他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ

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9(悩む意地悪な侍女レニ)

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 ああ、なんてこと!

「リアンナの服を仕立てなさい。……とってもいいものをね?」
「は、はい」

 オレーリア様からの命令に私はぶるぶると震えました。
 その「とってもいいもの」とは、きっとひどいものを示すのでしょう。私はリアンナ様を泣かせるような、ひどいものを差し上げなければなりません。

 ……まったく思いつきません!
 ただでさえ「新しくひどいものを仕立てる」の意味がわからないのです。どんなひどいものだって、新しく仕立ててもらったら嬉しいものではないですか?
 我が男爵家はそれほど裕福ではないので、服を新しく仕立てることはそれだけで喜びです。趣味に合わなければ姉妹や親戚たちと融通し合えばいいですし……あ、リアンナ様にそのような方々はおりませんね。

 リアンナ様の趣味でないものといえば、ゴテゴテとした衣装でしょうか?
 いつも動きやすい格好を好んでおられます。

「ええ? でもそうなると、ずいぶん立派なご衣装になるんじゃないかねえ……?」
 相談した下女達も難しい顔をしています。

「オレーリア様にとっては、普通にいいものを用意しちゃってあのアバズレ!みたいなことになるんじゃ」
「あたしもそう思うよ」
「アバズレって」
「あはは、ご令嬢は言わないかあ」
「言わないですよ、もう!」

 真面目に考えて欲しいですが、声をあげたおかげで少し肩の力が抜けた気がします。
 とはいえ、いい案はまったく浮かんできません。オレーリア様はいったいどのようなひどいものを想像したのでしょうか。

「ふんふふ~~ん!」
「……」
「……」

 リアンナ様の部屋からは楽しげな鼻歌が聞こえてきます。

「……今日のお姿は……」
「あー、それがねえ。下女服も汚しちゃいけないって思ったのか、あの、みんなが持って帰ってる古布を縫い付けて……」
「あれそうなのかい? ずいぶん立派じゃないか」
「ちくちく縫ってたよー」

「な、なんですか、古布って」
「いやほら、捨てる布を、もったいないから」
「捨てるようなものをリアンナ様に!?」

 私はショックでくらくらと目眩がしました。リアンナ様は他国の姫なのです。いくら小国であっても、下女の扱いなどしてはいけないのです。
 ああ、ああ、私は大丈夫なのでしょうか。
 こんなの国家への背任ではないでしょうか?

 いえ、オレーリア様には逆らえません。でも告発された時、オレーリア様が守ってくださるとはとても思えません……。
 私は切り捨てられるだけです。

「うっ」
「あれまあレニ様、落ち着いて」
「もう最悪となったらほら、逃げましょうみんなで」
「そんなことはできません……! か、家族が……っ」

 痛む胃を押さえながら私は、なんとか良案を探します。オレーリア様が望むようなひどくて、リアンナ様が喜ぶような……。
「……待ってください。それっていつものことですね」
「そっすね」

 私は少し冷静になりました。
「わかりました。リアンナ様は下女服に古布を縫い付けて使用しているのですね?」
「そうなんですよ。ちょっと見てください、ほら、そっと」
「そんな、覗き見なんて」
「いいじゃないですか、扉は開いてるんだし」

 それもそうです。普通、貴人の部屋は滅多なものが入れないように閉じられていますが、リアンナ様は朝起きるなりすべての窓と扉を開いていくようなお方です。

「ほらほら」
「本当……に……」

 ちょっと泣きたくなるような光景でした。
 リアンナ様の下女服には、古布が丁寧に縫い付けられています。それをお一人でされたのは素晴らしいのかもしれませんが、実に……作業服という作業服になっています。
 下女服とはいえ城のお仕着せは、平民の憧れになるようなものなのですが。
 リアンナ様はまったく気にしていないようです。

「……わかりました。では、とても高級な布地で、平民のような衣装を仕立てましょう。そのような趣味の貴族女性もいますから……」
「レニ様! そりゃいい考えだよ!」
「一応は金をかけてるんなら、あとあと不敬罪ってこともないだろ」
「帳簿上はそりゃあいい仕立てになるだろうねえ」

 私はようやく微笑むことができました。がんばれば光は差すのです。
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