私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3

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数年後の未来

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「若い頃はお茶が不味いと思っていたけど、今になると本当に美味しいよな。」
「私もアレンと同じで、お茶が今になると本当に美味しく感じる。……私達も年老いたものね。」
「あぁ、本当に。ーーお茶のお代わりを頼む。」
「ふふっ、今は冒険なんてしてないのに、本当によく飲みますね。はい、どうぞ。」
「癖だよ。冒険をしていた時は、お茶を飲む暇さえない時あるからな。今じゃ懐かしいけど………」

 夕日を目の前にして、ほのかに湯気が昇るお茶を口にしながら、縁側で昔話を絡めながらお茶菓子を口にする。昔など夕日の良さなんて分からなかったが、今こうして見ると良いものだ。ほんのりと涼しい風が吹く中で飲むお茶は本当に美味しい。

 急須から流れるお茶に目を移すと、何処からか聞き慣れた声が聞こえた。マロンの顔を見ると、もう分かっているようだ。聞き慣れた声の方に耳を傾けると、俺も直ぐに誰がやって来たか理解した。

「今帰ってきたぞお袋。今回の相手はドラゴンでさ、ギリギリで何とか勝つことが出来たよ。」

 若い頃の俺の銀髪と、マロンの茶髪が混ざったような髪を持つ男は、はにかみながら俺の愛用していた大剣を持って、夕日の下に立っていた。素手で熊を相手しても互角に戦えそうな太くてゴツゴツした、大きなバツ印のついている腕。足は前見た頃よりもゴツくなっていて、全盛期の俺と見比べても見劣りしないようなガッツリとした足になっていた。どうやら今回の冒険でまた強くなったみたいだ。

「おいおい。俺への挨拶はどうした?」
「うるせぇよ親父。ほら、見てくれよお袋。これがドラゴンのうろこでさ、ここにある傷は俺の剣がつけたんだ。滅茶苦茶硬くてびっくりしたぜ。」
「ふふっ、お疲れ様。今回の冒険もよく頑張ったね。」
「おいおい、俺の頭撫でないでくれよ。もう俺はそんな年じゃないぞ?」
「いいじゃない。今はこうして撫でていたいの。」
「俺を忘れてないよな?ちょっと俺にもその鱗見せろーー」
「……ったく、子供かよ親父は。」
「ふふっ。ほらほら、もっとこっち来て。そんなに遠くに居たら、撫でられないでしょ?」
「ああっ、もう。……これが最後だからな」
「はいはい。最後にしますよ。」
「だから、お前ら俺を忘れるなって……」

 縁側の上で、マロンに抱き締められて撫でられる息子。コイツが幼い頃からずっと見ていた光景だが、何時になっても飽きることはない。のんびりとしながらも、ほんのりと暖かい愛を感じるこの空間が俺は嫌いになれない。

 マロンの抱き締めが終わったのを見て、俺も息子を抱き寄せて撫でる。マロンと違ってコイツは直ぐに抵抗したが、少し経つと落ち着いて子供が見せるようなほっとした表情を見せた。何やかんやコイツも、俺に抱き締められるのは嬉しいのだろう。子供の頃は「お父さん抱っこしてぇ~!!」と騒がしかったくせに、何時から正直じゃなくなったんだろうか。俺は、少しだけ抱き締める力を強めた。

「それじゃあ、お袋達。そろそろローズに会いに行くわ。またな。」
「ああ、ローズを大事にしろよ。ローズを大事にしなかったら、俺が直々にお前のこと潰すからな。覚悟しろよ。」
「うるせぇな。そんなの言われなくたって大丈夫だから。何回目だよそれ言うの。少しは息子の言うこと信じろや。」
「分かってんなら、それでいい。じゃあな。」
「それじゃあね、ヒューマ。」
「ああ、じゃあな。」

 片手を振りながら息子は、夕日に溶け込むように去っていく。
 本当なら、一緒に飯を交わしたり、一緒に風呂に入ったりして語り合いたかったが、それをするのは可哀想だろう。彼奴にはローズがいるのだ。ローズとの時間を少しでも借りることが出来たと思えば、今のほんの10分にも満たないような時間でも満足出来る。でも、やはり名残惜しいなと思ってしまう……


 夕日の方から隣のマロンに目を向けると、マロンも同じく名残惜しそうにヒューマを抱き締めた手を見つめていた。小動物がおやつを取り上げられたような顔をするマロンを見て、俺はお茶を一口すする。
 
「そんなに名残惜しそうにするなって。……ヒューマだって、そろそろ冒険止めるんだろ?そうすれば、いくらでも会えるようになるさ。」
「そうですね。そろそろ孫に会える時期かもしれないし、その時は赤飯でも持っていってあげましょうか。」
「子供は一日で出来るんじゃなかったか?」
「い、いいんですよ。あの時のことは。いつまでネタにするんですか、もう。」
「そう怒るなって。」

 口にしたお茶を味わいながら、俺はやはり思う。
 お茶が旨いと。

 目の前の夕日はいつまでも堕ちることなどなさそうに、ほのかに暖かい光を放ちながら空にのんびりと浮かんでいた。
 
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