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「ミラレッタ、こっちを見て」
「……んっ」
「ふ」

 顔を上げるとすぐに口づけをされ、思わず驚いて息が漏れました。すると旦那様が少し笑ったようでした。口をくっつけているので、もしかしたらただの呼吸かもしれません。
 旦那様の唇はほんの少しだけ私より乾いていて、そして熱く、なんだか食べられてしまいそうな力強さを感じました。

 元夫とはこんなことはしませんでした。いえ、したでしょうか?
 ああ、式でしました。それに一度、気まぐれでされたような気もします。どちらもただ押し付けて終わりの、意味のない行為に思えました。

 けれど旦那様の口づけは長く、長ければ長いほどに、旦那様の熱が流れ込んでくるようです。そうするとまるで、私自身が興奮しているような、そんな気になったのです。
 夫に触れても全く熱の上がらなかった私の体が、じわじわ、じわじわと旦那様に温められています。

「かわいい」
「……」

 こんなに体が熱くて、そして褒められました。その順序を間違えて、褒められたことに熱くなったような、そんな感覚に陥るのです。
 やめてください。
 私は小さくそう言いましたが、旦那さまはまた「かわいい」と言うのです。私は可愛くない女です。

 けれど熱くなった頬で言っても、どうなのでしょうか。
 私が黙っているうちに、旦那さまは私のあちこちに唇を落としました。

 頬に「かわいい」
 耳に「かわいい」
 首筋に「かわいい」

 肩に、腕に、指先に、そして、薄いナイトウェアごしに、脇腹に、腰に。私はあまりくすぐったいと思うことがないのですが、なんだか落ち着かない気分になりました。
 いったいこのまま、どこまで触れるつもりなのでしょうか。

「かわいい」

 旦那様はたっぷりと時間をかけて、楽しげに私の体に触れます。私は気が遠くなりました。だって……。
 5回はしたいとは、聞いていましたけれど、1回がどれだけかかるかなんて聞いていません。

 まさかまさかと思いながら、足の先までキスされるまで、どのくらい時間がかかったでしょうか。触れる肌だけではなく、もう体の芯まで熱いです。けれど最初にキスをした唇は、もう冷え始めていました。

「あ」
「ミラレッタ、ああ、なんて初々しい。かわいくてたまらない」
「そんな」

 そして唇にキスされて、私はぞわぞわ、恐れのような感情を覚えました。もしかして。そう思ったとおりに、旦那さまはまた私の体をいちからキスし始めたのです。

 熱い。
 ぼうっとしてきてしまいました。いけません。初夜から先に寝てしまうなんて、あまりにも印象が悪すぎます。
 こうなれば、早くしてほしいとねだるべきなのでしょうか?
 ですが、ですが私は「もっともっとと求めることはない」と顔合わせの日に言ってしまっているのです。

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