男女比の狂った世界は、今以上にモテるようです。

狼狼3

文字の大きさ
上 下
26 / 28

試合の応援⑤

しおりを挟む

「お口開けて一狼。はい、あーん♪」
「ん。唐揚げも美味しい。流石だね華。」
「じゃあ、私にもあーんして。」
「いいよ。口開けてーーー」

 箸で掴んだ唐揚げを、可愛く口を開けている華の口元に近付けると、それを見切ったかのようにお姉ちゃんが横から奪い取る。奪い取った後、よく味わうように食べているお姉ちゃんは可愛いらしいが、後のことを考えていない。華を見てみると、拳を握り締めている。

「もぐもぐ……一狼から貰った唐揚げは上手いな。そのままでも上手いが、やっぱり一狼からあーんをされると、何百倍にも美味しく感じる。」
「一狼のあーんを横取りするなって、何回も言ったでしょ!? 次奪ってきたら、近くにある木に縛りつけるよ?」
「だって、二人だけでイチャイチャしてるのずるいだろ!! それに、今日は私が頑張ったんだから、一狼からあーんされても問題はない。……ていうか、お母さんは一狼に付いてきただけで、何もしてなくない? なら、今のあーんは私が貰うのは当然。」
「………少し黙ろうか桜。」
「何で花恋が邪魔をするんだよ!!?お前も、どちらかと言えばこちら邪魔する側だろ!!」

 うん。何この空気。
 折角の食事中だというのに、まったく気が抜けない。
 女三人よればかしましいと言うが、その比では無いと思う。

 お姉ちゃんはともかく、花恋さんと華は笑っているように見えるのに、目が笑っていない。二人とも笑っていればとても可憐で美しいなと思うのに、今の二人はお互いがお互いを睨みつけていて、可憐や美しいと思うより先に威圧を感じて、この空気から逃れたいと思ってしまう。その構図は、俺が獲物だとして花恋獲物を巡って争っているようだ。獲物となっている俺は、そんな二人にびくびくとしている。

 二人の圧に挟まれる俺。流石に食事中でこの圧を感じるのはキツいので、その圧から逃れるように、俺は除け者となっているお姉ちゃんと話すことにした。

「ねぇねぇお姉ちゃん。後で一緒にサッカーしない?お姉ちゃん強かったし、勝負してみたいと思って。」
「お姉ちゃんとサッカーするのか一狼。いいぞ。お姉ちゃんと勝負をしよう。……ふへへ、サッカーでの激しいぶつかり合いは仕方ないよな。」

 何処か興奮した様子でこっちを見ると、頬を赤らめながら意地悪い顔で笑ってくるお姉ちゃん。
 
 やべ、滅茶苦茶やる気が失せた。
 この様子だと、絶対何かしてくるだろ。
 
 行動不能が一人と、修羅場を繰り広げる二人。
 そんな中で食べるご飯は、どうにも美味しいとは言えなかった。


■■■■■

「一狼君。パス。」
「うん。おっけー。」
「ちょっ!? 三人して私苛めるとか酷くないか。三対一で勝てる訳ないだろ。」
「いいじゃない。ゴールキーパーなんだから。三人くらい守ってみなさいよ。」
「無理に決まってるだろ!!ーーーー」

 お姉ちゃんの守るサッカーゴールに、俺は力を出来るだけ足に込めて思いっきりシュートをサッカーゴール目指してスピードが出るように蹴る。三対一でやっているので、サッカーゴールの周りにはお姉ちゃんしか居らず、一人だけ居るお姉ちゃんも華や花恋さんがサッカーゴールから少し離れた場所に引き付けているので、サッカーゴールは実質空だ。
 
 そんな俺の蹴ったボールは、ボールに込める力を誤ってサッカーゴールからボールが外れない限りシュートが決まらない訳ないので、俺の絶妙な力の込め方もあり、ネズミ花火が地面を動き回るように速いスピードで、サッカーゴールのネットがボールの勢いで跳ねた。

 サッカーゴールにボールが入ったのを見て、ボールを拾いに行っているお姉ちゃんを見て軽い優越感に浸っていると、尻に手のような感触を感じた後、何度か不馴れな手つきで何度か揉まれる。

「ご、ご、ごめんなさい!! ボールに夢中で、あまり周りが見えてなくて……」
「う、うん。ダイジョウブダヨ。」
「……」

 後ろからそう言われ、突然のことに言葉が片言になるが、大丈夫でないことは分かる。
 花恋さんはボールに夢中と言っているが、そのボールは俺が思い切り蹴飛ばした為にお姉ちゃんが拾いに行っている。花恋さんの言うボールというのは、一体何処にあるというのだろうか。今まで尻なんて触られたことが無い為、触られたことに驚いて言葉が片言になってしまったが、男の尻というのはこの世界では、前の世界でいう女性の胸と同じような物で触ってみたいと思うものなのだろうか。……解せぬ。

 後ろを振り向くと、鋭く目を細めながら花恋さんの手を睨み付ける華に、俺の尻を触った感触をもう一度味わうように、恍惚な表情で何も無い空中で嫌らしい手つきで手首を動かしながら指を曲げる花恋さん。この様子を見ると、先ほどの認識は合っていそうだ。……花恋さんと呼ぶのはやめて、変態と呼んだ方が正しくないかこれ?



 これ以上サッカーを続けると花恋さん変態に何かされると嫌な予感が脳裏をよぎった為、俺はサッカーを中止にすることにした。理由は、『食事の後の運動はあまり良くないからこれくらいで終わりにしよう』ということにしたが、主な理由は直感的な何かを感じたからだ。そう言うと、やはり狙っていたのか「もう少し触っておけばよかった……」とボソボソと悔やむように拳を作ってぶるぶると震わせながら呟く花恋さん変態と、三対一の構図の為思ったように悪意のある激しいぶつかりが出来ずに、俺にセクハラをすることが出来た花恋さんを恨めしそうに見つめるお姉ちゃん。
 
 子供が撫でてというように、シャンプーのほんのり甘い匂いが漂う繊細で滑らかな頭を、俺の胸にグリグリと押し付けてくる華の髪を形を崩さないように撫でながら、サッカーを中止した自分の判断に心の中で盛大な拍手を送った。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

貞操逆転世界に無職20歳男で転生したので自由に生きます!

やまいし
ファンタジー
自分が書きたいことを詰めこみました。掲示板あり 目覚めると20歳無職だった主人公。 転生したのは男女の貞操観念が逆転&男女比が1:100の可笑しな世界だった。 ”好きなことをしよう”と思ったは良いものの無一文。 これではまともな生活ができない。 ――そうだ!えちえち自撮りでお金を稼ごう! こうして彼の転生生活が幕を開けた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

シン・三毛猫現象 〜自然出産される男が3万人に1人の割合になった世界に帰還した僕はとんでもなくモテモテになったようです〜

ミコガミヒデカズ
ファンタジー
 気軽に読めるあべこべ、男女比モノです。  以前、私がカクヨム様で書いていた小説をリメイクしたものです。  とあるきっかけで異世界エニックスウェアに転移した主人公、佐久間修。彼はもう一人の転移者と共に魔王との決戦に挑むが、 「儂の味方になれば世界の半分をやろう」  そんな魔王の提案に共に転移したもう一人の勇者が応じてしまう。そんな事はさせないと修は魔王を倒そうとするが、事もあろうに味方だったもう一人の勇者が魔王と手を組み攻撃してきた。  瞬間移動の術でなんとか難を逃れた修だったが、たどり着いたのは男のほとんどが姿を消した異世界転移15年後の地球だった…。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

処理中です...