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「おまえに気を使ってんだよ。恥ずかしくねえのかよ、女に我慢させて!」
「……我慢してる?」
「う、うん……まあ?」
「どういう我慢?」
「なんというか、暴れ出したいというか……」
「……それはすまない。もう少しだけここにいてほしい」
「も、もちろんだ。婿殿がそうしてほしいというなら、そうする」
ああ、どこまでが演技かわからない。
しかしリエレの予想通りに、エンゼンはどんどん興奮しているようだ。
「そいつはグランノットの女だ! とびきり強い女だ! それをっ……そんな、ただの女扱いするだと……許されねえぞ、そんなことは!」
「君に許してもらわなくても、姫は俺の妻だよ」
妻。
ヴェネッダはその言葉に、いよいよ顔が熱くてたまらなくなった。しかし冷静になろう。ならなければ。
そうだ、そろそろエンゼンに気をつけた方がいい。なんでこんなことになっているのかわからないが、喧嘩っ早いのだから、リエレに殴りかかってくるかもしれない。振り返ろうか?
でもいつの間にか、リエレの腕がしっかり背に回っている。振り払いたくない。
「そんな不相応な話があるか、認められるかっ、誰が認める、おまえなんかはせいぜいヴィネにくっついたコブだ。身の程を知れ!」
「残念ながら、わきまえるべきは君だよ。どんな理があって、姫が認めた夫を認めないと言う?」
「そいつと結婚するのは俺だった!」
エンゼンの言葉はまるで子供のもののようだ。静まっていた宴はいよいよ、耳の痛いほどシンとなった。
そしてヴェネッダの頭もいったん真っ白になり、振り返って彼を見た。
「それはどういうことだ?」
「どうもこうもねえ! そうと決まってたんだ、ヴェネだってそのつもりだった! それを後から邪魔しやがって、ありえねえ、ありえねえだろ!」
「姫、彼と結婚するつもりだった?」
「いや?」
「なっ……!?」
何を驚いているのだろうか。
ヴェネッダの方が驚きたいくらいだ。
「エンゼン、当たり前だろう。お前、小さい頃から私は女に見えないと何度も言っていたじゃないか」
「そっ、そんなの……」
「それでもお前と結婚したいと思うほど私は傲慢ではないし、被虐趣味もないからお前を好きになったりしないぞ」
物心ついた頃からの幼馴染なので、出会いの記憶もない。ヴェネッダにとってエンゼンは、自分を男女と呼ぶ友人である。幼馴染は他にもたくさんいるので、わざわざエンゼンを好きになったりしない。
ヴェネッダの初恋は、確か行商に来た名も知らないお兄さんだ。客商売なのでとにかく優しく口がうまく、グランノットの男たちとは違っていたのが良かったのだろう。
考えてみればその頃から、ヴェネッダの理想は知的な男であった。
「う、嘘だ!」
「いや何が嘘なんだ。そんな素振りをしたか、私は?」
「俺とはなんでも話したじゃねえか、男と女の話だって……」
「お前が女をどう扱うかって話か? 男所帯だからそういう話もあるだろうと邪魔しなかっただけで、別に聞きたくはなかったぞ」
そこは誤解されていたのだとしたら心外だ。
なにしろ男ばかりの中に、辺境伯の娘である。自分が異物であると理解しているから、場をしらけさせるようなことは言わなかった。
しかし、わざわざ乗っかることもなかったはずだ。
「だいたい他の女の話をしてくる時点で、無いなと思うし」
「な……!」
「人のものだぞ、人のもの。私はそういう趣味はない」
「モテない男よりモテる男がいいだろうが!」
「そうは言うが、それはモテる男がいいのではなく、モテるくらい魅力的な男がいいってことだろう。モテない魅力的な男がいればそれが一番だと思う」
確かに、と誰かが小さく呟いた。
「俺は魅力的だからモテる!」
「えー……まあ、彼女たちにとってはそうなんだろうな?」
「お前、お前だって同じ女だろう!」
「女が全員同じ趣味だったら困るだろうが」
あまり近距離で叫ぶのをやめてほしい。唾が散ってきそうでなんか嫌である。ヴェネッダは戦士の中にいたからといって、不潔さを許容しているわけではないのだ。
そして早く理解してほしい。
ヴェネッダはエンゼンに興味がないのだ。
「というか婿殿の方がモテると思う」
「顔だけだろうが!」
「違うぞ、全然違う。お前、私のためにドアを開けてどうぞってしてくれたことないだろ。あれを自然にやるんだぞ、婿殿は」
「媚びてるだけじゃねえか!」
「私は嬉しい。あと、文字がすごくきれいだ」
「……我慢してる?」
「う、うん……まあ?」
「どういう我慢?」
「なんというか、暴れ出したいというか……」
「……それはすまない。もう少しだけここにいてほしい」
「も、もちろんだ。婿殿がそうしてほしいというなら、そうする」
ああ、どこまでが演技かわからない。
しかしリエレの予想通りに、エンゼンはどんどん興奮しているようだ。
「そいつはグランノットの女だ! とびきり強い女だ! それをっ……そんな、ただの女扱いするだと……許されねえぞ、そんなことは!」
「君に許してもらわなくても、姫は俺の妻だよ」
妻。
ヴェネッダはその言葉に、いよいよ顔が熱くてたまらなくなった。しかし冷静になろう。ならなければ。
そうだ、そろそろエンゼンに気をつけた方がいい。なんでこんなことになっているのかわからないが、喧嘩っ早いのだから、リエレに殴りかかってくるかもしれない。振り返ろうか?
でもいつの間にか、リエレの腕がしっかり背に回っている。振り払いたくない。
「そんな不相応な話があるか、認められるかっ、誰が認める、おまえなんかはせいぜいヴィネにくっついたコブだ。身の程を知れ!」
「残念ながら、わきまえるべきは君だよ。どんな理があって、姫が認めた夫を認めないと言う?」
「そいつと結婚するのは俺だった!」
エンゼンの言葉はまるで子供のもののようだ。静まっていた宴はいよいよ、耳の痛いほどシンとなった。
そしてヴェネッダの頭もいったん真っ白になり、振り返って彼を見た。
「それはどういうことだ?」
「どうもこうもねえ! そうと決まってたんだ、ヴェネだってそのつもりだった! それを後から邪魔しやがって、ありえねえ、ありえねえだろ!」
「姫、彼と結婚するつもりだった?」
「いや?」
「なっ……!?」
何を驚いているのだろうか。
ヴェネッダの方が驚きたいくらいだ。
「エンゼン、当たり前だろう。お前、小さい頃から私は女に見えないと何度も言っていたじゃないか」
「そっ、そんなの……」
「それでもお前と結婚したいと思うほど私は傲慢ではないし、被虐趣味もないからお前を好きになったりしないぞ」
物心ついた頃からの幼馴染なので、出会いの記憶もない。ヴェネッダにとってエンゼンは、自分を男女と呼ぶ友人である。幼馴染は他にもたくさんいるので、わざわざエンゼンを好きになったりしない。
ヴェネッダの初恋は、確か行商に来た名も知らないお兄さんだ。客商売なのでとにかく優しく口がうまく、グランノットの男たちとは違っていたのが良かったのだろう。
考えてみればその頃から、ヴェネッダの理想は知的な男であった。
「う、嘘だ!」
「いや何が嘘なんだ。そんな素振りをしたか、私は?」
「俺とはなんでも話したじゃねえか、男と女の話だって……」
「お前が女をどう扱うかって話か? 男所帯だからそういう話もあるだろうと邪魔しなかっただけで、別に聞きたくはなかったぞ」
そこは誤解されていたのだとしたら心外だ。
なにしろ男ばかりの中に、辺境伯の娘である。自分が異物であると理解しているから、場をしらけさせるようなことは言わなかった。
しかし、わざわざ乗っかることもなかったはずだ。
「だいたい他の女の話をしてくる時点で、無いなと思うし」
「な……!」
「人のものだぞ、人のもの。私はそういう趣味はない」
「モテない男よりモテる男がいいだろうが!」
「そうは言うが、それはモテる男がいいのではなく、モテるくらい魅力的な男がいいってことだろう。モテない魅力的な男がいればそれが一番だと思う」
確かに、と誰かが小さく呟いた。
「俺は魅力的だからモテる!」
「えー……まあ、彼女たちにとってはそうなんだろうな?」
「お前、お前だって同じ女だろう!」
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あまり近距離で叫ぶのをやめてほしい。唾が散ってきそうでなんか嫌である。ヴェネッダは戦士の中にいたからといって、不潔さを許容しているわけではないのだ。
そして早く理解してほしい。
ヴェネッダはエンゼンに興味がないのだ。
「というか婿殿の方がモテると思う」
「顔だけだろうが!」
「違うぞ、全然違う。お前、私のためにドアを開けてどうぞってしてくれたことないだろ。あれを自然にやるんだぞ、婿殿は」
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「私は嬉しい。あと、文字がすごくきれいだ」
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