他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

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「今日も洗濯だー!」

 いい天気です。洗濯物はたくさんあります。後宮にはたくさんの布が置きっぱなしになっていて、洗えばまだ使えそうなのです。古布として消費するにしても、きれいにするに越したことはありません。

 それにカーテン。
 たくさんのカーテンを洗えば、それだけ後宮内の空気がよくなっていきます。古いカーテンって、よく見るとすごく変な色になっちゃってるんですよね。匂いもちょっとするし。

 下女さん達には他にやることがたくさんあるので、少しずつでも私がやっていきましょう。自分の住処、自分できれいに。じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶ。

「せっせ、はい、はい」

 大きなカーテンは手で擦ってもきりがないので、足で踏んで全体の汚れを出してしまいます。手を動かすだけより、体を動かしていると大変だけど楽しいです。

「あおーい!」

 ぎゅっぎゅっしながら見上げると空がとてもきれいでした。それにずっと浴びていたい気持ちのいい風。うっかりすると倒れそうなので注意が必要です。何回かやってしまった実績があります。
 足元を見て、空を見て、ときどき水を取り替えます。そういえばどうして下女の皆さんは外で洗濯しないのでしょうか。外のほうが気持ちいいのに。

「……お嬢さん」
「あ、ルーさん……じゃない! どうかしましたか?」

 てっきりいつものルーさんかと思ったら、知らないおじいさんでした。見たことのない人ですが、とても困った顔をしています。

「すまないね、書類が風に飛ばされて、向こうの森の中に入ってしまったんだ。お礼はするから、一緒に探してくれないかね」
「えっ、書類が? それは大変ですね、早くしないと!」

 強風というほどではないですが、今日は少しの風があります。早く探さないとどこに飛んでいくかわかりません。
 私は急いでおじいさんと一緒に、指さされた森の方に向かいました。

「って、あれ森なんですね。木がたくさんあるとは思ってたんですけど」
「ああ、ああ。若い人は知らんかね、昔はこの後宮は、姫たちが逃げ出さないように森の中にあってねえ。今じゃあの部分だけ残ってるのさ」
「森があると逃げられないんですか?」
「そりゃあ、そうさ。森には凶暴な獣達が飼われていた」
「わあ、それは怖いですね。今もいるんでしょうか?」
「うふふっ、そういう話は聞かないねえ」

 それはそうでしょうね。全体像は見えませんが、こじんまりとした森に見えます。凶暴な獣が住むには小さそうです。
 それに近づいてみると、母国の城の裏手にあった森より、適度に間引かれていて光が通っています。
 これなら書類も見つけやすそうです。とりあえず見当たりませんが、どのへんなんでしょうか。

「でも事実はわかりゃしない。だから気をつけないと……ねぇっ!」
「えっ……!?」

 振り向いた瞬間に、おじいさんがナイフを持っているのが見えました。私は避けたというよりびっくりして、座り込むように姿勢を落としました。

 ナイフが頭の上を通り過ぎるのを他人事みたいに見ていると、衝撃に襲われました。

「ぐっ……ごほ……っ」

 お腹に重い痛み。蹴られた? おじいさんに?

 ……なんで?

「いい子なんだねえ、残念だねえ、お嬢ちゃん。どんないい子でも、オレーリア様を悲しませちゃあ、いけない。いけない子だ」
「オレー……リア、さ、ま……?」
「そうさ、ルガー陛下の隣にいることがオレーリア様の幸せだ。それを邪魔したんだから、命で償ってもらわなきゃな」
「邪魔……」
「あんたさえ来なきゃ、オレーリア様が王妃になるはずだったんだ! ああ、可哀想なオレーリア様。俺が幸せにしてやらなきゃあ……あの男の妻にさせるなど嫌だが、オレーリア様には一番いい椅子をご用意しなきゃ……」

 そんな……知りませんでした。
 オレーリア様が王妃に?
 私が来なければ?

 それじゃあ、オレーリア様は私を恨んでいるの?
 あんなによくしてくれたのに。私、私は……。
 言ってくれたら、私は……。

「まっ、そういうわけだ。あんたにはとびきり惨たらしく死んで、罪を償ってもらわなきゃなあ!」

 動けない。
 ナイフが、美しい太陽を反射して輝きました。私は痛みを予想して身を縮めました。どうして、こんな、知らない国で、私、
 こんなところで、

「ギャッ!?」

「リア、無事か!?」
「あっ……あ、あ、ルー、さん……!」
「無事だな!? 良かった……!」

 気づけばおじいさんは倒れていて、私はルーさんに抱きしめられていました。頼りになる体に触れて、私は体の力が抜け、今更のようにぶるぶると震えてきました。

 怖かった。
 助かった……?

「すまない、すまない、俺のせいだ」
「……ルーさんのせい、なんて……」
「話は聞こえた。オレーリアが、こんな……いや、彼女の指示があったかは、わからないが……」
「それなら……私が悪いんです」
「君は何も悪くない! ただ俺が、君を……」
「私が、王妃になんてなってしまったから」
「え…………?」
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