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家族③
しおりを挟む「少しの間ですが、ありがとうございました。」
「一狼君!!まだ、別に退院しなくてもいいんですよ?一狼君がいいなら、このままずっ………」
「一狼!!今日は家に帰ったら何しようか♪」
「それじゃあ皆さん。少しの間ですけど、本当にありがとうございました。」
「「「「いつでも歓迎してます!!」」」」
ナースさんに手を振られながらお世話になった病院を、母さんの運転する車に乗って去る。
俺がこの世界で目を覚ましてから、今日で八日経った。
どうやら俺は前の世界と同じで、女性が落とした花壇に頭をやられて病院に運ばれたらしく、 記憶障害や記憶喪失の疑いがある為、あの後検査やら何やらで管が何本も繋がっている機械で様々な検査をされたが、記憶喪失という扱いを受けているのに、何も俺の体に異常は無かった。何も異常は無いのでそのまま家に帰して貰ってもいいらしいのだが、一応様子見ということで一週間病院に居ることになり、大丈夫そうということでようやく今日退院となった。
病院に居る際、頬が紅く染まったナースさんが俺の食事や着替えなど様々なお世話をしてくるので、正直退院することが出来てよかった。俺が食べようとすれば、スプーンを使って俺にアーンをしてきようとしたり、俺一人で食べようとするとまるで俺を動物かのようにずっと見てきたりして、食べるという行為が嫌になりかけた。それに、着替えということで俺が軽くシャツになろうと上を脱ぐだけでナースさんが鼻血を出し、その鼻血が俺の服に付くなど落ち着く暇がなかった。
………まぁ、前の時と比べたらマシなのかもしれないが。
そんな俺は、母さんに連れられて家に向かっている。
母さんはどうやら人工受精で生んだらしく、家に父さんはいない。別に母さんが異常な訳ではく、これはこの世界の一般に当たる。夫が居るのは大企業の社長や、政府の官僚などの位の高い人や、もの凄い美貌を持つ美女か、もの凄い幸運で男と結ばれることが出来た人だけだ。
でも、父さんが居ない代わりに、俺には二つ上の姉と一つ下の妹がいるらしく、母さんとその二人と俺を含めて四人家族のようだ。
前の世界の俺は、兄弟は居らず一人っ子だった。
それに、家では毎日のように母や父が争っていて、旅行は勿論料理を作られたことは一度も無かったし、俺の飯はいつもスーパーの弁当だった。そんな家での生活はとても安心出来るものとはいえず寂しさに満ち溢れていた。母と父はお互いの悪いところを言うのに夢中で、俺に構うことなんてなくいつも俺は部屋の隅でゲームの日々。授業を聞くだけでテストで高点数を録れる俺だが、何とか褒めて貰いたくて必死に勉強して、小学生一年生の頃の全てのテストを満点で飾っても、両親は俺に構うことなくただ無視をした。
だから、俺は姉と妹が居る家に凄く期待している。
しかも、この世界の母さんは俺に話掛けたり突然倒れた俺を心配してくれたり、とても俺に構ってくれる。恐らく、男なのだからだろうが、それでも俺は初めて感じる親の愛情に満足していた。
直ぐ様変わる景色を眺めながら俺は窓から入る快い風を感じていると、対抗車線の車のバックミラーを通して俺の姿が一瞬映る。
ちなみに、この世界での俺の容姿は前世と全く同じ。
筋肉の付き方も同じで、前世鍛えた俺の腹筋は今も俺の腹に残っている。
簡単にいうと、超イケメンということだね。
前は容姿などどうでもよかったが、今回の世界は母さんが俺に愛情を注いでくれる理由の一つになっているのかと想像すると、このイケメンボディで良かったと初めて思う。
楽しそうに運転している母さんのことを見つめていると、母さんから声が掛かる。
「ねぇねぇ一狼。」
「ん?どうしたの母さん?」
「今日の夜ご飯何にする?母さん、美味しい寿司屋さん知ってるから、一狼さえよければ退院祝いにそこの店に行こうと思うんだけど。」
「うん。ありがとうお母さん。お寿司食べたい。」
「一狼がお礼を言ってくれたぁぁぁぁ!!」
お母さんが叫び声をあげ始めたかと思うと、車は変な軌道で走り始める。
この世界の男は、絶対に女に礼を言うことなどあり得ない。しかも、息子とは言え物凄いイケメンに言われたのだ。平常心を保てる女性など居ないだろう。
「酔いそうだから、もう少し普通に走って。」
「あああぁっ、ご、ごめんね一狼。母さん、嬉しさのあまり感覚が可笑しくなっちゃって。」
母さんは顔を紅く染めながら、ニヤニヤと嬉しそうな顔をしながら、軌道を戻して白い線の中に戻る。……この世界では、車にすら安全に乗れないようだ。いつ車がぶつかってもいいように、整えておかなければ。
母さんと会話をしながら数分。
病院のあったところから随分離れて、畑なとがよく見えるような少し町からは離れたところで、車のスピードが急速に遅くなり、その場に停止する。
俺の目の前には、以前住んでいた一軒家の三倍近い大きさを持つ、二階建ての家があった。
「とおちゃーく。一狼。家に着いたよ……って、一狼は記憶が無いから覚えてないか。ここが私と一狼のお家だよ?」
「……母さんって、もしかしてもの凄いお金持ち?こんな家、見たことないんだけど?」
「うーん。世間的に見たら少し上位な方だけど、お金持ちって訳じゃないよ?資産だって二十億近くしかないし、イケメンで優しい一狼を育てるとなったら最低でも百億は……」
うん。とりあえず、滅茶苦茶金持ちということだけは分かった。
………にしても、大きいなこの家。いくら、少し町から離れているとはいえ、この敷地の大きさでこの家はヤバイ。二億以上は絶対にしそうだな。そこらのマンションよりも高い気がする。それに、これが少し上位ってこの世界の金持ちはどれだけ金持ってんだよ。
俺は緊張しながらも、物凄い大きな家に入った。
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