在、王都にあるカールストン家別邸にいる。
 エリック兄さんは来ていない。二年前からエリック兄さんとは顔を合わせる機会が減ってしまった。
 父上としては『魔導士』である兄さんよりも、職業が未確定ながらも、ラドフォード公と縁を結べる確率の高い俺に期待したいのだろう。
 俺が『鑑定の儀』に参加するための準備をしていると、父上が声をかけてきた。

「アレク、いいな。お前は『魔術師』の職業ではダメなのだ! 『魔導士』にならねばならぬ! 『魔導士』になりアリス嬢をめとり、カールストン家の地位をより確実なものにしなければならないのだ! よいな!」

 父上はとにかく、カールストン家の地位をもっと上げたいらしい。
 そのためには、俺が『魔導士』の職業を得ることが一番の近道だと思っているのだろう。
 この国では、辺境伯という地位は、公爵家に次ぐものである。パーティーに参加すれば、殆どの貴族が父上のもとに挨拶に来て、ご機嫌取りをしていく。
 それ程の階級でありながら、父上は満足出来ていないらしい。

「分かりました。お任せください」

 数年前のエリック兄さんのように、力強く返事をする。
 しかし、父上には申し訳ないが、その願いは絶対にかなえることが出来ない。
 俺の職業は既に『解体屋』と決まっているのだ。
 どんなに頭を下げようが、これを変えることは出来ない。
「お任せください」とか言ってるけど絶対に無理なのだ。本当に申し訳ない。
 準備が終わり、俺と両親は教会へと向かう。相変わらず馬車の乗り心地はイマイチだが、道が舗装されている分マシだった。

「そういえば父上。今日は、アリス様はいらっしゃるのですか? 公爵家のご令嬢ともなると、やはり別室で行われるのでしょうか?」

『鑑定の儀』は貴族だけでなく、王都に住んでいる子供達も参加する。誰が来るかも分からない場所に、公爵家のご令嬢が同席するとは思えなかった。
 そんな俺の質問に、父上は頷きながら答える。


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