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第3章 領地開拓

第40話 責任を取りましょう

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 シズクちゃんに怒られて以降、重たい空気が馬車の中を包んでいた。『神』として責任が取れない以上、軽率な行動をすべきではない。それは分かっている。

だが俺の願いを叶える為には、多くの民に自分が『土地神』であることを認めて貰わなくてはならない。

俺のスキルを使いまくれば、直ぐにでも『土地神』だと認めて貰えるだろう。だがそのせいで、民が俺の力に縋るようなことが有ってはならない。俺達はただ、彼等が歩むべき道を標すだけの存在であるべきなんだ。

 シズクちゃんに言われた言葉を噛み締めていると、馬車がゆっくりと動きを止めた。その後直ぐに扉が開き、ガストンさんが姿を見せる。

「皆様。ルキアス村に到着いたしました」
「ありがとう、ガストン!さぁナオキ様、シズク様!一緒に参りましょう!」

 そう言って俺の手を取って馬車を降りようとするハイネさん。俺はその手からそっと離し、彼女に向けて申し訳なさそうに笑ってごまかした。

「大丈夫だよ、ハイネさん。一人で降りれるから」
「……そうですか。足元には気を付けてください」

 俺の意を察してくれたのか、ハイネさんは少し悲しそうに笑みをこぼす。そのままハイネさんは先に降りると、俺達を待たずに村の方へそそくさと歩いていってしまった。

 自分勝手で申し訳ないが、俺は少し自重する道を選ぶことにした。シズクちゃんの姿勢を見習って、神としての立ち位置を忘れないようにする。その過程で元の世界へ戻れれば良い。他人の人生を歪めてまで、元の世界へ戻ろうとはもうしない。

「シズクちゃん、色々と教えてくれてありがとな。ちょっと俺急ぎすぎてたかもしれない」
「分かればよいのじゃ。お主の気持ちは分からんでもないしのう。出来るならワシも今すぐにでも神殿へ帰りたいのじゃから」

 俺が謝るとシズクちゃんは少し嬉しそうに頬を緩めた。彼女はいつも広い視野で物事を考えている。偶にクソみたいな行動もするが、それでもやはり彼女は土地神として見習うべき存在だ。

「俺は必ず元の世界へ帰る。この世界で『土地神』として居続けることは出来ない。だからこそ、自分の行動にもっと責任を取るべきだった」
「そうじゃな!お主が元の世界に帰った後も、民の暮らしは続く。その時、お主が居なくとも民が困らぬようにしなくてはな!ワシは寝てばかりで何にもせんのじゃから!」

 自虐を込めた言葉で場を和ませようとするシズクちゃん。その気遣いが嬉しくて、俺も思わず笑みをこぼす。

「うんそうだな!だから助けるのは一回だけにするよ!」
「……お主、話を聞いておったのか?」

 俺の言葉にシズクちゃんは呆れた様子でため息を零してしまった。まるで話を聞いてなかったとでも言わんばかりに、首を横に振るシズクちゃん。俺はそんな彼女を説得しようと話を続けた。

「聞いてたって!シズクちゃんは、俺が力を貸しすぎるのが悪いって言ってるんだろ?だったら一度だけ助けるくらいなら良いじゃないか!皆の生活にもそこまで影響は与えないだろうし、俺の信用も確保出来るだろ?」
「うーむ。確かに一度手を貸す程度であれば、問題は無いかもしれぬが」

 俺の説得を聞いても納得はしつつも、まだ難色を示すシズクちゃん。やはり懸念点はハイネさんの事だろう。俺が力を貸したことで、ハイネさんの評価が上がることを嫌がっているのだ。だがそちらについても、考えはある。

「ハイネさんに関しても、自分達の目で確かめて欲しい!とか言うくらいなら良いと思うんだ。年齢や性別で判断しないようにさ。それくらいなら良いだろ?」
「そうじゃなー。まぁその程度であれば、神が責任を取る必要も無いであろう!」
「よし!それじゃあそういうことで、シズクちゃんも協力してくれよな!」

 俺の言葉にシズクちゃんはやれやれと言った様子で手を上げて見せる。神として生きて行くうえでの俺の覚悟を、少しでも彼女に示すことが出来ただろうか。いや、その覚悟はこれからの行動で示すことにしよう。




 ナオキ達から少し離れた場所で、ハイネが足早に歩いていた。その後ろをガストンが音もたてずについていく──

「お嬢様。ご機嫌が優れない様子ですが、いかがなされましたか?」

 抑揚のない声でガストンが私に向かって問いかけてきた。彼の事だ、全て分かっているうえで私に訪ねているのだろう。その気遣いが逆に気に障って、腹立たしくなる。

「どうもこうもないわよ!あの女土地神のせいで、予定が狂ってしまったじゃない!」
「いかがいたしましょう?我々の方で彼女を引きはがしますか?」

 ガストンがそう提案するも、私は静かに首を横に振った。確かにシズクは邪魔な存在。私の真の目的には気づいていないようだけど、勘の鋭さがかなり面倒くさい。

 もう少しの所でナオキを傀儡に出来たのに。ギリギリのところで邪魔をされた。本当に殺してやりたいくらい邪魔な女。だけど殺すわけにはいかない。あんななりでも土地神には変わりないのだから。

「ダメよ。変に勘繰られても目障りなだけよ。昼の間は静かにしてなさい」
「承知いたしました。では私の方で手を回しておきます」
「ええ、宜しく」

 私がそう返事をするとガストンは音もたてず消えていった。私は後ろを歩く二人の男女に意識を向け、聞き耳を立てる。どうやら、ナオキは私に協力する気がないようだ。それでは困る。神の後ろ盾を得て初めて、新しい時代のトルネア領主になれるのだから。

 そうすれば、この左目も──

 薬草の匂いが風に乗って運ばれていく。その匂いに包まれながら、私は歩を進めていった。
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