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決断 BAd? II
しおりを挟む「何が起きているのだザマテス!! 」
脂汗を頬から滴しながら、こちらを強く睨み付けてくるご主人。
現在、我が国のあちこちで火災や地震が起きている。
昨日まで当たり前に生活していた家や街は雪が溶けるが如く崩壊し、幼い頃育てられた森は倒壊し川は荒れ狂うように氾濫が起きている。
これら全て原因は未だ不明。
恐らくご主人は今回の事件に私が関わっていると見ているのだろうが、私自身全く身に覚えがない。
とりあえず反応しないと考えていると疑われてしまうので、直ぐ様答えた。
「……恐縮ですが、私にも全然何が起こっているか分かりません。考えられるならば、天災かと?」
「天災だと? そんな訳あるわけないだろ? 本当に何も知らないのか?」
分からないものは分からないとしか答えられないが、そんなことして疑いが晴れるかというとそれは話が違ってくる。早く答えろと言わんばかりに、更に視線を鋭くしてこちらを睨んでくるご主人を見れば一瞬で理解するだろう。ご主人のことだから、一度疑ったら証拠が出てくるまで死ぬまで疑ってくる。
どうしようも出来ない私は、お嬢様に助けを求めるような視線を向けた。
「……何とも言えませんけど、今は被害を抑える方が先じゃないですか?」
「ティ、ティアの言う通りだな。先ずは被害を抑えることを優先しよう。ザマテス、各地に兵士を派遣して人を保護するように指揮しろ。」
「はっ」
お嬢様に救われた私は、一旦指揮を出しに行くために部屋を出る。
二人は夫婦だが仲がいいとはあまり言えない。
お嬢様は位の上のご主人に気を遣い、ご主人はお嬢様に嫌われないように気を遣っている。あのご主人が気を遣う相手なんて居るのかと思っていたが、実際に現れたので驚きだ。
ご主人はお嬢様に対してだけ優しいが、逆にそれはお嬢様により気を遣わせる原因となっている。ご主人様に優しくされるお嬢様は他の令嬢などからの嫉妬を集め、常に根も葉もない悪口を言われているのだ。そんなこという奴らは消そうとも考えたが、中には悪魔の想い人も数人混じっている為手は出せない。
そんなこともあって仲間の少ないお嬢様だが、ご主人様に嫌われでもしたらお嬢様は終わる。勿論そんなことはご主人の家族を全員亡き者にしたりしなければ有り得ないのだが、人というのは常に心配し怯え生きる者。最悪そんな事態が起きても私かあの夫婦が守ってくれるだろうが、お嬢様はご主人に嫌われないように敬語で今も気を遣って話している。
これから先二人で過ごす時間は長いだろうが、私としては早く仲良くなって欲しい。
『……ちょっと聞いていいか? 何かこの騒ぎについて知ってることは無いか? このままだと俺のお嬢様にまで危害が加わりそうなんだが。』
部屋を出た私は人の見えない上空まで上昇して、上空から騒ぎの様子を眺めながら指示場所まで向かっていると、突如悪魔から言葉が飛んできた。悪魔は人間とは違う声域で話すので、悪魔の声は悪魔にしか聞こえない。それに人間とは違って声を遠くまで飛ばすことが出来るので、周りを見ても悪魔の姿はない。
悪魔の声が飛んできた方向を振り返り、言葉を返した。
『全然身に覚えがない。一応私もこの事件の調査をしている。お前も暇だったら手伝え。』
そう言葉を飛ばすが、しばらく経っても全然返答が返ってこない。
多分奴は、奴のお嬢様を守るのに専念することにしたのだろう。
早く指示を出してお嬢様とご主人を守りに行かなければと、氷を滑るペンギンのように体表面積を出来るだけ小さくし、抵抗を少なくすることで速度を上げていると、突如ナイフのような物がこちらを襲うように勢いよく飛んできた。
「あ、危ないですね。こんな上空にナイフが飛んでくるとは考えにくかったので、全然警戒していませんでした。こんな場所に偶然ナイフが飛んでくるなんてほぼ有り得ないです。ーー狙ってやったんですかね?」
ナイフの飛んできた方向を見て睨むと、さっきの何倍ものスピードでナイフが飛んでくる。避けようとするも、まるで動きを読んだように避けた先に同じ大きさのナイフが飛んできて広げていた漆黒の翼にナイフが突き刺さる。
翼にナイフが突き刺さったことでバランスを崩した私は、このままではヤバイと少しでもこの場から動こうとするが、ナイフを飛ばしてきた見知らぬ相手は許してくれない。
気付けば両翼が貫かれ、四肢に数ヶ所の穴。
ジンジンと体に響く痛みや、正確に狙って飛んでくるナイフの恐怖で、私は受け身を取ることも出来ず、地面へと勢い良く落ちた。
「一体誰がこんなことを……もしかして、この事件にも関係しているのでしょうか。……まぁ、今更こんなこと考えてももう遅いでしょうが。まさか、老衰以外で死ぬことになるとは思いませんでした。 」
生を諦めた訳じゃないが、悪魔として人間の何倍も生きてきた私は自分が死ぬ瞬間を何となく悟った。別に攻撃してきた敵に殺意を持つ訳でもないし、悪魔らしい死に方だと思うだけだ。
思い残ることがあるといえば、お嬢様とご主人がこの災害ーーを含めた私を攻撃してきた者から無事に生きながらえたかどうか。どうか二人には仲良く生きて貰いたい。そして、出来れば仲良くも……
体中から血という血が抜け、意識を保つことも難しくなってきたころ。
コツコツという足音が近付いてきた。
死を知らせに死神でもやって来たのかと、私は目を瞑って死神のされるがままになろうとした。
「じゃあなザマテス。ティアのことは俺が代わりに守ってやるから、安心して消えろ。王子は知らんがな。」
聞いたことのある声に目を瞬時に開くと、斧を持った状態でこちらに大きく振りかぶってくるマルクス。
何故マルクスが生きている?
死んだという噂は嘘だったのか?
マルクスに聞く暇も無く、私は意識を失った。
■■■■
『悪魔の居るところ全て崩壊し、国も滅す。闇に堕ちた青年が壊す。悪魔によって操られた御国は、たった一夜で崩壊する。そこで生られるのは、その青年に許され、愛されたもののみ。青年に許されなかったものにとって御国は、地獄よりも悲惨なものとなる。その青年の名はマルクス。地、水、火、陽、酷の力を操り、時に自らの手で自分の気に入らない物を全て破壊した彼は、愛した者を更なる外敵から守る為、崩壊した御国を去り御国以外の国も滅ぼしに掛かる。自分の愛した者には物凄く甘く、それ以外の者には容赦をしない。皮肉なことに、その姿は悪魔のように見えたーー』
「よかったねマルクス。こんなにも育ったよ。」
「そうだな。これでしばらくは食に困らなそうだ。」
彼の者と彼に愛され許された者達は、自給自足を行っていた。
崩壊した御国は両手で数えられる程の人数しか残っておらず、国としての機能が崩壊……というより、住む国の無くなった彼等に残された道は自給自足で一日一日を必死に生きることしか残されていなかった。
彼は彼の愛した者に謝罪をし、彼の愛する者はそれを許した。
彼の愛する者はとある男と結婚をしていたが、彼のことを心の中でひっそりと結婚した者より強く愛していたのだ。
謝罪をし、少しして再び仲が元通りになった彼等は恋仲となった。
夫婦は最初は不満だったものの、段々とその仲をまた認めた。
その数ヵ月後、意図的に残された家で彼等は結婚式を行った。
彼に何も知らなされてない彼等は全員楽しそうで、幸せそうだった。
彼も彼の愛した者と結婚出来ることに、とても嬉しそうだった。
何も知らない者達は、毎日の幸せの生活に国が無くなっても不満を抱くことは無かった。彼自身も、自身が国を壊したことは言わなかった為、何も知らない者達はその事実に気付くことはなかった。
仕組まれた幸せの中で、彼等は幸せに溺れていた。
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