13 / 36
13
しおりを挟む
「私は旦那様の妻ですから……」
とても不出来な妻ですが、旦那様の誠実さには応えたいと思うのです。三度目の結婚は良いものだったと、少しでも思っていただきたいのです。
身の置きどころのない私が大事にされて、私はもうとても幸せなのですから。
「ああ、君が、僕の愛する妻だ」
「んっ……」
唇が触れて私は、馬車がひどく揺れたのだと思いました。
だからこうしてキスをしてしまったのでしょう。けれどぶつかったままで、旦那様が離れていくことはありませんでした。
それどころか旦那様の腕が、私の背中を、腰をするりと撫でました。
「あ」
「ミラレッタ……」
「だんな、さ、ま」
がたがたと世界は揺れています。そんな中でも旦那様の腕はしっかりと私を抱きしめています。
狭い馬車の中で、更に狭い場所だけを使っています。偏った重みで馬車がひっくり返ってしまうのではないかと、馬鹿なことを考えました。
でも、それでも、旦那様の腕は離れることはないだろうと思いました。そのくらいに私は安心してしまっているのです。
愚かなことでしょうか。
ずいぶん感情的で、不感症とは対極のようです。
私がぼんやり考えにふける間も、旦那様の手のひらは私を愛撫しています。思わず私はあくびを噛み殺しました。がたん、がたん、と揺れる響きさえ、子守唄のように感じられてきたのです。
ぬくもりはいけません。
眠くなってしまいます。
「ミラレッタ」
旦那様の声にはどんどん熱がこもり、指先はきわどい場所に入り込みます。私は眠気をこらえるのに必死でいます。やはり私は不感症なのでしょう。
がた、がた、ゆらゆら、触れる手はあたたかく。
けれど馬車の中です。
私は旦那様の離婚理由が二度とも「絶倫だから」だったことを思います。きっと旦那様はこうして、いつも全力で愛を示していたのでしょう。
今だって、これほど熱心に私を求めてくれています。元夫の義務的で、雑な手つきとはまるで違うのです。
だから私の眠気も退屈からきたものではなく、安心から来た、心地よすぎるものでした。
ああ、濡れない体を強引に開かせるのではなく、ねち、ねち、と浅い部分に潤いをこすりつけてきます。するとだんだん熱が混ざってきて、私の中に入ってきます。ひとつのものになるという言葉が、とてもふさわしく思えるのでした。
私は不感症ですが、元夫との性交には消しようのない違和感がありました。旦那様との交歓にはそれがありません。
ただ馬車の中です。がた、がた、と揺れるのです。
「ふふ……」
私は思わず笑ってしまいました。
何をしているのでしょうか。熱い。熱いから、じわりと肌が湿っていきます。すこし滑りの悪くなったてのひらが、つ、つ、と私を愛撫します。
「ミラレッタ……とても素敵だ。ああ、君の中は……とても……」
感極まったように旦那様が言葉をなくすので、私はその頭をそっと撫でてあげました。口づけをされると甘いのです。旦那様の飲み込まれた言葉が、そのくらい甘かったのでしょう。
「う、ん……」
旦那様の熱意に応えたくて、私は少しだけ腰を揺らめかせました。
すると、じんわり、中を溶かすようなじれったい感覚がありました。これも甘さです。お腹の中で噛み締めた旦那様は、とても甘いのです。
とても不出来な妻ですが、旦那様の誠実さには応えたいと思うのです。三度目の結婚は良いものだったと、少しでも思っていただきたいのです。
身の置きどころのない私が大事にされて、私はもうとても幸せなのですから。
「ああ、君が、僕の愛する妻だ」
「んっ……」
唇が触れて私は、馬車がひどく揺れたのだと思いました。
だからこうしてキスをしてしまったのでしょう。けれどぶつかったままで、旦那様が離れていくことはありませんでした。
それどころか旦那様の腕が、私の背中を、腰をするりと撫でました。
「あ」
「ミラレッタ……」
「だんな、さ、ま」
がたがたと世界は揺れています。そんな中でも旦那様の腕はしっかりと私を抱きしめています。
狭い馬車の中で、更に狭い場所だけを使っています。偏った重みで馬車がひっくり返ってしまうのではないかと、馬鹿なことを考えました。
でも、それでも、旦那様の腕は離れることはないだろうと思いました。そのくらいに私は安心してしまっているのです。
愚かなことでしょうか。
ずいぶん感情的で、不感症とは対極のようです。
私がぼんやり考えにふける間も、旦那様の手のひらは私を愛撫しています。思わず私はあくびを噛み殺しました。がたん、がたん、と揺れる響きさえ、子守唄のように感じられてきたのです。
ぬくもりはいけません。
眠くなってしまいます。
「ミラレッタ」
旦那様の声にはどんどん熱がこもり、指先はきわどい場所に入り込みます。私は眠気をこらえるのに必死でいます。やはり私は不感症なのでしょう。
がた、がた、ゆらゆら、触れる手はあたたかく。
けれど馬車の中です。
私は旦那様の離婚理由が二度とも「絶倫だから」だったことを思います。きっと旦那様はこうして、いつも全力で愛を示していたのでしょう。
今だって、これほど熱心に私を求めてくれています。元夫の義務的で、雑な手つきとはまるで違うのです。
だから私の眠気も退屈からきたものではなく、安心から来た、心地よすぎるものでした。
ああ、濡れない体を強引に開かせるのではなく、ねち、ねち、と浅い部分に潤いをこすりつけてきます。するとだんだん熱が混ざってきて、私の中に入ってきます。ひとつのものになるという言葉が、とてもふさわしく思えるのでした。
私は不感症ですが、元夫との性交には消しようのない違和感がありました。旦那様との交歓にはそれがありません。
ただ馬車の中です。がた、がた、と揺れるのです。
「ふふ……」
私は思わず笑ってしまいました。
何をしているのでしょうか。熱い。熱いから、じわりと肌が湿っていきます。すこし滑りの悪くなったてのひらが、つ、つ、と私を愛撫します。
「ミラレッタ……とても素敵だ。ああ、君の中は……とても……」
感極まったように旦那様が言葉をなくすので、私はその頭をそっと撫でてあげました。口づけをされると甘いのです。旦那様の飲み込まれた言葉が、そのくらい甘かったのでしょう。
「う、ん……」
旦那様の熱意に応えたくて、私は少しだけ腰を揺らめかせました。
すると、じんわり、中を溶かすようなじれったい感覚がありました。これも甘さです。お腹の中で噛み締めた旦那様は、とても甘いのです。
1,680
お気に入りに追加
2,343
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。
克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。
サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。
【完結】愛する夫の務めとは
Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。
政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。
しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。
その後……
城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。
※完結予約済み
※全6話+おまけ2話
※ご都合主義の創作ファンタジー
※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます
※ヒーローは変態です
※セカンドヒーロー、途中まで空気です
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
【本編完結】戦地から戻り、聖剣を得て聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。
戦場で傍に寄り添い、その活躍により周囲から聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを、彼は愛してしまったのだと告げる。安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラは、居場所を失くしてしまった。
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
一方でフローラは旅路で一風変わった人々と出会い、祝福を知る。
――――――――――――――――――――
※2025.1.5追記 11月に本編完結した際に、完結の設定をし忘れておりまして、
今ごろなのですが完結に変更しました。すみません…!
近々後日談の更新を開始予定なので、その際にはまた解除となりますが、
本日付けで一端完結で登録させていただいております
※ファンタジー要素強め、やや群像劇寄り
たくさんの感想をありがとうございます。全てに返信は出来ておりませんが、大切に読ませていただいております!

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる