2 / 11
2話
しおりを挟むあの後朝食を食べ終えた俺は、俺の通っているストランド学園へ向かっている。
ストランド学園。
ストランドというのはこの国の初代国王の名前で、名前がある通り初代国王が大金を使って作った学園。
大金を使った学園ということもあり、設備は他の学園と一線を画していて、当時からその設備を求め貴族を始め将来有望な若者が沢山集まるエリート校だった。
そして、初代国王が死んだ後も後の国王が引き続き大金をこの学園に注ぎ、優秀な人間を沢山育てる為にと国の公共事業として今に続いている。
ん?
どうしてそんな学園に俺が入っているのか?
男との出逢いを学園が増やしたいというのもあって、この学園は男ということを証明すれば比較的受験に受かりやすくなっている。だが、俺は男ということを世間にバラしたくない為、男ということを証明せずに実力でこの学園に受験した。
前世でいう転生特典のような物が俺にあったのか、俺はこの世界に存在する六つの属性魔法を全て使える。普通の人だと一つ使えるくらいで、優秀な人になると二つ、化け物クラスになると三つくらいらしい。
他人の注目を浴びたく無い為俺はこのことを隠しているが、剣の実力はというと全然駄目。剣はおろか、刀すら握ったことの無い俺にとって、剣の実力というのは全然無かった。
例を出すなら、可愛い可愛い大天使ハルにも剣で俺は負ける。
ハルは俺に怪我をさせないようにと手加減をしていたらしいが、手加減されたそっけない一撃で俺は負けた。
ちなみに、ハルは剣よりも俺と同じく魔法の方が得意らしい。
……ハルと共通点があって俺は嬉しいよ。
そういう訳で俺は魔法の実技でかなりの点数を取り、剣の実技では極僅かな点しか取れなかった。魔法は手を抜いて、剣は本気を出したのにこの結果だった。剣の点が引きずって、合格点ギリギリだったのには今でもヒヤヒヤする。……剣の実技頑張ったのに。
剣を少しでも握れるようにと、日々の日課になっている腕の筋トレを軽くしながら学園へと向かっていると、学園へと辿り着いた。
「ねぇねぇ。この前発売された裸男画買った?」
「買った買った!! 胸元が繊細に描かれてた奴よね。」
「そうそう。久し振りにいい買い物したと思ったわ。」
顔を紅くしながら普通の声の大きさで、女子とは思えない会話を繰り広げる教室。 少し聞きなれたところはあるが、やはりまだ慣れない。金が沢山投じられた学園なだけあって、中世ヨーロッパのような街並みなのにここだけ前世の学校と同じくらいの設備が整っている。設備はちゃんとしているので、この学園に通えてよかったと思っているのだが、やはりこの雰囲気は良くない。教師が女子の下ネタに乗っかって同じように笑い始めるのが普通とはどうして思えない。
下ネタを言い合って盛り上がる女子に冷たい視線を送りながら、俺は席に着いた。
「おはよう。ノアちゃん。」
「おはよう。ティアちゃん。」
俺の目の前に来て、優しく微笑みかけてくるのはティアちゃん。
茶色のしっとりとした艶のある髪に、宝石のルビーのような透き通った紅い瞳に、綺麗な顔立ち。
本名はティアラというらしいが、俺は愛称でティアと呼ばせて貰っている。
ティアは女子の中では珍しい、淑女のような控えめで温厚な性格。
下ネタの会話を繰り広げることもなければ、他の奴等と違って積極的に肌を晒すようなこともない。
周りからはたまに、俺と共にむっつりと呼ばれていることがあるが実に俺好みの女の子だ。
ちなみに、ティアにちゃん付けされてるのは、俺が裾の長いドレスを履いて女装しているから。
中性的な顔立ちということもあって、あまり嬉しくないが俺の女装した姿は名家の令嬢にしか見えない。初めてハルに女装姿を見せた時は「お兄ちゃんがお姉ちゃんになっちゃった。」とハルが泣き出したこともあった。
だから俺は男と疑われることはなく、女として認識されている。ティアにちゃん付けされてるのが、その証明だ。
「そういえば今日、ダンジョン攻略があるみたいだよ?」
「え? それって、本当なの?」
「うん。ノアちゃんがまだ教室に来てない時にやってきて、先生が急遽やるって言ってたから多分そうだと思う。」
ティアの言葉に、五月蝿かった教室が一瞬で静かになる。
下品な言葉が教室内に交わされることが無くなるのは嬉しいことだが、俺にとってもダンジョン攻略は嬉しいことではない。
この世界のあちこちにはダンジョンという魔物が発生する危険地帯がある。
ダンジョンは放置しておくと次第に何処からか現れた魔物の住処となり、魔物は繁殖スピードが早いため気付けば手をつけられなくなる。だから、冒険者がダンジョンの魔物を繁殖しない程度に狩っていくのだが、冒険者がサボったのだろうか。
こんなにも教室が静かになったのは、ダンジョン攻略が物凄く苦労する為。
攻略という言葉が使われている通り少し狩るだけじゃ帰れず、一度ダンジョンを安全な状態に戻すべくダンジョンの魔物を限りなくゼロにしなければ帰れないのだ。長い時は、一日で終わらず三日帰れない日もあった。
来たばっかだけど帰りたい……
俺が小声でそう呟くと、ティアが俺にコクコクと頷いた。
68
お気に入りに追加
277
あなたにおすすめの小説

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。
しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた!
今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。
そうしていると……?
※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!
やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり
目覚めると20歳無職だった主人公。
転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。
”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。
これではまともな生活ができない。
――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう!
こうして彼の転生生活が幕を開けた。

[男女比がバグっている世界で僕は今日も今日とて平凡(最強)です]
Tanishisan
ファンタジー
中学3年生の甘露寺楓はひょんなことから異世界に転移してしまったそこの世界は男女比が1対50と バグり散らかしており楓は平穏な毎日を過ごせることなく台風の目となりいろんな女性を翻弄していく。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています
もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。
使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる