上 下
39 / 46
第3章 領地開拓

第39話 責任があるのです

しおりを挟む
 約束の一週間後。ミモイ村には似つかわしくない馬車がやって来た。ハイネさんは馬車から降りると護衛を引き連れて俺の元へ歩るいてくる。そのまま俺とシズクちゃんは馬車へと連れていかれてしまった。

「それでは参りましょう!ナオキ様、初めは何処の村に行きましょうか?」

 ハイネさんはそう言ってトルネア領全域が記された地図を広げてくれた。以前ミリアさんが見せてくれた物よりも、詳細に描かれている。

 だがその地図を見たところで俺は何処に行けばいいか全くわからなかったため、見覚えのある村の名前を指さした。

「じゃあ初めはルキアス村にしよう!回復薬の件がどうなったかも気になるし!」
「分かりました!ガストン、ルキアス村に向かってちょうだい!」
「畏まりました」

 ハイネさんは外で待機していた御者の男性にそう指示を飛ばす。男は文句ひとつ言うこと無く、直ぐに馬車をはしらせた。ガタゴトと揺れる馬車に、俺は心の中で興奮する。しかしその隣に座るシズクちゃんは、ブスっとした顔で外を睨みつけていた。

「なぜワシまでついてこなければならぬのじゃ!!お主が行けばそれで良いじゃろうに!」
「そんなこと言うなよー!神様が二人いた方が説得力増す気がするだろ?」

 それ以外にも、シズクちゃんが居てくれれば食事には困らないというのもある。それにハイネさんと二人きりで居るのが少し不安だったからな。前回の『お願い』は本気じゃなかったとはいえ、迫られたら断れない。

 ハイネさんも俺と同じ気持ちだったのか、不貞腐れているシズクちゃんに深々と頭を下げた。

「私としても、シズク様に来て頂いたのは本当に今回の一件は多くの民の耳に届いています。先代の領主に変わり、十六の小娘が新しい領主になったと……それを良く思わない者も居る筈ですから」
「そ、そうかな?俺は少なくともハイネさんの方が良い領主だと思うけど」

 不安げに語るハイネさんを慰めようと、励ましの言葉を投げかける。なぜかそれが気に食わなかったのか、シズクちゃんは俺の足をズカズカ蹴ってきた。

 ハイネさんは俺の言葉を否定するかのように、首を横に振る。彼女の目には薄らと涙が溜まっていた。

「たとえ私に領主の器があったとしても、民がそれを知るまでには長い時間を必要とするでしょう。その間、不安を抱き続けることになるのです。私はそれが辛いのです」

 ハイネさんが涙ながらに語る。その様子に心を打たれた俺は、何とかして彼女の役に立ちたいと考え始めていた。

「神であるお二人に認められた事実があれば、皆も私をきっと受け入れてくれるはずです。ナオキ様、シズク様……どうか私に折力添えを頂けないでしょうか?」

 そう言ってハイネさんが俺の右手を握ってきた。突然の事に驚いたものの、彼女の潤んだ瞳を見て俺の胸が締め付けられていく。男として、彼女の力になってやらなくてはならないと、俺の心が訴えかけていた。

「分かったよ!俺に出来ることなら何でも言ってくれ!ハイネさんが少しでも早く一人前の領主として皆に認めて貰えるように、協力するよ!」
「ナオキ様ッ……有難うございます!!」
「シズクちゃんも協力してくれるよな!?」

 そう言いながらシズクちゃんの方へと顔を向ける。当然シズクちゃんも協力してくれるものだとばかり思っていた俺だったが、シズクちゃんは見るからにうんざりした顔を浮かべていた。

「い・や・じゃ!絶対にワシは協力せん!!」
「なんでだよ!ハイネさんは自分のためじゃなく、民のために力を貸してくれって言ってんだぞ?だったら少しくらい協力してやっても良いじゃないか!」

 ハイネさんは別に私利私欲で動いているわけではない。民のためを思って動いているのだ。それならば土地神として協力してやるのが筋だろう。だがシズクちゃんは首を縦には振らなかった。

「ふん!ワシ等を利用して、民に領主の器を示す。そんな事をして何になるのじゃ!!」
「だから領主が変わったりして不安になってる民を安心させてやりたいんだろ?」
「一時の安寧を得たとして、その先はどうするのじゃ!?また困ったらワシ等を利用するのか!?この女が、今後も正しき道を歩んでいく保証は一体誰がするのじゃ!?」
「それは……」

 シズクちゃんの言葉に俺は思わず言いよどむ。確かに彼女の言う通り、ハイネさんがこの先も素晴らしい領主である保証は何処にも無い。その保証を出会って間もない俺達が、簡単にしてしまっても良いのだろうか。

 悩む俺がハイネさんの方へ目を向ける。ハイネさんは瞳を潤ませたまま俺の目をじっと見つめていた。

 その瞳に吸い込まれそうになった瞬間、シズクちゃんが俺の顔を両手で挟み、無理やり自分の方へと顔を向けさせる。シズクちゃんは呆れたように溜息をこぼしたあと、声を荒げながら話し始めた。

「よい機会じゃからお主に言っておく!ワシ等は『神』じゃ!気紛れに力を貸すことはあっても、常に傍に居る存在ではない!お主は甘すぎるのじゃ!」

 怒りをぶつけるように俺の目を真っ直ぐ見つめて話すシズクちゃん。『土地神』として何百年も生き続けてきた彼女だからこそ、その言葉には確かな重みがあった。

「神が居なくなっても、人の命は続く!お主にその先の責任が取れるのか?ワシのようにこの世界で『土地神』として生きてゆく覚悟があるのか!」

 シズクちゃんの言葉に返す言葉も無く、俺は黙り込んでしまう。『土地神』として生きる覚悟。それが無い俺に、この地で暮らす人々の未来を背負う覚悟なんて出来る筈も無かったのだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜

犬型大
ファンタジー
神様にいっぱい希望を出したら意思疎通のズレから竜人になりました。 異世界を救ってほしい。 そんな神様からのお願いは異世界に行った時点でクリア⁉ 異世界を救ったお礼に好きなように転生させてくれるっていうからお酒を飲みながらいろいろ希望を出した。 転生しても人がいい……そんな希望を出したのに生まれてみたら頭に角がありますけど? 人がいいって言ったのに。 竜人族? 竜人族も人だって確かにそうだけど人間以外に人と言われている種族がいるなんて聞いてないよ! それ以外はおおよそ希望通りだけど…… 転生する世界の神様には旅をしてくれって言われるし。 まあ自由に世界を見て回ることは夢だったからそうしますか。 もう世界は救ったからあとはのんびり第二の人生を生きます。 竜人に転生したリュードが行く、のんびり異世界記ここに始まれり。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ゲーム中盤で死ぬ悪役貴族に転生したので、外れスキル【テイム】を駆使して最強を目指してみた

八又ナガト
ファンタジー
名作恋愛アクションRPG『剣と魔法のシンフォニア』 俺はある日突然、ゲームに登場する悪役貴族、レスト・アルビオンとして転生してしまう。 レストはゲーム中盤で主人公たちに倒され、最期は哀れな死に様を遂げることが決まっている悪役だった。 「まさかよりにもよって、死亡フラグしかない悪役キャラに転生するとは……だが、このまま何もできず殺されるのは御免だ!」 レストの持つスキル【テイム】に特別な力が秘められていることを知っていた俺は、その力を使えば死亡フラグを退けられるのではないかと考えた。 それから俺は前世の知識を総動員し、独自の鍛錬法で【テイム】の力を引き出していく。 「こうして着実に力をつけていけば、ゲームで決められた最期は迎えずに済むはず……いや、もしかしたら最強の座だって狙えるんじゃないか?」 狙いは成功し、俺は驚くべき程の速度で力を身に着けていく。 その結果、やがて俺はラスボスをも超える世界最強の力を獲得し、周囲にはなぜかゲームのメインヒロイン達まで集まってきてしまうのだった―― 別サイトでも投稿しております。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...