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奴隷市場
しおりを挟むまだ少し暗くて、冷たい風が吹く早朝。
奴隷を買うと意気込んだ私は、何時もより三時間以上早い時間に目が覚めてしまった。
「……いつも遅い時間に起きるお嬢様が早起きするのは良いことだと思いますが、流石に早すぎかと。使用人達もまだ寝ていますし、もう少し静かにしていただけると……」
「私が寝てると、うるさくして無理矢理起こすんだからいいじゃん。暇だし、何か遊ぼ。」
「……何か遊び道具はありますか?」
「ん? 鬼ごっこじゃ駄目なの?」
「…………」
ザマテスを起こしに行った私は、ザマテスと遊ぶ為にザマテスを部屋に招いた。ザマテスと遊ぶのは久し振りで、昔は沢山遊んでいた気がするが最近遊んだ記憶は、記憶の違いがなければここ二年間は何もない。だから、遊ぼうとザマテスに言った途端これだ。何も言わないで、こちらをジロッとジト目で無言で見つめてくる。 ジト目で睨まれることには慣れているので何も思わないが、そんなに嫌だったのだろうか。
そんなことを思っていると、ザマテスは溜め息をつきながら面倒臭そうに言った。
「……それじゃあ、走ることが少ないかくれんぼでもしましょう。鬼ごっこよりは、静かに出来るはずです。」
「うん。分かった。」
どちらが隠れる側か探す側をやるかなど決めずに、私は隠れ場所を探す為にザマテスを部屋に置いた状態で部屋を出る。この屋敷はかなりの部屋があるので、その分隠れ場所も多い。……つまり、逃げる側が有利だ。
部屋を出て少し先に行った右の部屋に入ると、寝言が聞こえる使用人達のベットの下に潜り込む。ベットと床までの隙間は結構あるもので、昔はスカスカで隠れている気がしなかったが、今では丁度いい隙間となっている。使用人のベットといっても、私達が使う物と大差無い性能をしているので、ベットが急に壊れるなんて心配もない。まさに、絶好の隠れ場所だ。
隙間の中に入った後、隠れたことを知らせる為大きな声を出すと、もの凄い足音でこちらに何かが向かってきた。
「………どんな所に隠れているんですか?」
「えへ……バレちゃった?」
「こんな所に隠れてはいけませんよね?」
ザマテスにベットの下から引きずり出されると、軽く頭をゴツンとされる。頭は少し痛くなったが、何やかんや遊んでくれたザマテスは優しいなと思った。
■■■■■
あの後ザマテスとお茶を飲みながら話していた私達は、皆が起きるのを待つと朝食を済ませて今さっき家を出た。朝食は家族皆で食べるのだが、様子の戻った私を見てお母さんやお父さんは何処か安心したような表情で食べていた。
「着きましたね。」
「うん。多分着いたね……」
ザマテスに手を引かれて歩くこと数分。宙を優美に舞う蝶や花の蜜を吸っている蜂を見ていると、街から少し離れた所にある奴隷市場と思われる場所に着いた。奴隷市場というだけで、まだ大きな錆びた建物の近くには近付いていないのに凄い腐敗臭がする。
「……結構臭い酷いね。」
「大丈夫ですかお嬢様?」
首をうんうんと上下に振って、大丈夫ということをザマテスに伝える。正直に言うと、もの凄い腐敗臭に直ぐにここを後にしたいけど、この臭いを我慢しないと奴隷を買うことが出来ない。ザマテスに買いに行かせるのも考えたけれど、自分の良心が痛んだのでそれは止める。
「……それじゃあ行きましょうか、お嬢様?」
「うん。そうだね。」
ザマテスの方から伸びてきた手を、そっと逃がさないように掴む。ザマテスの顔が少しひきつっているのは気のせいだろう。
歩き始めたザマテスに、歩調を合わせる。
「……お嬢様。少しよろしいでしょうか?」
「ん? どうしたの?」
建物の入り口まで来たところで立ち止まったザマテスに言葉を返す。いつも冷静なザマテスが、お願いをしてくるというのは珍しいからだ。
「少し……新鮮な空気を最後に吸ってきてもよろしいでしょうか?」
了承のサインとして、辛そうにするザマテスに首を縦に振る。
どうやら顔がひきつっていたのは気のせいではなく、臭いが思った以上にキツかったらしい。
少しして戻ってきたザマテスと、古びた建物の中へと入った。
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