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「ふふ。ねじ切ってみましょうか」
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そのようなわけで、わたくしはローダド元王子を婿に迎えることとなりました。
式などは行いません。殿下、いえ、ローダドにも「白い結婚となる」ことを伝え、離れに部屋を用意しました。
もともとわたくしも離れにおりますので、形式としては問題ないでしょう。
しかし結婚証明書にサインをした夜のことです。
わたくしの自室にローダドがやってきました。
「何の用ですの?」
わたくしの機嫌はよくありません。ただでさえこのところ、本格的に公爵家の後継としての仕事を任されることになったのです。覚えることがたくさんあります。
おまけに形だけといっても、元王子を婿に迎えたのです。それなりの連絡・報告の必要があり、大量の手紙を書いたのです。
それがようやく終わって就寝時間前でした。
疲れているのにバカの相手などしたくありません。
「はは、何の用だって? 俺の口から言わせたいのかい、ミスティシャ。今日は素晴らしい夜になるはずさ」
「……白い結婚になるとお伝えしていたでしょう」
「馬鹿なことを。君が意地を張っているだけなのはわかっているよ。だからこそ、こうして侍女のひとりもおかずに待っていたのだろう?」
きも。
鳥肌立ちましたわ。
侍女のひとりもいないのはいつものことです。
大きな秘密を持つ身の上ですから、そばにおく者は必要最低限にしています。公爵家の次代についての大きな秘密です。うっかり知ってしまったがゆえに、身の破滅を迎えさせる可能性さえありました。
わたくしが本邸でなく離れにいるのも、本邸には使用人が多いためです。さすがに仕事上の来客もある本邸を手薄にするわけにはいきません。
とはいえこの離れにも護衛や下働きはいるのですが、元王子だからと通してしまったのでしょう。コレに気を使う必要はないと、使用人の教育も必要でしたわね。
「ミスティシャ、拗ねてないで、俺に身を任せればいい……」
「お帰りください」
「ぶっ!?」
わたくしは軽く平手でローダドの頬を打ちました。
婚姻して早々の粗相ではありますが、使用人の教育を間に合わせられなかったこちらにも非があります。この程度で許しておきましょう。
というか、顔を見るのももううんざりですもの。
「下手に出ていれば調子に乗って……!」
「それはこちらの台詞ですよ」
これで大人しく帰っていればよかったのに、調子に乗って。
ローダドはわたくしを壁に押し付けてきました。
疲れているというのに、どうしてこんな深夜から躾をはじめなきゃいけないんでしょうか。いずれ必要だとは思っていましたけれど。
「ははっ! 生意気な言葉もかわいいものだ。なに、心配することはない。望み通り、おまえがどんなに嫌がっても抱いてやろう」
「ご遠慮させていただきます」
「ふん、好きものめ。強引にされるのが好きなんだな? 俺の子を生む腹だ、優しくしてやろうと思っていたというのに、なあっ……!?」
わたくしは思い切りローダドの股間を蹴りつけました。
ローダドが前かがみに倒れて悶絶しています。
ええ、秘密を持つ身ですので、そばに多くの人を置けませんでしたもの。そのぶん自分の身を守る力を身につけるのは当然でしょう?
匿名で平民の道場に所属していたわたくしは、貴族が身につける護身術以上の力を手に入れております。
そもそもわたくしも男ですので、ろくに鍛えていないローダドに力負けするはずがありません。男の身で女性らしく優雅に動くというのも、なかなか筋肉が鍛えられましてよ。
「どうかしたら? きちんと潰れましたかしら?」
「こぉ、のっ、アマァ!」
「お下品ですこと。そんなことでは『女の子』にはなれませんわよ?」
わたくしはローダドの顎を蹴りつけ、黙らせてからズボンと下着を脱がせてみました。
「あら、無事ですわね」
ぐったりとしてはいますが、腫れ上がったりはしていません。今度はもっと力を入れても大丈夫でしょうね。
「な、なっ、な!」
「ふふ。ねじ切ってみましょうか」
「ヒッ」
ぎゅっと力を入れて握ってみました。
痛いのでしょうねえ。
わたくしも男の体を持っておりますから、痛み自体はわかります。ですが好きでもない相手の痛みを斟酌するような、優しい気持ちは持ち合わせがないようですわ。
「いぐっ、ぐっ!」
「まあ、ご冗談を。そこまで力を入れてはおりませんわよ?」
「ぎぃっ!」
「ふふ、まるで死んでしまいそうなお声ねえ」
本当に、潰れるほどの力を入れてはいません。恐怖とさきほどの痛みが残っているせいで、強く錯覚しているのでしょう。
いえ、本当に潰しても良いんですけれどね。わたくしと結婚したからにはもうこれ、使う必要はありませんもの。
潰してしまったら大人しくなるかもしれませんし。
ただ、さすがに医者を呼ぶ必要がありますわよね。
「どうしましょうかしら……」
式などは行いません。殿下、いえ、ローダドにも「白い結婚となる」ことを伝え、離れに部屋を用意しました。
もともとわたくしも離れにおりますので、形式としては問題ないでしょう。
しかし結婚証明書にサインをした夜のことです。
わたくしの自室にローダドがやってきました。
「何の用ですの?」
わたくしの機嫌はよくありません。ただでさえこのところ、本格的に公爵家の後継としての仕事を任されることになったのです。覚えることがたくさんあります。
おまけに形だけといっても、元王子を婿に迎えたのです。それなりの連絡・報告の必要があり、大量の手紙を書いたのです。
それがようやく終わって就寝時間前でした。
疲れているのにバカの相手などしたくありません。
「はは、何の用だって? 俺の口から言わせたいのかい、ミスティシャ。今日は素晴らしい夜になるはずさ」
「……白い結婚になるとお伝えしていたでしょう」
「馬鹿なことを。君が意地を張っているだけなのはわかっているよ。だからこそ、こうして侍女のひとりもおかずに待っていたのだろう?」
きも。
鳥肌立ちましたわ。
侍女のひとりもいないのはいつものことです。
大きな秘密を持つ身の上ですから、そばにおく者は必要最低限にしています。公爵家の次代についての大きな秘密です。うっかり知ってしまったがゆえに、身の破滅を迎えさせる可能性さえありました。
わたくしが本邸でなく離れにいるのも、本邸には使用人が多いためです。さすがに仕事上の来客もある本邸を手薄にするわけにはいきません。
とはいえこの離れにも護衛や下働きはいるのですが、元王子だからと通してしまったのでしょう。コレに気を使う必要はないと、使用人の教育も必要でしたわね。
「ミスティシャ、拗ねてないで、俺に身を任せればいい……」
「お帰りください」
「ぶっ!?」
わたくしは軽く平手でローダドの頬を打ちました。
婚姻して早々の粗相ではありますが、使用人の教育を間に合わせられなかったこちらにも非があります。この程度で許しておきましょう。
というか、顔を見るのももううんざりですもの。
「下手に出ていれば調子に乗って……!」
「それはこちらの台詞ですよ」
これで大人しく帰っていればよかったのに、調子に乗って。
ローダドはわたくしを壁に押し付けてきました。
疲れているというのに、どうしてこんな深夜から躾をはじめなきゃいけないんでしょうか。いずれ必要だとは思っていましたけれど。
「ははっ! 生意気な言葉もかわいいものだ。なに、心配することはない。望み通り、おまえがどんなに嫌がっても抱いてやろう」
「ご遠慮させていただきます」
「ふん、好きものめ。強引にされるのが好きなんだな? 俺の子を生む腹だ、優しくしてやろうと思っていたというのに、なあっ……!?」
わたくしは思い切りローダドの股間を蹴りつけました。
ローダドが前かがみに倒れて悶絶しています。
ええ、秘密を持つ身ですので、そばに多くの人を置けませんでしたもの。そのぶん自分の身を守る力を身につけるのは当然でしょう?
匿名で平民の道場に所属していたわたくしは、貴族が身につける護身術以上の力を手に入れております。
そもそもわたくしも男ですので、ろくに鍛えていないローダドに力負けするはずがありません。男の身で女性らしく優雅に動くというのも、なかなか筋肉が鍛えられましてよ。
「どうかしたら? きちんと潰れましたかしら?」
「こぉ、のっ、アマァ!」
「お下品ですこと。そんなことでは『女の子』にはなれませんわよ?」
わたくしはローダドの顎を蹴りつけ、黙らせてからズボンと下着を脱がせてみました。
「あら、無事ですわね」
ぐったりとしてはいますが、腫れ上がったりはしていません。今度はもっと力を入れても大丈夫でしょうね。
「な、なっ、な!」
「ふふ。ねじ切ってみましょうか」
「ヒッ」
ぎゅっと力を入れて握ってみました。
痛いのでしょうねえ。
わたくしも男の体を持っておりますから、痛み自体はわかります。ですが好きでもない相手の痛みを斟酌するような、優しい気持ちは持ち合わせがないようですわ。
「いぐっ、ぐっ!」
「まあ、ご冗談を。そこまで力を入れてはおりませんわよ?」
「ぎぃっ!」
「ふふ、まるで死んでしまいそうなお声ねえ」
本当に、潰れるほどの力を入れてはいません。恐怖とさきほどの痛みが残っているせいで、強く錯覚しているのでしょう。
いえ、本当に潰しても良いんですけれどね。わたくしと結婚したからにはもうこれ、使う必要はありませんもの。
潰してしまったら大人しくなるかもしれませんし。
ただ、さすがに医者を呼ぶ必要がありますわよね。
「どうしましょうかしら……」
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