バツ2旦那様が離婚された理由は「絶倫だから」だそうです。なお、私は「不感症だから」です。

七辻ゆゆ

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「長い間苦しめてしまった。……申し訳なかった」

 リアンの謝罪は深く、重いものでした。
 私へのものではありません。ここはラテーナ男爵家であり、リアンの前にはぼんやりとしたシェレンティ様の姿があります。

 その姿は変わらず痩せ果てたもので、ソファに座っておられるのさえ心配になるほどでした。
 光のない瞳でじっとリアンを見ています。
 私はリアンの隣で、ただ静かに事の次第を見守りました。

「当家で新しく雇ったメイドが、アイニアの手のものだった」
「……」

 シェレンティ様の瞳が確かに意思をもって、またたきました。

「君が妻であったころのメイドも、そうだったのだろう。すまなかった。私は全く……情けないことに全く、気づかなかった……」

 あのようなことがあったので、メイド二人を問い詰めたのです。最初は「お客様と二人きりにしてさしあげただけ」などと言っておりましたが、無理があります。
 リアンの怒りに耐えきれず、アイニアさんに頼まれて当家に入り込んだことを明かしたのです。

「すべて私の責任だ。メイドの態度がひどいと、君は伝えてくれていたのに、私はそれを信じなかった」
「……」

 シェレンティ様がゆっくりと口を開きました。
 ふ、と吐息が漏れます。
 それから、はたりと瞳から涙がこぼれました。

「ええ、あなたは……心配するなと、そればかりで……」
「すまない」
「私の不安がすべての原因なのだと、思っておられたでしょう」
「間違いだった。あまりにも愚かだった」

 シェレンティ様はいつも愛されていないという不安に怯えていたそうです。それだけならリアンとの相性の問題かもしれません。
 ですがメイドたちがずっと彼女の耳にささやき続けたのであれば、どんな気丈な方でも不安になってしまうでしょう。

 あなたはふさわしくない。
 あなたは愛されていない。
 子爵が愛しているのはアイニア様だけ。

 耳元で、想像した言葉だけで私は胸に痛みを覚えました。おかしなことです。私は不感症で、ひどく鈍感だというのに。
 あるいは今、目の前のことに傷ついているのかもしれません。

 リアンの目は、心は、今、シェレンティ様にだけ向けられています。

「……でも」

 シェレンティ様が、目を濡らしたままで小さく微笑みました。

「あなたに愛されていたと、それは間違いないのですね」
「……ああ、もちろんだ」

 リアンは私をちらりとも見ません。
 誠実な方です。でも私は不安になっています。だれにも聞こえないように、そっと呼吸をしました。
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