バツ2旦那様が離婚された理由は「絶倫だから」だそうです。なお、私は「不感症だから」です。

七辻ゆゆ

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「離婚した娘を養う力はないということでしょうか」
「そうかもしれない。だが、もしそちらで育てるにしても、生まれた子には充分な養育費を払うと約束している」
「そうですよね……」

 現状、ツベルフ子爵家、我が子爵家と言うべきでしょうか? こちらはお金に困っていません。
 ツベルフ子爵家は人数が少なく、年若いトライアン様が引き継いだばかりで、王家に目をつけられていないからです。
 名誉と散財は裏表です。当家は社交界での扱いがあまりよくないかわりに、王家の事業への協力を求められることもないのです。

 子爵家の領地はというと、安定的な収入を得ています。
 大きな問題が発生しない限り、生まれた子供への養育費は問題ないでしょう。子爵家の息子として引き取ったなら、披露目や面子のためにもっと多くの金額がかかりますが、こちらも家を傾けるほどにはなり得ません。

「男爵家の後継はラテーナ嬢の弟だ。彼と折り合いが悪いということも、まあ考えられるが、まだ跡を継いでもいないのに、必死になって追い出すほど悪いとは聞かない。結婚している時、手紙のやり取りもあったようだ」
「では、ただ娘がそう願っているから後押しする、ということでしょうか」
「あるいは孫のことを考えているのかもしれない」
「……ああ」

 そうだとしたら私には何を言うこともできないでしょう。
 子供のために父親が必要なのだとしたら、私が旦那様と離婚しないのは、その子にとって悪なのが間違いありません。

「また、よく話を聞いてこようと思う」
「……はい」
「噂については……離婚することはないと、それだけ言っておきたい気がするが」
「誰かが聞いてくれるでしょうか」

 一度でも否定しておけば、こちらの意思は示せます。噂を聞いたおせっかいの類は少し黙らせられるかもしれません。
 けれども踊りながら見回しても、私達にそこまで興味のある方はいなそうです。噂として、一応はひっそり話されていることに、いきなり否定するのもおかしなことです。

 どうしたものかと思案しながら、私達は一曲を終わらせました。
 やはり離れがたい気持ちになります。腰に回った腕が離れていき、かわりに旦那様は手を繋いできました。

「だめかな?」
「だめなわけがありません」

 くすぐったく笑いながら手を握り返します。
 結婚した夫婦が手を繋ぐなんて、若ぶっているようで少し恥ずかしく思いました。でも、マナー違反というわけではありません。
 婚約期間すらなく結婚したので、人前でこのようなことが新鮮でなりません。

「ミラレッタ!」
「え?」

 そんな、たくさんいる中の二人という空気を楽しんでいたのに、他人の声が割り込んできました。
 私の名前を呼んだのは知らない男性、かと思いました。違いました。元夫のファーダ・グランチェ伯爵令息です。
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