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「じゃあ、あげましょうか」

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「私のものを勝手に持っていくなんて……っ」
「それは、」
 お父さまが言いかけて黙り、自分は知らない、という顔をした。私に悪役になれとおおせなのだ。役に立たないならいっそ居なきゃよかったのに。

「着るものがないから借りたの」
 お父さまが。
 と言っても、どうせ私のせいになるのだろう。だったら適当に癇癪を起こさせて、嵐が通り過ぎるのを待った方が早い。

「なんでそんなことするの? 返してっ、返してよ!」
「待ちなさい、アイラ。離して」
「お姉さまはそんなに恵まれているのに! もっと私のものを盗っていくつもりなの!?」
「アイラ、やめなさい」

 ドレスを引きちぎらんばかりに引っ張られて、私は少し焦った。結局下着で来た方がよかった、という結果になりかねない。
 アイラは本気だ。本気でこの場でドレスを奪い返そうとしている。

「……君は妹のものを盗んだのか?」
「借りたの。着るものがないから」
「そんなはずはないだろう!」
「そうなんですよ。信じられない話だけど」

「学園の噂を聞いたぞ。アイラは君に何もかもを奪われて、まるで平民のように質素な姿をしているというじゃないか!」
「ああもう、」
 逆だ。
 がしかし、そこが双子の悲しいところだ。アイラとシェイラ。公爵家の令嬢。噂のレベルになってしまうと、もうどちらがどちらの話かわからない。

 ましてカール様のように私情が混じれば、都合のいいように解釈してしまうだろう。なにせ婚約者である私を差し置いて、妹を名前で呼んでいるくらいの私情だ。

「立場ある貴族として恥ずかしくないのか? たったひとりの妹を虐げるなど!」
「返してよっ! 私のドレスよ!」
 アイラは泣き出すし、カール様は見当違いの義憤に震え、お父さまはおろおろしている振りをして何もする気がない。

「アイラ、どうしたの!?」
「……お母さま」
 私は疲れた気分で最後のキャストを見た。お母さまが何を言い出すか、生まれたときから一緒にいるので、だいたい想像がつく。

「シェイラ、どういうこと!? アイラに何をしたの?」
「お母さま、お姉さまが私のドレスを……」
「……着るものがないので借りました」

 ため息まじりに告げると、お母さまは眉をつりあげ、手を振り上げた。
「恥を知りなさい!」
 頬を叩かれたが、大した痛みではなかった。
 昔、子供の頃はもっとずっと痛かった。成長するものだなあ、人間は。それともお母さまが老いたのだろうか。

「あなたは将来の公爵夫人ですよ! 妹から物を奪うなんて……」
「お母さまっ」
「アイラ、泣かないで。大丈夫よ、大丈夫」
「お、お姉さまはなんでも持ってるのにっ……」
「そうね。ひどいことよ。きちんと叱ってあげますからね」

「じゃあ、あげましょうか」

 もう全てがバカバカしくなり、私は言った。

「お父さまもお母さまもアイラも、ああ、カール様も、私が将来の公爵夫人にふさわしくないとお思いなのでしょう? アイラがなるといいわ」

 すると騒ぎが収まった。
 皆、固まったように私を見ている。そんなに意外なことを言った覚えはないのに、なんなんだろう。
 ふさわしくないと責めるだけ責めて、じゃあやめます、と言うと驚くのか。なんだそれ。私は責められる係か?

 本当に、馬鹿じゃないだろうか。

「そ……っそうだ……」

 最初に復活したのはカール様だった。家族じゃないので、この馬鹿げた家族ごっこに加わっていないせいだろう。

「君のような恥知らずを妻にしたくなどない。公爵、僕はアイラを妻にしたい!」
「……カール様……」

 アイラの目がきらきらと輝いてカール様を見た。ああうん、私のドレスを欲しいと言うときと同じ顔だ。
 カール様が私の婚約者だから、ほしいんだろうなあ。ずっと将来の公爵夫人の立場も欲しかったみたいだし。というかそれが元凶っぽいし。
 私としては別にいらないので、それでまとまるならそれでいい。

「アイラ、一緒に公爵家を盛りたてていこう」
「はい……!」

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