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むにむにされてしまいました。
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「このくらい小さくて、耳が……こう……手足が……あれ?」
「まあ……」
「あ、違うんですおばさま。もっと、もっとこう」
「ええ、ええ、そうでしょうねえ。ふふ」
ユーファミアは穏やかに微笑むが、ぷるぷると大きな体は震えて、本当はもっと声をあげて笑いたいようだった。
「違うんです。こうじゃなくて……」
「はい」
「ありがとうございます!」
新たな紙を差し出されて、リーリエはもはや救いようのない落書きを退けた。一から描いた方が早い。
「だから、手が……こんな、器用なんです。小さなパンのかけらをつかんで」
「凄いですわねえ」
「あっ、違う。もうちょっと手は長くて……」
「とても長いですわねえ」
「うーん……なんか違う……」
「紙はたくさんありますわ」
リーリエは小さな客人の名を知りたくて、ユーファミアに客人の姿を伝えようとしているのだが、上手くいかない。
ただ記憶のとおりに描けばいいだけなのに、上手くいかないのだ。
「手がちゃんと動いてくれません……」
「たくさん練習すれば、動くようになりますわ」
「そうでしょうか」
「そうですわ」
ユーファミアに言われるとそんな気がしてくる。
それに失敗続きでも楽しかった。教会でも紙とペンは与えられたが、それは文字を学ぶためであって、落書きをする時間などどこにもなかった。
「ふふ」
楽しい。
「爪が長いんですのね」
「え、違うの、指は細くてちっちゃくて……」
「ああいえ、リーリエ、あなたの」
「あ」
リーリエは気づいた。牢番の兵士に気にかけてもらい、体は洗えるし清潔な服も身につけられた。けれど爪のことは気にしていなかった。
「伸ばしているのでないなら、切りましょうか」
ぱちん、ぱちんと爪が切られている。
ユーファミアの丸っこい手は、慣れたように器用に動いた。最初、侍女が「私が」とハサミを手にしたのだが、ユーファミアが取り上げてしまった。
かわりに侍女はペンを握っている。
「……なるほど、では目は、丸く? それとも楕円のようでしょうか」
「えーっと……」
聞かれてリーリエは頑張って思い出す。
しっかりと見たはずだ。けれどいざ、具体的にどうであったかというと、はっきりしない。
「うーん」
「では試しに。このような?」
侍女は魔法のようにさらさらと丸い目を描き、その部分をちぎって、すでに描いた輪郭の上に乗せた。
「違う……ような……んっ」
パチン、とハサミが鳴る。
「痛かったかしら?」
「いえ、なんだか、くすぐったくて」
「あら、ごめんなさいね」
「いいえ。おばさまの手、あったかくて、気持ちいいです」
「ふふっ!」
ユーファミアは嬉しそうに笑うと、リーリエの手をむにむに揉み始めた。
「あっ、んっ、んん~!」
「若い子の手って、張りがあるわあ……」
むにむにむにむに。ぐにぐにぐに。
「いっ……」
「痛い?」
「いたい……ような気持ちいいような……!」
「それは気持ちいいんだと思うわ」
「そ、そうかしら……」
やめてほしいと思わないので、そうかもしれない。ぐにぐに、痛い、でもなんか、じわっと気持ちいい。
「はふぅ」
「ユーファミア様、絵はよろしいのですか?」
「ああ、そうだったわねえ。リーリエ、こっちの目かしら?」
「え、あ……、ああ、こっちの方が……」
「では、次は口ですが……」
「口は……んっ、膨らんでいて」
むにむにされ尽くしたリーリエがくてくてになった頃、絵は完成した。
「これは恐らくルギの子ですね。本来は森にいて、植物の種などを食べています」
「……迷い込んでしまったのでしょうか?」
優秀な侍女の力により、それは間違いなくリーリエの知る小さなお客様だ。そのまま紙に吸い取られたかのように、よく描けている。
「近頃は雑食化しているようですから、種より美味しいものがあって居着いているのかもしれません」
「ああ! そうですね」
リーリエはすごく納得した。
「ここの料理はとても……とても美味しいです!」
ユーファミアが笑う。
「そうねえ。わたくしもそう思うわ。リーリエと一緒だと、よけいに」
「私もおばさまと一緒だと美味しいです!」
「そう?」
「はい。食べても美味しいし、おばさまがとても美味しそうなので、美味しいです」
「まあ……」
「あ、違うんですおばさま。もっと、もっとこう」
「ええ、ええ、そうでしょうねえ。ふふ」
ユーファミアは穏やかに微笑むが、ぷるぷると大きな体は震えて、本当はもっと声をあげて笑いたいようだった。
「違うんです。こうじゃなくて……」
「はい」
「ありがとうございます!」
新たな紙を差し出されて、リーリエはもはや救いようのない落書きを退けた。一から描いた方が早い。
「だから、手が……こんな、器用なんです。小さなパンのかけらをつかんで」
「凄いですわねえ」
「あっ、違う。もうちょっと手は長くて……」
「とても長いですわねえ」
「うーん……なんか違う……」
「紙はたくさんありますわ」
リーリエは小さな客人の名を知りたくて、ユーファミアに客人の姿を伝えようとしているのだが、上手くいかない。
ただ記憶のとおりに描けばいいだけなのに、上手くいかないのだ。
「手がちゃんと動いてくれません……」
「たくさん練習すれば、動くようになりますわ」
「そうでしょうか」
「そうですわ」
ユーファミアに言われるとそんな気がしてくる。
それに失敗続きでも楽しかった。教会でも紙とペンは与えられたが、それは文字を学ぶためであって、落書きをする時間などどこにもなかった。
「ふふ」
楽しい。
「爪が長いんですのね」
「え、違うの、指は細くてちっちゃくて……」
「ああいえ、リーリエ、あなたの」
「あ」
リーリエは気づいた。牢番の兵士に気にかけてもらい、体は洗えるし清潔な服も身につけられた。けれど爪のことは気にしていなかった。
「伸ばしているのでないなら、切りましょうか」
ぱちん、ぱちんと爪が切られている。
ユーファミアの丸っこい手は、慣れたように器用に動いた。最初、侍女が「私が」とハサミを手にしたのだが、ユーファミアが取り上げてしまった。
かわりに侍女はペンを握っている。
「……なるほど、では目は、丸く? それとも楕円のようでしょうか」
「えーっと……」
聞かれてリーリエは頑張って思い出す。
しっかりと見たはずだ。けれどいざ、具体的にどうであったかというと、はっきりしない。
「うーん」
「では試しに。このような?」
侍女は魔法のようにさらさらと丸い目を描き、その部分をちぎって、すでに描いた輪郭の上に乗せた。
「違う……ような……んっ」
パチン、とハサミが鳴る。
「痛かったかしら?」
「いえ、なんだか、くすぐったくて」
「あら、ごめんなさいね」
「いいえ。おばさまの手、あったかくて、気持ちいいです」
「ふふっ!」
ユーファミアは嬉しそうに笑うと、リーリエの手をむにむに揉み始めた。
「あっ、んっ、んん~!」
「若い子の手って、張りがあるわあ……」
むにむにむにむに。ぐにぐにぐに。
「いっ……」
「痛い?」
「いたい……ような気持ちいいような……!」
「それは気持ちいいんだと思うわ」
「そ、そうかしら……」
やめてほしいと思わないので、そうかもしれない。ぐにぐに、痛い、でもなんか、じわっと気持ちいい。
「はふぅ」
「ユーファミア様、絵はよろしいのですか?」
「ああ、そうだったわねえ。リーリエ、こっちの目かしら?」
「え、あ……、ああ、こっちの方が……」
「では、次は口ですが……」
「口は……んっ、膨らんでいて」
むにむにされ尽くしたリーリエがくてくてになった頃、絵は完成した。
「これは恐らくルギの子ですね。本来は森にいて、植物の種などを食べています」
「……迷い込んでしまったのでしょうか?」
優秀な侍女の力により、それは間違いなくリーリエの知る小さなお客様だ。そのまま紙に吸い取られたかのように、よく描けている。
「近頃は雑食化しているようですから、種より美味しいものがあって居着いているのかもしれません」
「ああ! そうですね」
リーリエはすごく納得した。
「ここの料理はとても……とても美味しいです!」
ユーファミアが笑う。
「そうねえ。わたくしもそう思うわ。リーリエと一緒だと、よけいに」
「私もおばさまと一緒だと美味しいです!」
「そう?」
「はい。食べても美味しいし、おばさまがとても美味しそうなので、美味しいです」
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