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4(レニと下女達)
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「ど、どうすれば……」
「レニ様、オレーリア様は何て?」
「どうしてあんな楽しそうに洗濯できるんでしょうか!? あ、あんなに山程押し付けたのに……」
「ていうかあたし達より早くないですか!?」
「皺伸ばしが最高に上手くて、わたし……もう……やっていく自信が……」
「落ち着きなさい」
涙ぐんでいる下女達を前に、私が動揺するわけにはいきません。できるだけ威厳を出して言いました。
オレーリア様にとってはつまらない私ですが、父は男爵位を持っており、下女達にとっては従うべき相手なのです。
不安にさせないことが上に立つものの勤めです。
ああ、でも……はあ……。オレーリア様なんて私をいじめて喜んでますけどね。でもオレーリア様に睨まれては、お父さまの立場も風前の灯です。
しっかりしなければ。
「オレーリア様にはこのままお伝えします」
「そ、そんなっ」
「私達、クビに……」
私のひとことで下女たちはもう泣き始めています。同じ立場の者が集まっているせいで、不安が増殖しているようです。
「このままです。つまり、リアンナ様は下女服を着て、這いつくばって床の掃除をした、と。それで満足なさるはずです」
オレーリア様はリアンナ様が平民のような姫だと知っています。それでも、さすがに大喜びで掃除洗濯をするなど思わない……はずです!
だから話を上手くもっていけば、嘘をつかなくても喜んでくださるはずなのです。
「で、でもオレーリア様は、姫君が泣き暮らしている、みたいな話を聞きたがりますよ、きっと」
「そ、それは……まあ……」
下女たちは目を合わせて「そうね」「そうよね」と頷きあっています。
「思い通りにならなくて癇癪を起こして、みたいの、絶対欲しがりますよ」
「そしたら嘘をつくんですか?」
「レニ様、嘘が下手なのに……」
「う、嘘くらいつけますっ!」
「無理ですよ。あたしらだって無理ですもん!」
「オレーリア様に睨まれると、逆らえなくて……」
「嘘なんて……そんな、ああ、恐ろしい……」
「そんなこと言われたって……っ! 私の方がっ、泣きたいです! ううっ」
「あー! レニ様、泣かないでくださいよ」
「泣いてなんていませんっ!」
「泣いてますってば。ほら、拭いて」
「うっ、うっ」
みっともないと思いますが涙が止まりません。いったいどうしろというのですか。
こうしている間にも、リアンナ様は楽しく掃除をしているのです。しつこい汚れが取れたときの笑顔はすごくかわいいです。
だいたい童顔なのです。
身長も低いのです!
楽しそうに仕事をしている子供です。そんなひどいことが出来るわけがありません。私には無理なのです、無理なのです。
でもやらなければ、私にも守るべきものがあります。
「ぶしっ」
「あーあ、ちょっと、それ洗濯して返してくれます?」
「ずびばせん……」
「まあいいですけど。わかりました、腹をくくりましょう。あののんきな姫様を思うと馬鹿らしくなってきたよ」
「あたしも……」
「……そうですね」
ひとしきり嘆いて落ち着いてきました。
ああ、お一人で見知らぬ国に来たというのに、あの図太さは何なのでしょうか。子供ゆえの柔軟さなのでしょうか。
羨ましいです。
「まあ、クビになってもどっか働き先はありますよ」
「ええ……」
そうと信じるしかありません。
「レニ様はだから落ち着いて、オーレリア様にいい感じに報告してください」
「私にできるでしょうか」
「できますよ!」
「練習しましょう! あたしをオーレリア様と思って!」
「いや、そりゃ無理があるだろ」
皆も不安な立場だろうに、私を励ましてくれます。
ならば私も上司としてやるべきことをやらなければ。
「何言ってんだい、あたしもお貴族様も同じ人間じゃないのさ!」
「ちょっと、声が大きいよッ!」
「……!」
「……は~、お互い気をつけようね、そこは」
いい人たちですが、立場の弱い人たちです。
お互い、脅されて仲間を売らないという自信がありません。ならばそれぞれが気をつけて、間違ってもオレーリア様の悪口など言わないようにしなければ。
「レニ様、オレーリア様は何て?」
「どうしてあんな楽しそうに洗濯できるんでしょうか!? あ、あんなに山程押し付けたのに……」
「ていうかあたし達より早くないですか!?」
「皺伸ばしが最高に上手くて、わたし……もう……やっていく自信が……」
「落ち着きなさい」
涙ぐんでいる下女達を前に、私が動揺するわけにはいきません。できるだけ威厳を出して言いました。
オレーリア様にとってはつまらない私ですが、父は男爵位を持っており、下女達にとっては従うべき相手なのです。
不安にさせないことが上に立つものの勤めです。
ああ、でも……はあ……。オレーリア様なんて私をいじめて喜んでますけどね。でもオレーリア様に睨まれては、お父さまの立場も風前の灯です。
しっかりしなければ。
「オレーリア様にはこのままお伝えします」
「そ、そんなっ」
「私達、クビに……」
私のひとことで下女たちはもう泣き始めています。同じ立場の者が集まっているせいで、不安が増殖しているようです。
「このままです。つまり、リアンナ様は下女服を着て、這いつくばって床の掃除をした、と。それで満足なさるはずです」
オレーリア様はリアンナ様が平民のような姫だと知っています。それでも、さすがに大喜びで掃除洗濯をするなど思わない……はずです!
だから話を上手くもっていけば、嘘をつかなくても喜んでくださるはずなのです。
「で、でもオレーリア様は、姫君が泣き暮らしている、みたいな話を聞きたがりますよ、きっと」
「そ、それは……まあ……」
下女たちは目を合わせて「そうね」「そうよね」と頷きあっています。
「思い通りにならなくて癇癪を起こして、みたいの、絶対欲しがりますよ」
「そしたら嘘をつくんですか?」
「レニ様、嘘が下手なのに……」
「う、嘘くらいつけますっ!」
「無理ですよ。あたしらだって無理ですもん!」
「オレーリア様に睨まれると、逆らえなくて……」
「嘘なんて……そんな、ああ、恐ろしい……」
「そんなこと言われたって……っ! 私の方がっ、泣きたいです! ううっ」
「あー! レニ様、泣かないでくださいよ」
「泣いてなんていませんっ!」
「泣いてますってば。ほら、拭いて」
「うっ、うっ」
みっともないと思いますが涙が止まりません。いったいどうしろというのですか。
こうしている間にも、リアンナ様は楽しく掃除をしているのです。しつこい汚れが取れたときの笑顔はすごくかわいいです。
だいたい童顔なのです。
身長も低いのです!
楽しそうに仕事をしている子供です。そんなひどいことが出来るわけがありません。私には無理なのです、無理なのです。
でもやらなければ、私にも守るべきものがあります。
「ぶしっ」
「あーあ、ちょっと、それ洗濯して返してくれます?」
「ずびばせん……」
「まあいいですけど。わかりました、腹をくくりましょう。あののんきな姫様を思うと馬鹿らしくなってきたよ」
「あたしも……」
「……そうですね」
ひとしきり嘆いて落ち着いてきました。
ああ、お一人で見知らぬ国に来たというのに、あの図太さは何なのでしょうか。子供ゆえの柔軟さなのでしょうか。
羨ましいです。
「まあ、クビになってもどっか働き先はありますよ」
「ええ……」
そうと信じるしかありません。
「レニ様はだから落ち着いて、オーレリア様にいい感じに報告してください」
「私にできるでしょうか」
「できますよ!」
「練習しましょう! あたしをオーレリア様と思って!」
「いや、そりゃ無理があるだろ」
皆も不安な立場だろうに、私を励ましてくれます。
ならば私も上司としてやるべきことをやらなければ。
「何言ってんだい、あたしもお貴族様も同じ人間じゃないのさ!」
「ちょっと、声が大きいよッ!」
「……!」
「……は~、お互い気をつけようね、そこは」
いい人たちですが、立場の弱い人たちです。
お互い、脅されて仲間を売らないという自信がありません。ならばそれぞれが気をつけて、間違ってもオレーリア様の悪口など言わないようにしなければ。
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