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「あ、ふっ……」

 おかしな声をあげて私は目を覚ましました。
 いえ、ずっと前から意識はあった気がします。ふわふわ、ゆさゆさ、まだ揺らされているようで、上手く起きられなかったのでした。
 お腹だけでなく喉元まで入ってこられて揺さぶられたみたいな。……言い過ぎでした。たぶん。

「ああ……」

 カーテンの隙間から朝日が落ちてきます。
 私はベッドの上でした。きれいなベッドです。昨夜、たくさんのことをしたあとで、旦那様は私の部屋に運んでくれたのです。

 夫婦の寝室と、お互いの寝室がそれぞれあることを、最初は不思議に思いました。
 ですが今は、それで良かったと思います。でなければ……夫婦の寝室のベッドはぐちゃぐちゃで、とても眠れるものではないからです。

 それに私の部屋のベッドだって、二人で眠ることができます。昨日、そうしました。けれど起きたら一人です。
 少し寂しいですが、起きなかった私がいけないのです。

『君はもう少し寝ていていいよ』

 旦那様はそう言って部屋を出ていきました。起きて旦那様を送り出せば、もっと一緒にいられたのに。
 いえ、でも、お邪魔だったかもしれません。
 旦那様はお仕事です。新婚だからと長い時間を一緒にいましたが、ずっとそういうわけにはいかないでしょう。

 私も夫人として仕事をしなければ。

「ン」

 体を起こすと、たっぷり注がれたものがまだこぼれてきそうに思いました。足の間はべたべたに汚れています。はあ、と息を吐くと、まるで切なそうになりました。
 もったいないと思ったのです。
 いつも私の中には収まりきれず、旦那様の種は溢れてしまいます。そうなればもう洗い流すしかありません。

 ため息をつきながらベッドを降りて、小さな歩幅で部屋を出ました。

「ユンナ、入浴できるかしら?」
「ええ奥様、もちろんです」

 もちろんなのですね。
 やはり恥ずかしい気持ちになりながら、私はお湯を浴びて体をさっぱりさせました。奥の方はまだ湿っている気がしますが、これはどうにもなりません。落ちてくる感じはしないので忘れましょう。

 お風呂を出てから、ユンナと子爵邸の管理について話し合いました。

「私もできるだけ協力するけれど、あと何人雇えば楽になるかしら?」
「そうですね……実は今、掃除ができなくて使えない部屋がいくつかあるんです。そこまで考えるのであれば、ひとまず三人は欲しいです」
「若い人で構わない?」

 するとユンナが困ったような顔をしました。

「やっぱり慣れた人のほうが?」
「いえ、私は若い方で良いと思いますよ。ただこの邸は若い方の評判があまり……」
「評判?」
「その、奥様……前の奥様のシェレンティ様のころに、何度か雇っては解雇していて」
「まあ……それは……」

 ずいぶん評判は悪くなっているでしょう。
 つらい職場は嫌がられますが、給料次第で人は来ます。けれどすぐに解雇されるとなれば、いくらお給料を上げても無駄足を嫌って集まりが悪いでしょう。

 前の結婚のときにも私は夫人として邸の管理を行っていました。
 愛されない夫人でしたから義務的な関係でしたが、それだけに、メイドたちの内心の声はよく聞いていたものです。
 彼女たちは生活がかかっているので、安定して働ける職場を求めていました。

「シェレンティ様は再婚であることを不安がっていましたから、旦那様のそばに若い女性を置きたくなかったんですよ」
「そんなことが……」
「気分が安定しているときには、やっぱり同じ年頃のメイドが欲しいとなるんですけど、雇ってみると駄目みたいで……」
「……そう」

 私はため息をつきました。
 困ったことです。けれど前の奥様は、思っていたよりずいぶん大変な気持ちでいたようです。
 そのあたり私は不感症で鈍感ですから、気楽なものです。

「では慣れた方を、ひとまず二人ほど探してみましょう」

 誰でも良いなら見つかるでしょうが、子爵家のメイドです。それなりに身元のきちんとした方でなければいけません。
 なおかつ仕事に慣れた方となれば、新人のお給料では来てくれないでしょう。たくさん雇うのは難しいです。

 私は邸の管理にかかる費用を考えながら、使われていない部屋や、物置などを確認して回りました。ツベルフ子爵邸には今、旦那様と私しか住人はいません。余った部屋ばかりです。
 かつて旦那様のご両親がご存命の頃には賑やかだったのでしょうか。
 今は今なりでも、旦那様が寛げる邸にしていかなければ。
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