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3話
しおりを挟む「それでは、今からここのダンジョンを攻略することにする。知ってると思うが、ダンジョンの魔物を狩り尽くすまで帰れないからな。一日で帰れるように全力を尽くせ。今から言う二つのグループに別れろ。」
そう言って、苔や蜘蛛の巣が所々見られる洞穴の前で次々と名前を呼んでいく男勝りな性格なランネ先生。
この人は頼り甲斐があるとても頼もしくて、熱血で指導力のある美人な先生だ。駄目なことは駄目といい、良い行いをした時は褒めるといった先生の模範のような人で、そこそこ生徒からの人気がある。
しかし、この人の良さがいけないか前まで無かったダンジョン攻略というのを授業に取り入れてしまった。冒険者ギルドの方からお願いされたら、心地良く引き受けてしまったのだ。世の為人の為という言葉があるが、この時は適用されないで欲しかった。
そのこともあって、俺はこの人がそこまで好きになれないが、とりあえず呼ばれた方に整列して並ぶ。確率的には二分の一だったが、俺とティアは同じグループになれた。
「一緒のグループになれてよかったね。」
「うん。前回と違って一緒になれてよかった。」
前回のダンジョン攻略の時は、ティアと俺は運の悪いことに違うグループになってしまった。運の悪いと言っても二分一なのだが、そのせいで俺は下ネタで盛り上がる女子グループに取り残されてしまった。一応、ティア以外にも下ネタで盛り上がらない女子は居るのだが、この国の三番目王女様や貴族の令嬢達だったりで言葉に棘があったり身分的に近付き難い。 女子の過激過ぎる下ネタであまり盛り上がれない俺は、令嬢達に話し掛けることも出来ずずっと一人ぼっちで雑魚敵の対処のみしていた。……辛かった。
洞穴の奥へと進んでいくランネ先生の後に、俺のグループも洞穴に入っていく。全てのダンジョンにはダンジョンの入り口に二つの別れ道があって、どちらも同じような造りのダンジョンになっている。今回、先生の付いているグループが左に行ったので、俺達は右へ行く。効率よくダンジョンを攻略する為に、二手に別れている。あっちに先生が付いているので、こっちのグループに先生は付いていない。
洞穴の中は通気性が悪い為かジメジメしていて、洞穴内の岩や石塊は小さく水滴のような物が付いている。ダンジョンといっても様々なものがあり、洞穴がそのままダンジョン化したものや、海底に出来た大きな穴がダンジョン化したもの、砂漠の岩場がダンジョン化したものなど無数に存在する。
その中でも、洞穴はジメジメしていて最悪だ。
こんなにも大人数で洞穴に入ったら暑苦しいし、他にも横にあまり広がれないので万が一あった時逃げにくい。
何で洞穴のダンジョンなんだと不満を持ちながら歩いていると、前で楽しそうに下ネタを繰り広げていた女子達が立ち止まった。目を凝らしてみると、黒茶色のどろどろとしたスライムだ。ジメジメしているのは、こいつのせいなのだろうか。
「うわっ。ここって、スライム出るのかよ。」
「気持ち悪。さっさと倒しちゃいましょ。」
「気持ち悪過ぎ。」
そういって、スライムの核の部分に剣を突き刺す女子達。
下ネタばかりいつも言っているが、こういう感覚は前世と変わっていなくてよかった。どろどろとしたヘドロのようなこのスライムを可愛いと言ったりしていたら、本気で引いてしまう気がする。
核に剣を突き立てられたスライムは少しすると、タプタプと波のように動かせていた体が、割れた風船のように萎んで小さくなる。
その様子を見て少し可哀想と思ったが、この世界に動物愛護という文字は存在しないし、そんなことを気にしてたら魔物に喰われて死ぬと切り換えて、どんどんと奥へと進んでいく女子達に付いていく。前世ではかなり内向的でずっと引きずる性格だったが、この世界で死を身近に感じるようになると多少割り切れるようになった。それがいいことかは、自分では分からないが……
その後、出てきたスライムを女子達が何匹か倒し、微かにまだ動いている女子達の見落としを俺とティアがしっかりととどめを刺しながら歩いていると、狭かった洞穴は大きな広場のような場所へと辿り着く。
天井を見ると薄く透き通った青緑の綺麗な水晶が張り付いており、広場の奥の方を見ると何千年も生きていそうな全長五十メートル近くある樹皮の厚い巨木がしっかりと根を張っていて、あちこちの壁の隙間からはチョロチョロと湧き水のような透き通った水が流れている。
先程までの地獄のような場所と違って、神様が住んでいても可笑しくない凄く神秘的で解放感のある空間。空気も洞穴の中だというのに澄んでいて、森の中に居るかのような新鮮さを感じる。
ティアを見ると、体全体を伸ばして気持ち良さそうに体を休めていた。
「ダンジョンの中って、こんな場所もあるんだね。」
「窮屈でジメジメとしていたから、気持ちいいね。」
もう一度大きく体を伸ばして、気持ち良さそうに口を開いて新鮮な空気を体の中に取り込むティア。腕を伸ばすとティアの発育の良い胸が強調されて、自然と視線がそこへ向かってしまう。
すると、不思議そうな表情でこちらを窺うようにティアが首を傾げた。
「私の胸なんて見てどうしたの?」
「え? 全然胸なんて見てないよ?」
「……そういえば、ノアちゃんは胸があんまり大きくないよね。」
どうやら気付かれていたらしい。
平然と嘘を付く自分に嫌気を持つと、ティアは俺の胸元を顔を紅くしながらもまじまじと観察するかのように見つめてくる。顔を紅く染めた美少女に見つめられるというのは、とても恥ずかしく思わず俺の顔も熱くなる。
突然の出来事に俺は平常心で居られなくなると、そんな俺の隙を突いてくるように顔をより紅く染めながら近付いてくる。普通の状態なら万々歳だが、この雰囲気は不味い。女装をしているが、流石に胸の大きさまで誤魔化すことは出来てない為、俺が男であることがバレてしまいそうだ。
どうやってティアを落ち着かせるか。
対抗策を考えようとした瞬間、大きな巨木の方から鉄砲を撃った時のような鼓膜を破る勢いの破裂音が広場に響いた。
「ゲシャシャシャ!! ゲシャーーー!!」
「何よ……あの化け物。」
「ヤ、ヤバイだろ流石に彼奴は。先生が付いていないとか、運が悪すぎる。」
「あんな化け物見たことない…………」
顔を引き攣せながら、そう言葉を漏らす女子集団。
巨木を木屑に変えて、砂埃のような物を立てながら出てきたのは、角を二本生やした鬼のような化け物。全体はさっきの巨木並みの大きさがあり、口の中に入りきらなかった鋭いナイフのような歯がこちらに睨みを効かせている。
神秘的な場所は一気に戦場へと化けた。
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