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シェレンティさんと話し合う場に、私も同席することになりました。
「妊娠初期は心配ですし、私はいない方が良いのでは」
「そうかもしれないが……どのみち君の意見が聞きたくなる。話し合いが一度で終わらない方が、彼女にとって負担かもしれない」
「それは……そうですね」
「それに、僕は君にいてほしい。頼りない夫ですまない」
「とんでもありません」
旦那様が誠実に、私の意見を聞いてくれることはわかっています。ならばその場に私がいたほうがスムーズに話が進むでしょう。
シェレンティさんを疲れさせないよう、できるだけ手短に話を終えたいところです。とにかくまず、これからどうしたいかを聞くべきでしょう。
「はじめまして、ミラレッタです」
最初の挨拶には「妻の」とは言いませんでした。
用意した部屋も、私達が使っている生活空間に近い客間で、落ち着ける空気に整えてあります。
「は、はじめまして……シェレンティ・ラナーテです……」
消え入りそうな声でした。
気の弱い方を想像してはいましたが、想像以上にシェレンティさんは線の細い方でした。うっかりするとこのまま倒れてしまいそうです。
そのような状態のためか、侍女がシェレンティさんの隣に座っています。普通は離れた場所に待機するものですが、介助が必要だということでしょう。
シェレンティさん……いえ、家名の名乗りを受けたのですから、貴族同士の慣習としてシェレンティ様とお呼びするべきですね。
彼女は美しい造作をしている、のでしょう。残念ながらひどくやつれて、へこんだ頬と目の下のくまが目立っています。顔だけでなく体も骨だけではないかという細さで、手首を掴んだら折れてしまいそうです。
見れば見るほど、あまりのことです。
この方が妊娠……していると?
ひとりでも耐えられそうにない体の中に、新しい命を宿しているのでしょうか。
「ごめんなさいトーリ、こんなことになるなんて」
「……いや」
旦那様は一瞬だけ眉をあげて、静かに首を振りました。
「考えておくべきだった。僕の責任でもある。妊娠は、ひとりではできないことだ」
「でも……」
シェレンティ様は、気まずそうに私をちらりと見ました。
私はなんとも言えずに、曖昧な微笑を浮かべます。旦那様との話に割って入るつもりはありません。
「一応確認しておきたい。妊娠は確実なんだね?」
「は、はい……お医者様に、そうだと」
「では、君はどうしたい?」
「え?」
「時期を考えれば私の子だろう。ツベルフ子爵家のものとして引き取る用意はある。ただ、離婚後であるから、君の許可がなければ私にその権利はない」
「ま、まって、あの……」
シェレンティ様は私をまたちらりと見ました。
旦那様が苦笑しました。
「私にはすでに妻がいるが、もちろん君の子を引き取ることについては彼女と話し合っている」
「わ……私……」
「妊娠初期は心配ですし、私はいない方が良いのでは」
「そうかもしれないが……どのみち君の意見が聞きたくなる。話し合いが一度で終わらない方が、彼女にとって負担かもしれない」
「それは……そうですね」
「それに、僕は君にいてほしい。頼りない夫ですまない」
「とんでもありません」
旦那様が誠実に、私の意見を聞いてくれることはわかっています。ならばその場に私がいたほうがスムーズに話が進むでしょう。
シェレンティさんを疲れさせないよう、できるだけ手短に話を終えたいところです。とにかくまず、これからどうしたいかを聞くべきでしょう。
「はじめまして、ミラレッタです」
最初の挨拶には「妻の」とは言いませんでした。
用意した部屋も、私達が使っている生活空間に近い客間で、落ち着ける空気に整えてあります。
「は、はじめまして……シェレンティ・ラナーテです……」
消え入りそうな声でした。
気の弱い方を想像してはいましたが、想像以上にシェレンティさんは線の細い方でした。うっかりするとこのまま倒れてしまいそうです。
そのような状態のためか、侍女がシェレンティさんの隣に座っています。普通は離れた場所に待機するものですが、介助が必要だということでしょう。
シェレンティさん……いえ、家名の名乗りを受けたのですから、貴族同士の慣習としてシェレンティ様とお呼びするべきですね。
彼女は美しい造作をしている、のでしょう。残念ながらひどくやつれて、へこんだ頬と目の下のくまが目立っています。顔だけでなく体も骨だけではないかという細さで、手首を掴んだら折れてしまいそうです。
見れば見るほど、あまりのことです。
この方が妊娠……していると?
ひとりでも耐えられそうにない体の中に、新しい命を宿しているのでしょうか。
「ごめんなさいトーリ、こんなことになるなんて」
「……いや」
旦那様は一瞬だけ眉をあげて、静かに首を振りました。
「考えておくべきだった。僕の責任でもある。妊娠は、ひとりではできないことだ」
「でも……」
シェレンティ様は、気まずそうに私をちらりと見ました。
私はなんとも言えずに、曖昧な微笑を浮かべます。旦那様との話に割って入るつもりはありません。
「一応確認しておきたい。妊娠は確実なんだね?」
「は、はい……お医者様に、そうだと」
「では、君はどうしたい?」
「え?」
「時期を考えれば私の子だろう。ツベルフ子爵家のものとして引き取る用意はある。ただ、離婚後であるから、君の許可がなければ私にその権利はない」
「ま、まって、あの……」
シェレンティ様は私をまたちらりと見ました。
旦那様が苦笑しました。
「私にはすでに妻がいるが、もちろん君の子を引き取ることについては彼女と話し合っている」
「わ……私……」
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