他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

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「そ、そんな……わたくしは、そのような命令はしておりません!」

 オレーリアは驚きながら強く否定した。
 演技ではない。本当に、そんな覚えなどないのだ。

「リアンナ姫を殺せだなんて!」

 下女ではない、形上は王妃として迎えられた姫なのだ。それが表向き隠されていたとしても、簡単に殺していい相手ではない。

「そうだろうな。オレーリア、リアンナ姫はまるで下女のような格好をしていたよ」
「は? それは……っ!」

 オレーリアは口ごもったあとで、はっと気づいた。
 リアンナに下女の格好をさせたのはオレーリアである。そして王が会っていたのは、その後宮の下女なのだ。

「ま……さか……」
「そういうことだ。君が下女にし、その下女を殺せと命令したのだろう」
「め、命令など!」
「していないとしても、配下の不始末は致命的だ。君はこの国で最も高貴な女性を殺害したのだから」

 ルガーは、いつも輝くようなオレーリアの顔を見てきた。しかし今は、どんどんと輝きをなくし、ひきつり、青ざめていく。

「そ……そんなの知りませんわ! わたくしは、知りません!」
「知らないではすまされない」
「だいたい陛下が悪いのではないですかっ! 王としての器量もないくせに、女にうつつを抜かすなんて……っ!?」

「……そうか、それが本音か」
「へ、陛下……」
「わかった。まあ、いい。そう思うのであれば、これからも存分に、君の器量を使わせてもらおう」

 オレーリアは阿呆のように口を開き、閉じて、また開いた。

「国のために君を王妃にするべきだと考えたなら、そうする。しかし……俺が君を愛することはないだろう」
「そん……な……」
「しかし君は王妃の椅子を得ることができる。国のために身を粉にして働くというのなら、君の罪を一生忘れておく。それで、充分だろう?」
「……」
「最初の仕事はリアンナ姫の身代わりを立てることだな。君の不始末だが、俺も手伝ってやろう。何、簡単だ。王の名を持つものと、実権を持つ君の共同作業なのだから」

 オレーリアは絶望のような表情を浮かべ、人形のようにかくりとふらついた。
 ルガーは思う。彼女の中に、女として愛されたいという気持ちがあったのだろうか?
 それが叶えられることはない。

 そしてルガーは、自分が他の誰かを愛することもないだろうと思った。王が王妃以外に目を向けては、国を乱すことになりかねない。
 この国のために、とルガーは思う。
 贖罪のようなものだ。国のため、民のためと思いながら、ひとりの少女を切り捨てて、そのことに気づいてすらいなかったのだから。




「リアちゃーん! こっち助けてー!」
「はいはーい!」

 リアンナは呼ばれてすぐに飛んでいった。必要とされることが嬉しい。
 貴族にしては小さな、男爵家の屋敷である。使用人も少数なので、男爵夫人とともに何でもする。

 掃除洗濯料理。どれもリアンナは楽しい。頑張れば頑張るだけ褒めてもらえる。お給料はそんなに高くないが、今までろくに金銭を持ったことのないリアンナには新鮮すぎる。
 住むところもまかないもあるので、金の使い道は自由だ。次の休日にも買い物に行くのが楽しみだった。

 ひとつ気にかかるのは、こんな素敵な職場を紹介してくれたレニへの恩返しである。
 何を言っても「私は何も知りません、知りませんから、忘れてください!」と言うばかりなのだ。

(本当、優しい人ですよね。……そうだ、今度、お菓子を焼いて持って行きましょう。子沢山なおうちだから、そういうの喜んで貰えるんですよね!)

 リアンナの中に、もう城での暮らしの記憶はあまりない。後悔などももちろんない。これからの楽しみでいっぱいである。
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