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婚約者と殿下 ※しばらく更新止まります
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「君は全く気が利かないね。どうして昨日のうちに連絡をよこさない?」
「……連絡?」
「人型のウィスプと契約しただろう。他の誰よりも先に、婚約者である僕に連絡があってしかるべきだよ。いくら鈍臭くても、最低限そのくらいのことはして貰えないと困る」
「それは、すみません」
正直それどころではなかったのですが、連絡はすべきだったかもしれません。ディーグ様とはすぐに結婚する予定なのです。
式に人型のウィスプがいるのでは、かなり違った光景になります。結婚自体を白紙にということもあるかもしれません。
あったら、いいのですが。
「けどまあ、それも許容してやっていいくらいには、君にしてはいい仕事をしたよ」
「え?」
「人型のウィスプとなれば価値は充分。王家に目をかけていただくこともできるはずだ。妻から得たウィスプだなんてみっともないが、すぐに僕の能力を思い知らせてやればいい。ただのきっかけにすぎないんだから」
「……」
「きっかけ、それが今までの僕になかった。それだけが足りなかったんだよ! それを補った君は、妻として及第点ということだよ。ま、やったことはただの運だけどね」
ディーグ様はどこを見ているのでしょうか。いつも蔑むような視線は好きではありませんでしたが、今日は私よりずっと遠くを見ているようです。
それに話していることの意味もわかりません。ユストスは私のウィスプで、譲るつもりなどありません。
そもそもディーグ様は家を継いだ兄君の補佐をするはずです。王家に目をかけていただき、能力を思い知らせる仕事とは何なのでしょうか。
「とはいえ、その姿はどうかと思うよ。君のセンスを疑うね。それだけ美しいのなら女の方がいいだろうし、だいたい美しい男なんて、僕のそばに置くのに気持ちが悪い。ウィスプなんだから、今から姿を変えておいた方がいいよ」
「……」
いつも、ディーグ様の前で、私はあまり喋らせてもらえませんでした。
けれど今は、なんだか喋りたくもないのです。ディーグ様は、私のウィスプに性別を変えろと言ったのですから。たとえ妻であっても、ウィスプは夫に好きにさせるものではありません。
「ほら、ぼさっとしていないでウィスプに命じるんだ。僕のそばにいるに相応しい女の姿に……」
「嫌です」
「は?」
「ユストスは、私の、ウィスプですから」
「はあ、何を言ってるんだ。君が人型のウィスプを持っていても、なんの意味もないだろう。無知な女がしまっておく高価な宝石とは違うんだよ。人型ウィスプには価値がある」
「私のウィスプですから」
聞いてもらえなかったので、私はもう一度同じことを言いました。どうせ聞かないのだろうなと思いながらです。
「だから、そこになんの意味があるかって話だよ。食事を用意して満足して腐らせるやつはいない。いたら底抜けの馬鹿だろう。君は愚鈍だが、そこまで馬鹿ではなかったはずだ。そのウィスプを僕が使えば王家にも恩が売れ」
「ずいぶん楽しそうな話をしているな」
「は? なんだ無礼……っな!?」
「殿下」
私は驚きましたが、ディーグ様はそんな程度ではなかったようです。口を大きく開いて、そのまま閉じられなくなっています。
王太子ガレスアルド殿下は、昨日お会いしたときよりもきちんとした格好でした。まるでパーティに参加するかのような式服です。金色の装飾も増えています。まさか、ユストスのために来たのでしょうか?
「なっ、なにゆえ、このような、場に……」
「視察だ。貴族子女の学ぶ場がどのようであるかは重要なことだろう。それより、ええと……」
殿下はディーグ様を見て名前を思い出そうとするような様子でしたが、すぐに諦めたようです。
ディーグ様のほうも驚きすぎていて、名乗るという考えがないようです。せっかく殿下に覚えていただく機会だというのに、残念なことです。
「アイシャ嬢のウィスプの話だったな。我々が人型のウィスプに興味を持っているのは事実だが、それは直接アイシャ嬢と話し合うことにしているから、わざわざ君を介する必要はない。いや、気遣いには感謝する」
「は、はっ……はあ、あの、しかし、僕、いや、私はアイシャの婚約者でして」
「ああ、そうらしいな。だが婚約者とはいえ、ウィスプの契約は個人的なものだ」
「そ……それが、アイシャはとても奥ゆかしい質でして、直接王家の方々と関わり合うなど、とてもとても。ご迷惑をおかけするでしょうから、婚約者である私が、ぜひ橋渡しを」
相手が殿下であっても、ディーグ様は言いたいことが言えるようです。私は感心しました。私にとっては気が重くなるばかりのディーグ様の話術でしたが、すごいものであるのは間違いないのでしょう。
「アイシャ嬢とは昨日話をしている。問題ないさ」
「……」
ちらりと殿下がこちらを見て言うので、私はなんとも言えず沈黙しました。私に話しかけられたわけではないので、無礼ではないでしょう。
_________________________________
いつも読んでくださってありがとうございます!
タイトルの通りなのですが、ちょっとそれどころでなくなってしまったので、しばらく休止します。すみません!
「……連絡?」
「人型のウィスプと契約しただろう。他の誰よりも先に、婚約者である僕に連絡があってしかるべきだよ。いくら鈍臭くても、最低限そのくらいのことはして貰えないと困る」
「それは、すみません」
正直それどころではなかったのですが、連絡はすべきだったかもしれません。ディーグ様とはすぐに結婚する予定なのです。
式に人型のウィスプがいるのでは、かなり違った光景になります。結婚自体を白紙にということもあるかもしれません。
あったら、いいのですが。
「けどまあ、それも許容してやっていいくらいには、君にしてはいい仕事をしたよ」
「え?」
「人型のウィスプとなれば価値は充分。王家に目をかけていただくこともできるはずだ。妻から得たウィスプだなんてみっともないが、すぐに僕の能力を思い知らせてやればいい。ただのきっかけにすぎないんだから」
「……」
「きっかけ、それが今までの僕になかった。それだけが足りなかったんだよ! それを補った君は、妻として及第点ということだよ。ま、やったことはただの運だけどね」
ディーグ様はどこを見ているのでしょうか。いつも蔑むような視線は好きではありませんでしたが、今日は私よりずっと遠くを見ているようです。
それに話していることの意味もわかりません。ユストスは私のウィスプで、譲るつもりなどありません。
そもそもディーグ様は家を継いだ兄君の補佐をするはずです。王家に目をかけていただき、能力を思い知らせる仕事とは何なのでしょうか。
「とはいえ、その姿はどうかと思うよ。君のセンスを疑うね。それだけ美しいのなら女の方がいいだろうし、だいたい美しい男なんて、僕のそばに置くのに気持ちが悪い。ウィスプなんだから、今から姿を変えておいた方がいいよ」
「……」
いつも、ディーグ様の前で、私はあまり喋らせてもらえませんでした。
けれど今は、なんだか喋りたくもないのです。ディーグ様は、私のウィスプに性別を変えろと言ったのですから。たとえ妻であっても、ウィスプは夫に好きにさせるものではありません。
「ほら、ぼさっとしていないでウィスプに命じるんだ。僕のそばにいるに相応しい女の姿に……」
「嫌です」
「は?」
「ユストスは、私の、ウィスプですから」
「はあ、何を言ってるんだ。君が人型のウィスプを持っていても、なんの意味もないだろう。無知な女がしまっておく高価な宝石とは違うんだよ。人型ウィスプには価値がある」
「私のウィスプですから」
聞いてもらえなかったので、私はもう一度同じことを言いました。どうせ聞かないのだろうなと思いながらです。
「だから、そこになんの意味があるかって話だよ。食事を用意して満足して腐らせるやつはいない。いたら底抜けの馬鹿だろう。君は愚鈍だが、そこまで馬鹿ではなかったはずだ。そのウィスプを僕が使えば王家にも恩が売れ」
「ずいぶん楽しそうな話をしているな」
「は? なんだ無礼……っな!?」
「殿下」
私は驚きましたが、ディーグ様はそんな程度ではなかったようです。口を大きく開いて、そのまま閉じられなくなっています。
王太子ガレスアルド殿下は、昨日お会いしたときよりもきちんとした格好でした。まるでパーティに参加するかのような式服です。金色の装飾も増えています。まさか、ユストスのために来たのでしょうか?
「なっ、なにゆえ、このような、場に……」
「視察だ。貴族子女の学ぶ場がどのようであるかは重要なことだろう。それより、ええと……」
殿下はディーグ様を見て名前を思い出そうとするような様子でしたが、すぐに諦めたようです。
ディーグ様のほうも驚きすぎていて、名乗るという考えがないようです。せっかく殿下に覚えていただく機会だというのに、残念なことです。
「アイシャ嬢のウィスプの話だったな。我々が人型のウィスプに興味を持っているのは事実だが、それは直接アイシャ嬢と話し合うことにしているから、わざわざ君を介する必要はない。いや、気遣いには感謝する」
「は、はっ……はあ、あの、しかし、僕、いや、私はアイシャの婚約者でして」
「ああ、そうらしいな。だが婚約者とはいえ、ウィスプの契約は個人的なものだ」
「そ……それが、アイシャはとても奥ゆかしい質でして、直接王家の方々と関わり合うなど、とてもとても。ご迷惑をおかけするでしょうから、婚約者である私が、ぜひ橋渡しを」
相手が殿下であっても、ディーグ様は言いたいことが言えるようです。私は感心しました。私にとっては気が重くなるばかりのディーグ様の話術でしたが、すごいものであるのは間違いないのでしょう。
「アイシャ嬢とは昨日話をしている。問題ないさ」
「……」
ちらりと殿下がこちらを見て言うので、私はなんとも言えず沈黙しました。私に話しかけられたわけではないので、無礼ではないでしょう。
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いつも読んでくださってありがとうございます!
タイトルの通りなのですが、ちょっとそれどころでなくなってしまったので、しばらく休止します。すみません!
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