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なんて素晴らしい生活でしょうか。
「上司が! いない! 職場!」
母さん、リアンナは自由です。
鼻歌まじりに掃除をしても、大股開きで洗濯をしても許されるのです。最高!
「……まあちょっと、やりすぎですね!」
好きなようにしたら満足したので、真面目に業務に入ります。こうして衣食住を頂いているのですから、そのぶんお返しはしなければなりません。
私が暮らす部屋はもちろん私の領分ですが、それ以上やってこその仕事。だいたいこの後宮という場所はとても広いのです。
先輩方も大変そうにしていらっしゃいます。
「ルッカ先輩、お疲れ様です!」
「えっ!? え、あ、はい、お疲れ様です……」
「今日も顔色悪いですよ。休んでたほうが良くないです?」
「そ、そういうわけにはいきません!」
ルッカ先輩はぶるぶる震えています。
他の先輩方もそうです。過酷な労働のせいだと思っていたのですが、もしかして、私のことが嫌いなのかと思い始めてきました。
何せ私は人質です。
関わりたくないのかもしれません。
「……ごめんなさい、こっちで仕事してますね」
ちょっとしょんぼりしました。
が、この程度でめげていては人質なんてやっていられません。下女さんは何人もいるので、頑張っていたらそのうち一人くらい仲良くしてくれるかもです。どこにでも変な人はいるからね!
母国で使用人生活していたときも、時々、下女さんの配置換えや一斉入れ替えなんかがあって誰とも仲良くできないことがありました。
でも、がんばって変なひとを捕まえればそれなりに楽しくやっていけます。
「ん、ん、ん~、んっ、しっろい、ふっくは、てんし~さん~」
その変な仲間のひとりに教えてもらった洗濯の歌を口ずさみつつ、リズムに合わせて擦る、擦る、擦る! 布地を傷つけない! 強さで!
でも汚れは取れる強さで!
優しく!
しつこく!
「くっく、くっろーいふっくは、ふっくろうさーん……、あ、すみません!」
「ヒィッ!?」
すごく怯えられました。ちょっと声をかけただけなのに……。
「あのう、水はどこに汲みにいけば?」
「に、にわの、にわ、にわにわ」
「にわとりが?」
「すっ、す、すいろが」
あるみたいです。
それ以上聞くのも申し訳ない気になったので、私は新しい水を求めて、タライ片手に外へと向かいました。
っていうか、外に出るの初めてだ!
わくわくです!
「こんにちは!」
「……ちわっす」
衛兵さんに挨拶をしました。
後宮の中には女の人しかいないので、男の人を久しぶりに見た気がしました。今の後宮は下女さんと人質の私しかいないみたいなんだけど、男子禁制の伝統ってやつですね。
「あれ、新人さんかい?」
「そんな感じです! 水はどこで汲むんですか?」
「あっちの水路。もう使われない後宮に新人なんて珍しいねえ……ああ、あれか、今度ロキスタの王女が嫁いでくるっていう?」
「うーん、そのへんは微妙なんで……」
「だよなあ。言えないよなあ」
衛兵さんは笑って「若いのにしっかりしてるな」と褒めてくれました。やったね!
まあ実は微妙なので微妙と言っただけです。嫁ぐって言ったってその実質は人質だし、その人質にしたって、伝統みたいなものらしいです。じゃなきゃ私でよしとはならないだろうし、外にだって出られなかったでしょう。
嫁いできたことさえ内緒にされてるみたいだし。
「あー、いい風」
どこでも風は同じです。私は少しだけぼんやり、母国で優しくしてくれた人たちを思いました。急なことだったのでお別れもあまり言えてません。
きっと二度と会えないでしょう。
「……んっ! ま、しょうがないね!」
どのみち成人したら城を出ようと思ってたので、そうしたらお別れでした。城づとめなんて優秀な人がするべきだし。
なんにもできない私は、あのままだったら何することになってたかなあ。
やっぱりまず掃除洗濯で雇ってくれるとこを探して……。
大変だっただろうなあ。
ここにいれば食事の心配はいりません。
美味しいし!
急に嫁げと言われたときは驚きましたが、幸運だったのかもしれません。
「ふん、ふふん。あ、これね!」
水路を見つけ出した私は、さっそくタライで水を掬おうとして、
「ちょ……っと、高いな……っ」
身を乗り出さないと掬えない感じです。空のタライはまだしも、水でいっぱいになったタライを持ち上げるのは不安があります。
「んんん」
とはいえ、やらねばならないでしょう。
大丈夫、いけるいける。
根拠のない励ましを自分にしつつ、私はタライに水を入れ、よーーいしょっと持ち上げ、
「あ」
ぐらっとよろめきました。
「あっ、あ」
「危ない!」
「……っ」
水没することを覚悟したのに、ぐっと腕を掴まれ、そのまま斜めに止まりました。
「上司が! いない! 職場!」
母さん、リアンナは自由です。
鼻歌まじりに掃除をしても、大股開きで洗濯をしても許されるのです。最高!
「……まあちょっと、やりすぎですね!」
好きなようにしたら満足したので、真面目に業務に入ります。こうして衣食住を頂いているのですから、そのぶんお返しはしなければなりません。
私が暮らす部屋はもちろん私の領分ですが、それ以上やってこその仕事。だいたいこの後宮という場所はとても広いのです。
先輩方も大変そうにしていらっしゃいます。
「ルッカ先輩、お疲れ様です!」
「えっ!? え、あ、はい、お疲れ様です……」
「今日も顔色悪いですよ。休んでたほうが良くないです?」
「そ、そういうわけにはいきません!」
ルッカ先輩はぶるぶる震えています。
他の先輩方もそうです。過酷な労働のせいだと思っていたのですが、もしかして、私のことが嫌いなのかと思い始めてきました。
何せ私は人質です。
関わりたくないのかもしれません。
「……ごめんなさい、こっちで仕事してますね」
ちょっとしょんぼりしました。
が、この程度でめげていては人質なんてやっていられません。下女さんは何人もいるので、頑張っていたらそのうち一人くらい仲良くしてくれるかもです。どこにでも変な人はいるからね!
母国で使用人生活していたときも、時々、下女さんの配置換えや一斉入れ替えなんかがあって誰とも仲良くできないことがありました。
でも、がんばって変なひとを捕まえればそれなりに楽しくやっていけます。
「ん、ん、ん~、んっ、しっろい、ふっくは、てんし~さん~」
その変な仲間のひとりに教えてもらった洗濯の歌を口ずさみつつ、リズムに合わせて擦る、擦る、擦る! 布地を傷つけない! 強さで!
でも汚れは取れる強さで!
優しく!
しつこく!
「くっく、くっろーいふっくは、ふっくろうさーん……、あ、すみません!」
「ヒィッ!?」
すごく怯えられました。ちょっと声をかけただけなのに……。
「あのう、水はどこに汲みにいけば?」
「に、にわの、にわ、にわにわ」
「にわとりが?」
「すっ、す、すいろが」
あるみたいです。
それ以上聞くのも申し訳ない気になったので、私は新しい水を求めて、タライ片手に外へと向かいました。
っていうか、外に出るの初めてだ!
わくわくです!
「こんにちは!」
「……ちわっす」
衛兵さんに挨拶をしました。
後宮の中には女の人しかいないので、男の人を久しぶりに見た気がしました。今の後宮は下女さんと人質の私しかいないみたいなんだけど、男子禁制の伝統ってやつですね。
「あれ、新人さんかい?」
「そんな感じです! 水はどこで汲むんですか?」
「あっちの水路。もう使われない後宮に新人なんて珍しいねえ……ああ、あれか、今度ロキスタの王女が嫁いでくるっていう?」
「うーん、そのへんは微妙なんで……」
「だよなあ。言えないよなあ」
衛兵さんは笑って「若いのにしっかりしてるな」と褒めてくれました。やったね!
まあ実は微妙なので微妙と言っただけです。嫁ぐって言ったってその実質は人質だし、その人質にしたって、伝統みたいなものらしいです。じゃなきゃ私でよしとはならないだろうし、外にだって出られなかったでしょう。
嫁いできたことさえ内緒にされてるみたいだし。
「あー、いい風」
どこでも風は同じです。私は少しだけぼんやり、母国で優しくしてくれた人たちを思いました。急なことだったのでお別れもあまり言えてません。
きっと二度と会えないでしょう。
「……んっ! ま、しょうがないね!」
どのみち成人したら城を出ようと思ってたので、そうしたらお別れでした。城づとめなんて優秀な人がするべきだし。
なんにもできない私は、あのままだったら何することになってたかなあ。
やっぱりまず掃除洗濯で雇ってくれるとこを探して……。
大変だっただろうなあ。
ここにいれば食事の心配はいりません。
美味しいし!
急に嫁げと言われたときは驚きましたが、幸運だったのかもしれません。
「ふん、ふふん。あ、これね!」
水路を見つけ出した私は、さっそくタライで水を掬おうとして、
「ちょ……っと、高いな……っ」
身を乗り出さないと掬えない感じです。空のタライはまだしも、水でいっぱいになったタライを持ち上げるのは不安があります。
「んんん」
とはいえ、やらねばならないでしょう。
大丈夫、いけるいける。
根拠のない励ましを自分にしつつ、私はタライに水を入れ、よーーいしょっと持ち上げ、
「あ」
ぐらっとよろめきました。
「あっ、あ」
「危ない!」
「……っ」
水没することを覚悟したのに、ぐっと腕を掴まれ、そのまま斜めに止まりました。
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