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思い

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 この時間がもっと続けばいい。
 もっと続いて欲しいーーー

 目の前に映る彼のお茶を美味しそうに飲む姿を見て、私の胸は暖かくなる。春の暖かい日差しに包まれる中、私とベリーは庭に席を広げてお茶を楽しんでいた。以前は全く彼との接点が無かった私だが、最近では彼に誘われるようになって、週に二日は彼とお茶をしに彼の屋敷に訪れている。今ではベリーの嬉しそうな顔を見ることに慣れてきたが、昔は全く見れなかったベリーの嬉しそうな顔や私の話を聞いて色々な表情に変わるベリーを見れるお茶会の時間は、もっと続けばいいと思う程楽しい。

 ベリーを真似して私もお茶を口にすると、彼が心配気な顔で口を開いた。

「そう言えば、ティアラは次の祝福祭の時って予定空いてる?」
「しゅ、祝福祭!?」
「う、うん。ティアラの予定が空いているなら、ティアラと今度の祝福祭を回りたいと思っているんだけど、ティアラは次の祝福祭の時って暇?」

 ベリーの言葉から出た、祝福祭という言葉に私の胸は驚きのあまり止まりそうになる。
 祝福祭とは、冬が明けて春が来たことに感謝をすると共に作物が育つことを願う為の祭で、私とベリーのような貴族が農民達の気分を盛り上げる為に行う一年に一度の恒例行事だ。貴族達が場所の費用と屋台などの材料費の大体を持つので、農民達にとって祝福祭というのはあまりお金の掛からない娯楽でおり、屋台を出すことによって臨時収入を得ることが出来る行事だ。
 
 そんな祝福祭をベリーから誘われたことに、私は動揺を隠せない。
 何せ、私はベリーと祝福祭に今で行ったことがない。毎年のようにベリーのことを祝福祭に誘っていた私だけど、今まで了承の返事を貰ったことはない。本が読みたいからとか、友達と行く予定だからとか、私の気持ち何か知らないで毎年のように彼には曖昧な理由で断られていた。

 それが、ベリーから誘われるなんてーー

「しゅ、祝福祭の日ね? ……お父さんから祝福祭の準備について相談されているから、今はベリーと行けるか分からないかな。」
「そ、そうなんだ。」

 何処か気合いを入れているベリーを見て、私はベリーとは違う方向に目を向ける。
 先程ベリーに言ったのは嘘である。
 お父さんから祝福祭の準備なんて聞いたことないし、今まで手伝ったこともない。相談なんてされたこともないし、しようと思ったこともない。ベリーがどんな顔をするのか気になったということもあるけど、私はベリーが気を遣っているのではないのかと疑って嘘をついた。

 振り向いてみれば、何か真剣に考えているような表情をするベリー。その姿はまるで物語に出てくるような探偵のようで、ミステリアスな雰囲気を纏っているベリーはブラックのコーヒーを飲んでいそうで、中性的な顔立ちから真剣な表情になったベリーはギャップがあって、胸が自然と熱くなる。

 そんなベリーが私と話してくれるようになったのは、つい最近。馬車の時はつい、ベリーに転びそうになったところを助けて貰ったが、あのようなことをされたのもあれが初めて。ベリーとは幼い頃から婚約者として何年もの付き合いだが、ベリーと話した記憶はつい最近の記憶しか思い浮かばない。ベリーに話し掛けたとしても、返ってくるのは沈黙。言葉を発したのを忘れるくらいには、私に話し掛けられたことなど知らないかのようにベリーは本を読んでいた。

 そんなベリーが急に話し掛けてくるようになったのは、私に冷たいベリーに親が何か言ったからじゃないかと思っている。だって、そうじゃなければ私にあれほど冷たかったベリーが話し掛けてくるとは思えないし、今回のように誘われることなんてないと思う。ベリーの子供のように頬を緩めて笑った表情や、照れて動揺しているベリーを見ればそんなことないとも思うけど、親に言われて無理をしているのではと思ってしまう。
 
 ベリーと親しくなれたのは嬉しいけど、ベリーに無理をさせてまでそれを強要するつもりはない。だから、親が言ってくれるかどうかは分からないけど、期間を空けてそれを確かめてからベリーの誘いには答えようと思う。

 のびのびと気持ち良さそうに青空を漂う雲を、私は羨ましく見つめた。

■■■

 あれ?
 ベリーのお母さんとお父さんに、ティアラの祝福祭の日は空いてるって聞いていたけど、やっぱり僕なんかと祝福祭に行きたくないのかな?


 金色のミディアムがお似合いで、赤い薔薇がとても似合いそうなティアラを見て、僕は心が誰かに握り潰されているかのようになる。今まで毎年のように誘われては、遠慮に遠慮を重ねて断ってきた僕は、今年はティアラからではなく僕からティアラを誘ってみることにした。

 だけど、返ってきた言葉は
 誰から言われたか忘れたけど、女性のと読むらしい。と言っても、に。だから、この言葉の分からないは遠回しに僕を遠ざける為に言っているのだろう。ティアラのお母さんとお父さんにはあらかじめ暇なのか聞いていたから今のティアラの言葉は嘘だろうし、何度も誘っては断わられていた相手に今更誘われてもーー

 
 僕は自然と腕に力が入る。
 今まで誘っていた僕の誘いを断るということは、やっぱりティアラにはーー

 ーー僕以外の好きな人がいる。


 うんうんと、諦めるように僕は心の中で首を縦に振る。
 あの満月の日に聞いてしまったという言葉。あれは恐らく後者の、僕以外の人に愛されたいという意味でだろう。僕に会うと、紅く透き通った宝石よりも綺麗な瞳をより輝かせて微笑むティアラだけど、多分それも僕の勘違い……

 
 ティアラの好きな人は誰なのだろうか。
 散々ティアラに緊張からとはいえ冷たく当たった僕は、婚約者だからといってその恋を止めることは出来ない。婚約者だったというのに、ティアラと寄り添おうと考えられなかった僕がいけなかった。


 ーーでも、
 ーーもし叶うのならば、ティアラに好きと思われていたいな

  
 そっと祝福祭で渡すつもりだった指輪を、ティアラが青空を眺めている内に握り締めた。
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