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「ええと、姫は身の回りのことも自分でできるので」
「なるほどなあ。それはずいぶん……働き者だ」
「そんなことないですよ! 人質ですからね」
私はそう言ってしまったあとで、慌てて訂正しました。
「……と、姫はご自覚されているようです!」
実質は人質とはいえ、この国の王様に嫁いだことになっています。それが私みたいな一般人だなんて、言わない方がいいですよね。秘密になっているみたいだし。
「ほう……人質のような扱いを……?」
ルーさんは顔をしかめました。ああ、これはこれで王様の評判に差し障りますね。
「えーっと、いえ、そんなことはなくて、充分によくして頂いていると」
「しかし人質、か……」
「うるさい上司もいないし、ご飯もおいしいし、運動もできるしで、問題ないそうです」
「うるさい上司?」
目を丸くされて、そういえばお姫様に上司ってものは普通いないんだと思い出しました。
「ああ、その……姫がそう言ったわけじゃなくて……」
「ふっ、なるほどな、姫は家族とあまり交流がなかったようだからな。姫にとって王族は従うべき上司、か……」
「え、あ、はあ」
王族にはあまり会ったことがないので、上司という感覚はないです。でもまあ、上司の上司の上司くらいなので上司でしょうか。
納得してもらったのはいいですが、そういえば、ルーさんのご主人さまは会いたいと言ってるんでしたっけ。
あんまり気が乗りません。会いたくないと思ってほしいです。
向こうにいたころも、いたんですよね。なんか良くしてくれるなと思ったら、一応姫だから便宜を図ってほしくて、それが無理だと知ると怒り出すみたいな人。
「でもルーさんのご主人様には、会わせない方がいいですよ。姫様は全然、普通の人なんで」
「うーん、だが、我が主人はそういうのがいいみたいでな。ほら、普段は貴族とばかり関わっているから」
「そりゃまた変な人ですね……」
「ぶっ、くく、そうだな、変な人だ」
「困りますよね」
上の人は上の人らしく、下々には関わらないでいてほしいものです。
変に関わられるとめんどくさいことになったりするのです。
「ルーさん、いい感じに、興味を持たない感じに伝えといてくれません?」
「……しかし、君も姫に仕えているのだろう? 姫が良い縁を得たほうが良いんじゃないかと思うが」
「良い縁……」
「こう言ってはなんだが、まあ、人質みたいな状態というくらいには、王様にはリアンナ姫と仲良くする気はなさそうだから」
「うーん……それはそうだと思いますけど……」
やっぱり仲良くする気はないんですね。
ちょっとほっとしました。人質としてひっそりここにいれば大丈夫みたいです。
けど、良縁を掴むのはどうなんでしょうか。
それ許されるほどゆるゆるなんでしょうか?
もしかして放って置かれてるのも、勝手にどっか行って良いってことなんでしょうか。
でもご飯は美味しいんですよね。
「君にもついでに良縁があるかもしれない」
「私はそういうの、まだいいですね。先のことはわかんないですけど、今は元気だし、もっと他に楽しいことありそうに思うので」
大きくなったら城を出て新しい人生、と思ってた予定が崩されたので、先のことはあまり考えていませんでした。
でもそっか、出て行ってもいいなら、そうしたほうがいい、のかも?
新しい人生かも?
ああでも、この国のこともっと知ってからじゃないとさすがに怖いです。
「そう、か……? だが……」
ルーさんはなぜか困ったような態度です。ご主人様はよほど私に期待してたのでしょうか。よけい見ない方がいいです確実に。
「偉い人って、他に楽しいことないんですか?」
「ぶっ! はは、まあ、そうみたいだな。そうそう自由に動けるわけでなし」
「ああー……」
偉い人達も偉い人達で不自由です。私も王の子なんて生まれがあるせいで、城で育つしかなかった上に、この国に連れてこられたわけです。
ルーさんのご主人さまも、もしかしたらそのくらい半端な立場なのかも。
「リアンナ姫はご不便はなさそうかい? よければなにか差し入れを、と、主人が言っていたんだが」
「特に不満はないみたいですよ、今のところ」
「何も?」
「うーん……」
完全に満足しているかというと、そこまでではないです。私だってもっと上を目指す気持ちがありますよ。
でもとりあえず欲しいものは、ないかな。
いえ何でもいいならあるんですよね。洗剤とか裁縫道具とか、下女服だって勝手に借りてるものだから、できれば洗い替えも欲しいなあとか思っています。
けどそれ、姫に贈り物するって感じじゃないですよね。変な姫すぎてまた興味を引いたら嫌です。
普通は服とか?
「……そういえば、こっちは向こうより暖かいので、薄物があると嬉しいかも」
仕事をしてないときはあの下女服を着るわけにはいかないので、変に重いドレスしかないんです。
「そうか! わかった、すぐに手配しよう」
「え? ええ、いえ、はあ」
「そのくらいのこと、侍女に言えばいいと思うが、姫君は遠慮深い方のようだな」
「……そうですかね」
レニさんも大変そうですから、人質の分際で、ちょっとあまり図々しいことは言えません。
「ないならないで、なんとかすると思いますが」
「ああ……まあ、三年でお帰りになるかもしれないからな」
「三年?」
「……知らなかったのか?」
ルーさんは少し気まずそうな顔をしました。
初耳です。期限があるなんて聞いたこともありませんでした。というか、ろくに何も教えられていないのですが。
「三年って何ですか?」
「いや……うん、君も知ってたほうがいいかもな。内密だが、お子ができなかった場合、三年でお帰りになるのだそうだ」
「……そ……」
「だから、三年後の身の振り方は考えておいたほうがいい。なんなら……」
ルーさんが何か言っていますが、私の耳には届きませんでした。
三年!
そんな約束になっていたなんて。
三年後には私も大きくなっているでしょうし、このお城を出て働き先を探しましょう。わくわくしてきました。楽しみ。
でも三年ですか。
そう考えると三年って長いですよね。三年かあ。
でも三年後に出て行っていいって、それ人質として無意味じゃないでしょうか。もうさっさと出ていった方が、やっぱりお互いのために良くないでしょうか?
「なるほどなあ。それはずいぶん……働き者だ」
「そんなことないですよ! 人質ですからね」
私はそう言ってしまったあとで、慌てて訂正しました。
「……と、姫はご自覚されているようです!」
実質は人質とはいえ、この国の王様に嫁いだことになっています。それが私みたいな一般人だなんて、言わない方がいいですよね。秘密になっているみたいだし。
「ほう……人質のような扱いを……?」
ルーさんは顔をしかめました。ああ、これはこれで王様の評判に差し障りますね。
「えーっと、いえ、そんなことはなくて、充分によくして頂いていると」
「しかし人質、か……」
「うるさい上司もいないし、ご飯もおいしいし、運動もできるしで、問題ないそうです」
「うるさい上司?」
目を丸くされて、そういえばお姫様に上司ってものは普通いないんだと思い出しました。
「ああ、その……姫がそう言ったわけじゃなくて……」
「ふっ、なるほどな、姫は家族とあまり交流がなかったようだからな。姫にとって王族は従うべき上司、か……」
「え、あ、はあ」
王族にはあまり会ったことがないので、上司という感覚はないです。でもまあ、上司の上司の上司くらいなので上司でしょうか。
納得してもらったのはいいですが、そういえば、ルーさんのご主人さまは会いたいと言ってるんでしたっけ。
あんまり気が乗りません。会いたくないと思ってほしいです。
向こうにいたころも、いたんですよね。なんか良くしてくれるなと思ったら、一応姫だから便宜を図ってほしくて、それが無理だと知ると怒り出すみたいな人。
「でもルーさんのご主人様には、会わせない方がいいですよ。姫様は全然、普通の人なんで」
「うーん、だが、我が主人はそういうのがいいみたいでな。ほら、普段は貴族とばかり関わっているから」
「そりゃまた変な人ですね……」
「ぶっ、くく、そうだな、変な人だ」
「困りますよね」
上の人は上の人らしく、下々には関わらないでいてほしいものです。
変に関わられるとめんどくさいことになったりするのです。
「ルーさん、いい感じに、興味を持たない感じに伝えといてくれません?」
「……しかし、君も姫に仕えているのだろう? 姫が良い縁を得たほうが良いんじゃないかと思うが」
「良い縁……」
「こう言ってはなんだが、まあ、人質みたいな状態というくらいには、王様にはリアンナ姫と仲良くする気はなさそうだから」
「うーん……それはそうだと思いますけど……」
やっぱり仲良くする気はないんですね。
ちょっとほっとしました。人質としてひっそりここにいれば大丈夫みたいです。
けど、良縁を掴むのはどうなんでしょうか。
それ許されるほどゆるゆるなんでしょうか?
もしかして放って置かれてるのも、勝手にどっか行って良いってことなんでしょうか。
でもご飯は美味しいんですよね。
「君にもついでに良縁があるかもしれない」
「私はそういうの、まだいいですね。先のことはわかんないですけど、今は元気だし、もっと他に楽しいことありそうに思うので」
大きくなったら城を出て新しい人生、と思ってた予定が崩されたので、先のことはあまり考えていませんでした。
でもそっか、出て行ってもいいなら、そうしたほうがいい、のかも?
新しい人生かも?
ああでも、この国のこともっと知ってからじゃないとさすがに怖いです。
「そう、か……? だが……」
ルーさんはなぜか困ったような態度です。ご主人様はよほど私に期待してたのでしょうか。よけい見ない方がいいです確実に。
「偉い人って、他に楽しいことないんですか?」
「ぶっ! はは、まあ、そうみたいだな。そうそう自由に動けるわけでなし」
「ああー……」
偉い人達も偉い人達で不自由です。私も王の子なんて生まれがあるせいで、城で育つしかなかった上に、この国に連れてこられたわけです。
ルーさんのご主人さまも、もしかしたらそのくらい半端な立場なのかも。
「リアンナ姫はご不便はなさそうかい? よければなにか差し入れを、と、主人が言っていたんだが」
「特に不満はないみたいですよ、今のところ」
「何も?」
「うーん……」
完全に満足しているかというと、そこまでではないです。私だってもっと上を目指す気持ちがありますよ。
でもとりあえず欲しいものは、ないかな。
いえ何でもいいならあるんですよね。洗剤とか裁縫道具とか、下女服だって勝手に借りてるものだから、できれば洗い替えも欲しいなあとか思っています。
けどそれ、姫に贈り物するって感じじゃないですよね。変な姫すぎてまた興味を引いたら嫌です。
普通は服とか?
「……そういえば、こっちは向こうより暖かいので、薄物があると嬉しいかも」
仕事をしてないときはあの下女服を着るわけにはいかないので、変に重いドレスしかないんです。
「そうか! わかった、すぐに手配しよう」
「え? ええ、いえ、はあ」
「そのくらいのこと、侍女に言えばいいと思うが、姫君は遠慮深い方のようだな」
「……そうですかね」
レニさんも大変そうですから、人質の分際で、ちょっとあまり図々しいことは言えません。
「ないならないで、なんとかすると思いますが」
「ああ……まあ、三年でお帰りになるかもしれないからな」
「三年?」
「……知らなかったのか?」
ルーさんは少し気まずそうな顔をしました。
初耳です。期限があるなんて聞いたこともありませんでした。というか、ろくに何も教えられていないのですが。
「三年って何ですか?」
「いや……うん、君も知ってたほうがいいかもな。内密だが、お子ができなかった場合、三年でお帰りになるのだそうだ」
「……そ……」
「だから、三年後の身の振り方は考えておいたほうがいい。なんなら……」
ルーさんが何か言っていますが、私の耳には届きませんでした。
三年!
そんな約束になっていたなんて。
三年後には私も大きくなっているでしょうし、このお城を出て働き先を探しましょう。わくわくしてきました。楽しみ。
でも三年ですか。
そう考えると三年って長いですよね。三年かあ。
でも三年後に出て行っていいって、それ人質として無意味じゃないでしょうか。もうさっさと出ていった方が、やっぱりお互いのために良くないでしょうか?
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