11 / 12
外面殿下にさようなら?
しおりを挟む
「エミュシカ!」
「まあ、ダーヴァリッド殿下、お目にかかれて光栄でございます。失礼ですが、私、お約束を忘れておりましたでしょうか?」
「い、いや、急な訪問で申し訳ない。だが、君が叔父上と婚約したと、いや、私と婚約しているはずだ、そんなわけはないだろう?」
その話を聞いて、急ぎ駆けつけてきたらしい。
私はちょっと笑いそうになった。やっぱり聖女と呼ぶには私は意地が悪いのだろう。
でも、私のことなど歯牙にもかけなかった殿下が、このさまなのだ。少しくらい「ざまぁ」と思っても許されたい。
「陛下にお伺いしたところ、あくまで候補であったとのことでした。私の教育が落ち着くまで、待っていてくださったのでしょう? ありがとうございます」
「そ……れは、そうだ、が……」
心からの嫌味を込めて微笑むと、殿下の顔色が悪くなっていった。
そう、思い返してみれば私達は婚約などしていなかった。たとえ家と王家との契約でも、準成人である私本人のサインが必要なはずだ。
殿下はひとまず陛下に従うように見せて、そうやって時間稼ぎをしていたのだ。
「し、しかし、候補とはいえ、勝手にそのような」
「陛下の許可は頂けました」
「……」
殿下の顔色がいよいよひどい。
それもそうか。陛下はもう殿下への期待をやめた、と伝えたも同じだ。少なくとも陛下は、無理やり婚約者を押し付けて王太子の体裁を整えることはやめたのだ。
ふらり、殿下の体が傾く。
「大丈夫ですか?」
「……ああ」
なんとか踏みとどまっているという様子で、自分を立て直そうとしている。私は少し微笑んだ。
簡単に折れられるよりは、まあ、良いです。
いや、さすがにこれ以上いじめる気もないんだけど。だってもう、関係のない人だ。嫌なこと言われたから嫌なことを言い返してやった。終わり。
「シュナさんと殿下はお似合いだと思ったのです。私は身を引きます。その、よいご縁も頂けましたので」
と、言うのはちょっと気恥ずかしかった。
大司教様は私が好きだというわけではなく、これしかないから結婚してくれたんだろうな。私も、大司教様を恋愛的な意味で好きかというと微妙なんだけど……嫌いではもちろんない。好き……というのは、どうも落ち着かない。だってずっとおじいちゃんだったのだ。
「シュナは……結婚すると」
「え?」
「身分に見合った相手と、結婚すると……」
「あ、諦めたんだ」
私が思わず言うと、殿下が表情を引きつらせた。
いやでも現実的だと思うよ。シュナさんは私を傷つけたわけではないから、罪とするには難しいところだ。でもあんな場で計略がバレて、社交界に堂々残り続けるのは難しいだろう。
なんなら、殿下の足さえ引っ張る。それを嫌がったのかもね。
「すみません、つい。ですがどのみち私では不相応だったでしょう。少し爵位が下がっても、マナーのきちんとしたご令嬢を探すのが良いですよ」
「き、君でなければならないんだ」
「まあ、なぜですか?」
「爵位の低い令嬢では侮られる。私の治世を安定させるためには……」
「気弱になってらっしゃるのね。大丈夫、シュナさんを妻にすると意気込んだ気持ちを思い出してくださいませ。周囲の不安など自分の能力で吹き飛ばせる、そう信じたのでしょう?」
「だがっ……! シュナはもう」
「殿下、熱意さえあればどうにかなると信じたのでしょう? 私、殿下のそういうところは悪くないと思いますよ」
少なくとも口だけの人ではなかった。
シュナさんのために、彼女を妻にするために色々と努力したのだろう。私に対する態度を見る限り、あんまりよろしくない努力もありそうだけれども。
「がんばってください。そもそもですが、私と大司教様の婚約はすでに成立しています。こちらに来ても時間の無駄ですよ」
「どうとでもなる! 君とて聖女などより……」
「私は聖女になります。あ、リューン様もすぐにご結婚なさるそうですから、大丈夫ですよ。よいご縁を頂いたこと、殿下に感謝しておりました」
やはり、高位令嬢を片付ける殿下の作戦の一環で、リューン様にも婚約者候補ができたらしい。二人はとても馬が合うと喜んでいたので、殿下の気持ちはともかく、これは良いことをしたと思いますよ、うん。
「さて、申し訳ないのですが、私も時間がないのです。これからマーカーナ山に向かいますから。……あ、そうだ」
とても普通なら会えないような人が、こうして会いに来てくれたのだ。
絶好の機会だった。危ない危ない、こういう縁を大事にしていかないとな。
「殿下も協力してくれませんか? もしかすると、この失態を取り戻せるかもしれませんよ」
「まあ、ダーヴァリッド殿下、お目にかかれて光栄でございます。失礼ですが、私、お約束を忘れておりましたでしょうか?」
「い、いや、急な訪問で申し訳ない。だが、君が叔父上と婚約したと、いや、私と婚約しているはずだ、そんなわけはないだろう?」
その話を聞いて、急ぎ駆けつけてきたらしい。
私はちょっと笑いそうになった。やっぱり聖女と呼ぶには私は意地が悪いのだろう。
でも、私のことなど歯牙にもかけなかった殿下が、このさまなのだ。少しくらい「ざまぁ」と思っても許されたい。
「陛下にお伺いしたところ、あくまで候補であったとのことでした。私の教育が落ち着くまで、待っていてくださったのでしょう? ありがとうございます」
「そ……れは、そうだ、が……」
心からの嫌味を込めて微笑むと、殿下の顔色が悪くなっていった。
そう、思い返してみれば私達は婚約などしていなかった。たとえ家と王家との契約でも、準成人である私本人のサインが必要なはずだ。
殿下はひとまず陛下に従うように見せて、そうやって時間稼ぎをしていたのだ。
「し、しかし、候補とはいえ、勝手にそのような」
「陛下の許可は頂けました」
「……」
殿下の顔色がいよいよひどい。
それもそうか。陛下はもう殿下への期待をやめた、と伝えたも同じだ。少なくとも陛下は、無理やり婚約者を押し付けて王太子の体裁を整えることはやめたのだ。
ふらり、殿下の体が傾く。
「大丈夫ですか?」
「……ああ」
なんとか踏みとどまっているという様子で、自分を立て直そうとしている。私は少し微笑んだ。
簡単に折れられるよりは、まあ、良いです。
いや、さすがにこれ以上いじめる気もないんだけど。だってもう、関係のない人だ。嫌なこと言われたから嫌なことを言い返してやった。終わり。
「シュナさんと殿下はお似合いだと思ったのです。私は身を引きます。その、よいご縁も頂けましたので」
と、言うのはちょっと気恥ずかしかった。
大司教様は私が好きだというわけではなく、これしかないから結婚してくれたんだろうな。私も、大司教様を恋愛的な意味で好きかというと微妙なんだけど……嫌いではもちろんない。好き……というのは、どうも落ち着かない。だってずっとおじいちゃんだったのだ。
「シュナは……結婚すると」
「え?」
「身分に見合った相手と、結婚すると……」
「あ、諦めたんだ」
私が思わず言うと、殿下が表情を引きつらせた。
いやでも現実的だと思うよ。シュナさんは私を傷つけたわけではないから、罪とするには難しいところだ。でもあんな場で計略がバレて、社交界に堂々残り続けるのは難しいだろう。
なんなら、殿下の足さえ引っ張る。それを嫌がったのかもね。
「すみません、つい。ですがどのみち私では不相応だったでしょう。少し爵位が下がっても、マナーのきちんとしたご令嬢を探すのが良いですよ」
「き、君でなければならないんだ」
「まあ、なぜですか?」
「爵位の低い令嬢では侮られる。私の治世を安定させるためには……」
「気弱になってらっしゃるのね。大丈夫、シュナさんを妻にすると意気込んだ気持ちを思い出してくださいませ。周囲の不安など自分の能力で吹き飛ばせる、そう信じたのでしょう?」
「だがっ……! シュナはもう」
「殿下、熱意さえあればどうにかなると信じたのでしょう? 私、殿下のそういうところは悪くないと思いますよ」
少なくとも口だけの人ではなかった。
シュナさんのために、彼女を妻にするために色々と努力したのだろう。私に対する態度を見る限り、あんまりよろしくない努力もありそうだけれども。
「がんばってください。そもそもですが、私と大司教様の婚約はすでに成立しています。こちらに来ても時間の無駄ですよ」
「どうとでもなる! 君とて聖女などより……」
「私は聖女になります。あ、リューン様もすぐにご結婚なさるそうですから、大丈夫ですよ。よいご縁を頂いたこと、殿下に感謝しておりました」
やはり、高位令嬢を片付ける殿下の作戦の一環で、リューン様にも婚約者候補ができたらしい。二人はとても馬が合うと喜んでいたので、殿下の気持ちはともかく、これは良いことをしたと思いますよ、うん。
「さて、申し訳ないのですが、私も時間がないのです。これからマーカーナ山に向かいますから。……あ、そうだ」
とても普通なら会えないような人が、こうして会いに来てくれたのだ。
絶好の機会だった。危ない危ない、こういう縁を大事にしていかないとな。
「殿下も協力してくれませんか? もしかすると、この失態を取り戻せるかもしれませんよ」
612
お気に入りに追加
559
あなたにおすすめの小説

誰でもよいのであれば、私でなくてもよろしいですよね?
miyumeri
恋愛
「まぁ、婚約者なんてそれなりの家格と財産があればだれでもよかったんだよ。」
2か月前に婚約した彼は、そう友人たちと談笑していた。
そうですか、誰でもいいんですね。だったら、私でなくてもよいですよね?
最初、この馬鹿子息を主人公に書いていたのですが
なんだか、先にこのお嬢様のお話を書いたほうが
彼の心象を表現しやすいような気がして、急遽こちらを先に
投稿いたしました。来週お馬鹿君のストーリーを投稿させていただきます。
お読みいただければ幸いです。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?


結婚式後に「爵位を継いだら直ぐに離婚する。お前とは寝室は共にしない!」と宣言されました
山葵
恋愛
結婚式が終わり、披露宴が始まる前に夫になったブランドから「これで父上の命令は守った。だが、これからは俺の好きにさせて貰う。お前とは寝室を共にする事はない。俺には愛する女がいるんだ。父上から早く爵位を譲って貰い、お前とは離婚する。お前もそのつもりでいてくれ」
確かに私達の結婚は政略結婚。
2人の間に恋愛感情は無いけれど、ブランド様に嫁ぐいじょう夫婦として寄り添い共に頑張って行ければと思っていたが…その必要も無い様だ。
ならば私も好きにさせて貰おう!!

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。


初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる