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「決して君を離さない」
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「な、な、なにをしている! 遊びではないんだぞ! この役立たずどもめっ!」
ルミナを生んだ男がそう叫んだ。
俺の方こそ遊びではない。本来ならこの男と、それから馬車の中にいる女はルミナを虐げた罪で地中にでも埋めてしまいたい。
だが人には縁がある。血縁は人にとって強い縁だ。あまりひどいことをすれば、その因果が縁を伝ってルミナに影響するかもしれない。
悪い影響とも限らないが、いい気分がしない。
なので俺は苦い気分で精霊たちに命じた。
「あれとあれ、好きに悪戯していいぞ!」
「ほんとに!?」
「わーい!」
「王様の命令だ!」
イタズラ好きな精霊たちはすぐさま馬車の親子に飛びかかった。はしゃいでいるだけなのだが、人間にとってはたまったものではないだろう。
姿の見えないものに、あちこち引っ張られ、噛まれ、つままれる。持ち物がまるで自分から飛ぶように逃げていく。
「きゃあっ!? な、なによ!」
「ひぃっ……なんだ、なんなんだ! 虫か!? 追い払え、おい、お前たち!」
命令されても男たちには精霊の姿など見えていないだろう。
さきほど息を止めさせたので、そもそもそんな元気もないようだ。ひとり、ひとり、悲鳴をあげて立ち去っていく。
「ずっと遊んでいていいぞ!」
俺は精霊たちにそう言った。精霊王の権限で、ずっと、つまりあの二人が死ぬまで遊んでかまわないと言ったのだ。
精霊王たる俺が命令するのなら、それに必要なだけの力は与えられる。あの二人が死ぬまでのイタズラをする力だ。
長い役目を果たしたら、もしかすると小精霊たちは成長してしまうかもしれない。人間界にいられなくなったら気の毒だが、そのへんは応相談してもらおう。
「さあ、ルミナ、君は自由だ。だからどうか精霊界へ来てくれ。向こうで君を害するやつなんていない」
「精霊界……」
「ああ。血筋だの金だの、つまらないものに惑わされる必要はない」
「あなたも、一緒に?」
「もちろん、」
言ったあとで俺は気づいてしまった。
「……王様?」
どうしたの、とルミナが不審がっている。俺は悲しくなってしまったが、伝えないわけにはいかない。
「俺は、もう王ではいられないかもしれないが」
「そ……そんな、どうして…………もしかして、私を助けたから?」
なんて頭のいい子だろう。けれどそれは正しくて、間違っていた。
「いや違う。俺が、やってはいけないことをやったからだ」
「それって」
「君が気にすることはない。ただ」
「でも、」
「君が、ただの精霊でしかない俺でも求めてくれるのなら」
ああ、言ってしまった。
求めてくれる?
求めているのは俺の方だ。でも、そうだったら嬉しい。そんな気がしている。ルミナは俺を求めてくれている。
違う?
違わない!
こうしている間にも、ルミナの手はしっかりと俺の背中に回っているのだ。そうでないはずがない。でも答えを聞くのが恐ろしい。
「決して君を離さない」
「わ、わからないけど……でも、私、あなたから離れたくない」
「……ルミナ!」
充分だった。
俺は感極まってぎゅうぎゅうとルミナを抱きしめてしまった。
「きゃっ?」
「ああっ、かわいい!」
「え、ええっ、と」
「なんてかわいいんだろう! こんなにかわいいものは、きっと永遠に、もう、ない。君だけだ」
「そんな」
「君が笑ってくれるなら、もう、なんでもいいんだ!」
そうだ、精霊王なんてこっちから捨ててしまおう。そしてただただルミナと暮らすのだ。たとえルミナが次の精霊王の番だったとしても、決して会わせなければいい。
「そうと決まったら、行こう、ルミナ」
「……はい!」
ルミナは少しだけ迷ったあとで、強くうなずいてくれた。嬉しい。なんという喜びか。俺は彼女を抱きしめ、精霊界へと舞い戻った。
ルミナを生んだ男がそう叫んだ。
俺の方こそ遊びではない。本来ならこの男と、それから馬車の中にいる女はルミナを虐げた罪で地中にでも埋めてしまいたい。
だが人には縁がある。血縁は人にとって強い縁だ。あまりひどいことをすれば、その因果が縁を伝ってルミナに影響するかもしれない。
悪い影響とも限らないが、いい気分がしない。
なので俺は苦い気分で精霊たちに命じた。
「あれとあれ、好きに悪戯していいぞ!」
「ほんとに!?」
「わーい!」
「王様の命令だ!」
イタズラ好きな精霊たちはすぐさま馬車の親子に飛びかかった。はしゃいでいるだけなのだが、人間にとってはたまったものではないだろう。
姿の見えないものに、あちこち引っ張られ、噛まれ、つままれる。持ち物がまるで自分から飛ぶように逃げていく。
「きゃあっ!? な、なによ!」
「ひぃっ……なんだ、なんなんだ! 虫か!? 追い払え、おい、お前たち!」
命令されても男たちには精霊の姿など見えていないだろう。
さきほど息を止めさせたので、そもそもそんな元気もないようだ。ひとり、ひとり、悲鳴をあげて立ち去っていく。
「ずっと遊んでいていいぞ!」
俺は精霊たちにそう言った。精霊王の権限で、ずっと、つまりあの二人が死ぬまで遊んでかまわないと言ったのだ。
精霊王たる俺が命令するのなら、それに必要なだけの力は与えられる。あの二人が死ぬまでのイタズラをする力だ。
長い役目を果たしたら、もしかすると小精霊たちは成長してしまうかもしれない。人間界にいられなくなったら気の毒だが、そのへんは応相談してもらおう。
「さあ、ルミナ、君は自由だ。だからどうか精霊界へ来てくれ。向こうで君を害するやつなんていない」
「精霊界……」
「ああ。血筋だの金だの、つまらないものに惑わされる必要はない」
「あなたも、一緒に?」
「もちろん、」
言ったあとで俺は気づいてしまった。
「……王様?」
どうしたの、とルミナが不審がっている。俺は悲しくなってしまったが、伝えないわけにはいかない。
「俺は、もう王ではいられないかもしれないが」
「そ……そんな、どうして…………もしかして、私を助けたから?」
なんて頭のいい子だろう。けれどそれは正しくて、間違っていた。
「いや違う。俺が、やってはいけないことをやったからだ」
「それって」
「君が気にすることはない。ただ」
「でも、」
「君が、ただの精霊でしかない俺でも求めてくれるのなら」
ああ、言ってしまった。
求めてくれる?
求めているのは俺の方だ。でも、そうだったら嬉しい。そんな気がしている。ルミナは俺を求めてくれている。
違う?
違わない!
こうしている間にも、ルミナの手はしっかりと俺の背中に回っているのだ。そうでないはずがない。でも答えを聞くのが恐ろしい。
「決して君を離さない」
「わ、わからないけど……でも、私、あなたから離れたくない」
「……ルミナ!」
充分だった。
俺は感極まってぎゅうぎゅうとルミナを抱きしめてしまった。
「きゃっ?」
「ああっ、かわいい!」
「え、ええっ、と」
「なんてかわいいんだろう! こんなにかわいいものは、きっと永遠に、もう、ない。君だけだ」
「そんな」
「君が笑ってくれるなら、もう、なんでもいいんだ!」
そうだ、精霊王なんてこっちから捨ててしまおう。そしてただただルミナと暮らすのだ。たとえルミナが次の精霊王の番だったとしても、決して会わせなければいい。
「そうと決まったら、行こう、ルミナ」
「……はい!」
ルミナは少しだけ迷ったあとで、強くうなずいてくれた。嬉しい。なんという喜びか。俺は彼女を抱きしめ、精霊界へと舞い戻った。
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