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外に出られるみたいです。
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「外に出られるんですか?」
リーリエは驚いた。
驚いた勢いで軽く跳ね、とんとんと牢の床に着地する。やることのない生活は自由すぎて、ついつい動き回ってしまう。
「……何をしている」
「あっ、すみません」
客人の前でする態度ではなかっただろう。
リーリエはうずうずする足を抑え込み、その場に腰を下ろした。
「気違いめ……」
「リーリエ様、そうなのです。南の果てで異変があるそうで、民が動揺しています。聖女であるリーリエ様にぜひ、民を導いていただきたいのです」
「まあ……」
リーリエは眉を下げて首をかしげた。
そもそも教会から出ることなく育ったリーリエにとって、外の世界に親しみなどない。その上、遠い地の民の話を聞かされても、想像のしようがなかった。
「お顔を見せて、大丈夫だと言ってくださればいいのです」
マイラは軽く言い直した。
顔色を読むのが得意なマイラは、リーリエの民への興味の無さををすぐに察したのだ。
「簡単なお仕事でしょう? それにリーリエ様も外に出てみたいんじゃないかと思って」
「それは……そうですけど……祈らなくてもいいんですか?」
リーリエは少し警戒しながらマイラを見る。
外に出てみたい気持ちはある。しかし祈らされる危険があるなら、リーリエはずっと牢獄にいる方が自由だ。
「もちろんです。神に祈るのは私の仕事ですから」
「まあ!」
リーリエは胸に手をあて、堂々としたマイラの言葉に感動した。
(祈るのは私の仕事ですから。祈るのは、私の、仕事、ですから)
頭の中で何度も反芻する。なんて素晴らしい言葉、石碑に刻んでおきたいような言葉だった。
「おまえの祈りなど神に通じるものか」
王子にとってリーリエは、役に立たない、無用のものだ。
自分に選ばれた真の聖女たるマイラを虐げ、聖女の地位にしがみついておきながら、正気を失ってのんきに暮らしているなど、許しがたい。辺境の荒れ地に厄介払いできることが嬉しくてならない。
「辺境の地の惨状を見て、少しは自らの行いを悔やむがいい」
しかしリーリエにとっては、祈れと言わない良い人である。
「少し遠いですから、馬車になります。リーリエ様、馬車は好きですか?」
「好きです!」
リーリエは即答した。
「がたがた揺れて、楽しいです!」
教会で祈るばかりの日々の中、外に出られた記憶はどれも楽しいものだ。馬車の中でさえリーリエは祈っていたが、ふと目を開ければいつも、知らない景色が見えるのだ。
「それに、馬の体が、引き締まっていて、とても力強くて……」
人よりも力のある生き物を見ると、驚くと同時に安心した。この世界には人間ばかりいるわけではない。
「今回は遠出ですから、リーリエ様が知るよりずっと力強い馬ですよ」
「本当ですか!?」
楽しみだ。
わくわくする体を押さえ、しかし不安にもなった。
「そんなに遠いのですか?」
リーリエは教会から遠く離れたことがない。何があるのだろうと想像は膨らむが、恐ろしさもあるのだ。
「そうですね。南の果てですから……」
「南の果て」
そこは自分の祈りが作り上げた土地だと、実感はなかったが聞いてはいた。地図も学んだので頭に浮かぶが、縮尺の感覚がわからない。
とても遠いのはわかる。
「でも大丈夫ですよ、リーリエ様。たくさん人を連れていけます」
「たくさん……?」
「ええ。リーリエ様は、あまり外に出たことがないのでしょう? なので……」
「わたくしも同行しますわ!」
「おばさま!」
「ふふ。楽しみねえ!」
「な、きさ……!」
ユーファミアが二人をその体で押しのけるようにやってきた。幅があるものだから、どうしてもそうなってしまうのだ。
王子は罵倒しかけて口をつぐんだ。
深く眉間に皺をつくる。
これでもユーファミアが王妃であることを、先日、思い知らされている。元聖女であるユーファミアを、王も少なくとも排除しようとはしないのだ。
「……ユーファミア様」
「マイラ様、ご機嫌よう。さきほど陛下の許可を頂いたところですのよ。リーリエ、南の果てまで、一緒に旅をしましょう?」
「はい! 楽しみです!」
ユーファミアが一緒であれば、リーリエの頭は楽しさでいっぱいになる。
リーリエは驚いた。
驚いた勢いで軽く跳ね、とんとんと牢の床に着地する。やることのない生活は自由すぎて、ついつい動き回ってしまう。
「……何をしている」
「あっ、すみません」
客人の前でする態度ではなかっただろう。
リーリエはうずうずする足を抑え込み、その場に腰を下ろした。
「気違いめ……」
「リーリエ様、そうなのです。南の果てで異変があるそうで、民が動揺しています。聖女であるリーリエ様にぜひ、民を導いていただきたいのです」
「まあ……」
リーリエは眉を下げて首をかしげた。
そもそも教会から出ることなく育ったリーリエにとって、外の世界に親しみなどない。その上、遠い地の民の話を聞かされても、想像のしようがなかった。
「お顔を見せて、大丈夫だと言ってくださればいいのです」
マイラは軽く言い直した。
顔色を読むのが得意なマイラは、リーリエの民への興味の無さををすぐに察したのだ。
「簡単なお仕事でしょう? それにリーリエ様も外に出てみたいんじゃないかと思って」
「それは……そうですけど……祈らなくてもいいんですか?」
リーリエは少し警戒しながらマイラを見る。
外に出てみたい気持ちはある。しかし祈らされる危険があるなら、リーリエはずっと牢獄にいる方が自由だ。
「もちろんです。神に祈るのは私の仕事ですから」
「まあ!」
リーリエは胸に手をあて、堂々としたマイラの言葉に感動した。
(祈るのは私の仕事ですから。祈るのは、私の、仕事、ですから)
頭の中で何度も反芻する。なんて素晴らしい言葉、石碑に刻んでおきたいような言葉だった。
「おまえの祈りなど神に通じるものか」
王子にとってリーリエは、役に立たない、無用のものだ。
自分に選ばれた真の聖女たるマイラを虐げ、聖女の地位にしがみついておきながら、正気を失ってのんきに暮らしているなど、許しがたい。辺境の荒れ地に厄介払いできることが嬉しくてならない。
「辺境の地の惨状を見て、少しは自らの行いを悔やむがいい」
しかしリーリエにとっては、祈れと言わない良い人である。
「少し遠いですから、馬車になります。リーリエ様、馬車は好きですか?」
「好きです!」
リーリエは即答した。
「がたがた揺れて、楽しいです!」
教会で祈るばかりの日々の中、外に出られた記憶はどれも楽しいものだ。馬車の中でさえリーリエは祈っていたが、ふと目を開ければいつも、知らない景色が見えるのだ。
「それに、馬の体が、引き締まっていて、とても力強くて……」
人よりも力のある生き物を見ると、驚くと同時に安心した。この世界には人間ばかりいるわけではない。
「今回は遠出ですから、リーリエ様が知るよりずっと力強い馬ですよ」
「本当ですか!?」
楽しみだ。
わくわくする体を押さえ、しかし不安にもなった。
「そんなに遠いのですか?」
リーリエは教会から遠く離れたことがない。何があるのだろうと想像は膨らむが、恐ろしさもあるのだ。
「そうですね。南の果てですから……」
「南の果て」
そこは自分の祈りが作り上げた土地だと、実感はなかったが聞いてはいた。地図も学んだので頭に浮かぶが、縮尺の感覚がわからない。
とても遠いのはわかる。
「でも大丈夫ですよ、リーリエ様。たくさん人を連れていけます」
「たくさん……?」
「ええ。リーリエ様は、あまり外に出たことがないのでしょう? なので……」
「わたくしも同行しますわ!」
「おばさま!」
「ふふ。楽しみねえ!」
「な、きさ……!」
ユーファミアが二人をその体で押しのけるようにやってきた。幅があるものだから、どうしてもそうなってしまうのだ。
王子は罵倒しかけて口をつぐんだ。
深く眉間に皺をつくる。
これでもユーファミアが王妃であることを、先日、思い知らされている。元聖女であるユーファミアを、王も少なくとも排除しようとはしないのだ。
「……ユーファミア様」
「マイラ様、ご機嫌よう。さきほど陛下の許可を頂いたところですのよ。リーリエ、南の果てまで、一緒に旅をしましょう?」
「はい! 楽しみです!」
ユーファミアが一緒であれば、リーリエの頭は楽しさでいっぱいになる。
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