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「…………喉かわいた」
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「…………喉かわいた」
ルミナは呟いたあとで後悔した。言葉を発したぶんだけ更に喉が渇いたような気がする。息をするのにも喉がひりついて苦しい。
何もせずに静かにしているのが一番だ。
馬鹿だな、私、と言葉にせずに思う。
早くこの家から逃げ出すべきだったし、最低でも、体力があるうちに倉庫からの脱出を考えるべきだった。
もう何もできる気がしない。
このまま死んでしまうのかも。
ろくでもない人生だった。家族がいないことはいい。こうして誰にも求められず感謝もされず、ただの要らないものとして死んでしまうのだ。
殺してでも逆らえば良かったのかな。
(でもな……)
そういうのは嫌だ。
やっぱり逃げればよかった。とにかく早く逃げればよかった。
ああ、目がかすむ。
「……っ?」
と、唇が濡れた気がして驚いた。
そんなはずはない。ずっと乾いていて、ひび割れて痛みを発する唇だ。いや、でも痛みが染みている。水が当たったかのように染みている。
「ぇ……?」
ぽたりとまた落ちてきた。
ルミナは信じがたい気分で、染みる痛みそのもののような水を舌で舐め取った。
「み、ず……」
間違いない。舌の先を甘く濡らしていく。ルミナは最期の幻覚ではないかと疑ったが、ぽたりぽたりと水は口に入り、喉が潤い、冷静にものを考える余裕が出てくる。
ルミナは霞む目を開いて自分の口元を見た。
キラキラとしている。
「あ……、水を……持ってきて、くれ、たの……?」
ルミナの言葉に応えるように、キラキラ輝き、しゃらしゃらと音が聞こえた。何の音だろうとぼんやり思う。
そうしている間にも、ルミナの唇は潤っていた。キラキラと煌く道筋を追えば、小さな窓に繋がっている。
キラキラとした子達は、その小さな体で水滴を少しずつ運んでくれているのだ。
「……ありがとう」
涙が出そうになってこらえた。せっかく運んでくれた水分を、そんなことで使うわけにはいかない。
かわりにルミナは身を起こし、転がっているパンに噛みついた。乾きのせいで忘れられていたが、空腹だってあるのだ。食べなければ。
食べて、元気をつけて逃げなければ死んでしまう。
「うん……もう大丈夫……」
周囲を飛び回るキラキラが心配してくれているように思えて、ルミナはそう言った。幻覚かもしれない。でも、自分を助けてくれる幻覚ならそれで構わない。
『だいじょうぶ?』
『しんじゃうかとおもった!』
『だいじょうぶ?』
『だいじょうぶ?』
かすかな、しゃらしゃらという音に耳を澄ませると、そう聞こえた。ルミナは笑う。
「私も、死ぬかと思った。……ほんとにありがとう」
きっと悪いものではない。いや、悪いものだったとしても、自分をこんなに心配してくれる存在なんてこの世界にはなかった。
だったらたとえ悪魔でも、ルミナは心からお礼が言いたい。
『おみず、もっといる?』
『もってくる!』
『もっともっと』
『なにがほしい?』
「ありがとう。水はもっとほしい。それから、できたら外の様子を見てきて欲しいの。その窓から私は出られないから、こっちの扉の向こう……わかる?」
『わかる!』
『わかるよ!』
『みてくる!』
キラキラした者たちは一度扉に向かい、そのあたりを飛んでいたが、隙間はなかったらしい。一度戻ってルミナの周囲を飛んだあとで、小さな窓から出ていった。
ルミナは呟いたあとで後悔した。言葉を発したぶんだけ更に喉が渇いたような気がする。息をするのにも喉がひりついて苦しい。
何もせずに静かにしているのが一番だ。
馬鹿だな、私、と言葉にせずに思う。
早くこの家から逃げ出すべきだったし、最低でも、体力があるうちに倉庫からの脱出を考えるべきだった。
もう何もできる気がしない。
このまま死んでしまうのかも。
ろくでもない人生だった。家族がいないことはいい。こうして誰にも求められず感謝もされず、ただの要らないものとして死んでしまうのだ。
殺してでも逆らえば良かったのかな。
(でもな……)
そういうのは嫌だ。
やっぱり逃げればよかった。とにかく早く逃げればよかった。
ああ、目がかすむ。
「……っ?」
と、唇が濡れた気がして驚いた。
そんなはずはない。ずっと乾いていて、ひび割れて痛みを発する唇だ。いや、でも痛みが染みている。水が当たったかのように染みている。
「ぇ……?」
ぽたりとまた落ちてきた。
ルミナは信じがたい気分で、染みる痛みそのもののような水を舌で舐め取った。
「み、ず……」
間違いない。舌の先を甘く濡らしていく。ルミナは最期の幻覚ではないかと疑ったが、ぽたりぽたりと水は口に入り、喉が潤い、冷静にものを考える余裕が出てくる。
ルミナは霞む目を開いて自分の口元を見た。
キラキラとしている。
「あ……、水を……持ってきて、くれ、たの……?」
ルミナの言葉に応えるように、キラキラ輝き、しゃらしゃらと音が聞こえた。何の音だろうとぼんやり思う。
そうしている間にも、ルミナの唇は潤っていた。キラキラと煌く道筋を追えば、小さな窓に繋がっている。
キラキラとした子達は、その小さな体で水滴を少しずつ運んでくれているのだ。
「……ありがとう」
涙が出そうになってこらえた。せっかく運んでくれた水分を、そんなことで使うわけにはいかない。
かわりにルミナは身を起こし、転がっているパンに噛みついた。乾きのせいで忘れられていたが、空腹だってあるのだ。食べなければ。
食べて、元気をつけて逃げなければ死んでしまう。
「うん……もう大丈夫……」
周囲を飛び回るキラキラが心配してくれているように思えて、ルミナはそう言った。幻覚かもしれない。でも、自分を助けてくれる幻覚ならそれで構わない。
『だいじょうぶ?』
『しんじゃうかとおもった!』
『だいじょうぶ?』
『だいじょうぶ?』
かすかな、しゃらしゃらという音に耳を澄ませると、そう聞こえた。ルミナは笑う。
「私も、死ぬかと思った。……ほんとにありがとう」
きっと悪いものではない。いや、悪いものだったとしても、自分をこんなに心配してくれる存在なんてこの世界にはなかった。
だったらたとえ悪魔でも、ルミナは心からお礼が言いたい。
『おみず、もっといる?』
『もってくる!』
『もっともっと』
『なにがほしい?』
「ありがとう。水はもっとほしい。それから、できたら外の様子を見てきて欲しいの。その窓から私は出られないから、こっちの扉の向こう……わかる?」
『わかる!』
『わかるよ!』
『みてくる!』
キラキラした者たちは一度扉に向かい、そのあたりを飛んでいたが、隙間はなかったらしい。一度戻ってルミナの周囲を飛んだあとで、小さな窓から出ていった。
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