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ユリアは知っています。お嬢様が必死で気持ちを押し殺していることを。

今もきっと、この扉の向こう側で一人思い悩んでいるのでしょうね。


あの時からお嬢様は随分と明るくなられました。数ヶ月前、ニコラウス様と出会われた頃から。



♢♢♢




「ねぇ、ユリア、聞いてくれる?」

「どうしたのですか?」

私は手に持ったティーポットで、お嬢様のために、お気に入りの紅茶を注ぎながらそう返した。


「今日ニコラウスと、あぁ、ニコラウスって言うのは例の森で出会った方ね。」

「は、はぁ……。」

昨日は本当に驚いた。屋敷が騒がしいと思ったら何故か、嬢様は顔に泥をつけて、ワンピースの裾はボロボロでご帰宅。

そしてその後に続き、これまた何故か意識を失った男性が屋敷に運び込まれてきた。


何があったのか理解するのに相当な時間を要しました。無事にお嬢様が帰ってきてくれて本当に良かった。あの時は心底気肝が冷えました。


「でね、これ見て!凄く綺麗でしょ?」

そう言ってお嬢様はどこからともなく取りだした藍色のペンダントが堂々と掲げられていた。

「確かに、縁どりも緻密で……この石のカットも綺麗ですね。とても素敵です。」

「そ、そんなに丁寧に褒められるとは思っていなかったわ……、ありがとう?」

「ふふっ、どういたしまして。」

お嬢様は戸惑いながらも、少し気恥しそうに頬をほんのり上気させている。


出会い方はさて置き、ニコラウス様がお嬢様を変えることが出来るのであれば、ユリアは喜んで応援させていただきます。 


それからというもの、だ。


「ねぇユリア、ニコラウスが……」

「ねぇ!ニコラウスが酷いの!!」

「今日はニコラウスがね……」

口を開けば、すぐニコラウス様のお話。

でも、そんな可愛らしいお嬢様とお話したり、時に傍から見守ったりのが大好きでした。


だがここ数日は、だ。

そんな話はピタリと止み、それと比例してお嬢様が口を開くことも少なくなった。

何とか会話を弾ませようと話しかけてみても、愛想笑いと弱々しい言葉しか帰ってこないのです。


お嬢様が大好きだったはずの紅茶も今までは3日に一度必ず買いに行っていたのに、その必要も無くなってしまいました。


丁度ルーク様がノイラート家を尋ねられた夜、ついに泣き出しそうなお嬢様の様子に耐えかね、失礼は承知で思い切りその小さな体を抱きしめた。


「お嬢様、大丈夫です。ユリアはいつでもお嬢様様の味方です。」

その拍子に、心のバケツに小さな穴が空いてしまったかのように、徐々にお嬢様はその美しい瞳を涙で濡らしたのだった。

私には何故そんなにもお嬢様が抱え込んでしまっているのかは分かりません。

私だったら、周りや後先なんて考えず、そのまま愛する人と何処か遠くへ逃げてしまうと思います。




嬢様は優しすぎるんです。




ユリアもレティシアと共に、その背で密かに涙を流した。
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