(停止中)愛し、愛されたいのです。

七辻ゆゆ

文字の大きさ
上 下
10 / 13

ユス

しおりを挟む
朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。

生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。

看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。

僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。

囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。

こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。

そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。

次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。

貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。

僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。

そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。

悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。

この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。


彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。

何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。



でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。



額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。



アタフがまた何かを語る。



もう一度、語り出す言葉をよく訊く。




お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。





その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。





ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。



だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。



次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。



ベリオストロフ・グリーンディの部屋。




あれも、ケツァル島の特殊言語だ。





間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。






誰に何かを伝えようとしている。






誰にだ。






各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。




アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。





囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。






彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。







看守に伝えようとしているのか。







まさか、









僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、










僕を試そうとしているのか。







ジスマリアの25日
     カインハッタ牢獄内にて
_________________________

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もうすぐ、お別れの時間です

夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。  親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...