上 下
4 / 39

2.

しおりを挟む
レティシアは馬に跨り、目的の薬草を求め、森の奥へ奥へと進んで行った。

今日は、薬草摘みにはもってこいの晴天である。


しばらく馬を走らせると、領地内にぽつりとある小屋に馬を止め、ここまで被ってきた麦わら帽子を置き、更に森の深くへと足を運んだ。

ノイラート家の領地は王都の端も端。驚く程に広大な土地であるため、森の奥まで来れば王都をゆうに抜けてしまうのだ。


しばらくこの辺りには来ていなかった為か、沢山の薬草が生い茂っている。

これだけ生えてればこのバスケットいっぱいにしてもそんなに時間かからないわよね……。よし、今日の目標はバスケット満タン!頑張るぞ、私!

レティシアはそう決意し、また森の奥へ奥へと歩みを進めた。


そうしてしばらくの時間が経過し、想像していたよりも多くの薬草を採取することが出来た。その量はバスケットだけでは足りない程であった。

そんな時間経過に伴い、西の方向にある太陽が徐々に傾き始めていることに気がついた。


大分量も集まったし、そろそろ帰ろうかしら?

そう思い、くるりと方向転換し鼻歌を歌いながら小屋の方へ戻ろうとした時、奥のほうで何かがガサリと動くのが目に映った。

「ひゃぇあ!!」

え、ちょっとまって、何か変な声出ちゃった恥ずかしい!!!!でも今何か動いたよね、まって!?!めっちゃ怖いんですけど!?!?


レティシアは動揺し、一方後退りした。

するとまた同じ場所から、うめき声のようなものが聴こえてきた。


「……………………っ”………て‘‘………。」


なんか喋った!?!?やだ超怖いんですけど!?!
ここって熊でも出るっけ??治安悪い!!


そしてレティシアはその辺に落ちていた板を盾に、数分間その茂みと睨み合いを拮抗したが、その後その茂みからうめき声や動きは無かった。


あれ、どっか行っちゃったのかな……?完璧に動かなくなっちゃったけど。

レティシアには謎の度胸と好奇心があるようで、そこで止めておけばいいものを、1歩、また1歩とその茂みに向かって歩みを進めた。

「もしもし……?熊さん居ますか……」

もし熊だったとして人間の言語が通じるのかは微妙なところだが、まぁそこはこの際どうでも良い。

結局好奇心には勝てず、レティシアは落ちていた木の棒を握りしめると、その茂みの中へ右足を踏み入れた。


「っ”ぐ………!」

「ぴゃぁあ!!!!」

レティシアは、その茂みの中にあった重たい物体に躓くと同時に、その場からうめき声のようなものが聞こえると、レティシアも叫び声を上げその場に倒れ込んだ。


いてて…何に躓いて………まって、これって男の人………?それよりこの人めっちゃ怪我してるじゃないの!!

そこには全身から血を流した男性が横たわっていた


「だ、大丈夫ですか!!!大丈夫ですか!!!!」


「……………………ぃ”、じょ………っ”。」

まって、多分大丈夫じゃないよね?どうしよ、流石に私1人じゃあこの人持ち上げられないし………

そうだ、とりあえずポーション飲ませて止血して………とりあえず家に連れて帰りましょう!

そしてレティシアは、バスケットいっぱいに詰めてあった薬草を取りだし、自分のワンピースの裾をちぎると、その男性の傷口に薬草と共に縛り付けた。


「!?!?!?」

その男性は、レティシアの瞳を見つめ、その目を見開いた。

木によって陽の光が揺られ、それに伴いレティシアの瞳も2つの色が入り交じり、ゆらゆらと揺れていたのだ。

手当に没入しているレティシアにそんな男性の様子を気に止める余裕は無いようで、必死に傷口を押さえていた。


「これ、飲んでください!……飲めますか?」

首を振れないのであろう、その代わりにその男性は深く瞬きをし、こちらに視線を送ってきた。

その男性の了承を得ると、母に「非常時に使いなさい。」と言われてポシェットに常時忍ばせている少しお高めのポーションをその男性の口へ運んだ。

口に注いではみるものの、寝たまま体を動かせないため、全て口の端から溢れ出ているようだ。

その男性も苦々しそうな顔でこちらを見ている。


レティシアはどうしたものかと考え、瞬時に思いついた策を直ぐに実行に移した。

レティシアは、そのポーションを口にくいっと含み、その男性の口へとポーションを移した。


「!?!?!?!?」

その男性は驚いたようで、目を見張っている。



まぁ、とりあえずポーションを飲ませることが出来たし、一件落着ね。うん。

そして少しその男性は少し元気を取り戻したようで、自ら起き上がろうとしている。

とは言っても一時的な止血と痛み止めでしかないので体に巻かれた布からは、まだ痛々しい傷が覗いている。

「まだだめですっ!衛兵を呼んでくるので待っててください!絶対動かないでくださいね!!!」

すると、レティシアはその場にポシェットとバスケットを置き、急いで屋敷へと衛兵を呼びに帰っていった。




「…………………ありがとう。」

その男性は地面に横たわったまま、自分の為にせっせと走ってくれている彼女の背中に、小さく口元を綻ばせ、そう呟いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜

楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。 ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。 さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。 (リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!) と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?! 「泊まっていい?」 「今日、泊まってけ」 「俺の故郷で結婚してほしい!」 あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。 やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。 ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?! 健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。 一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。 *小説家になろう様でも掲載しています

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

重婚なんてお断り! 絶対に双子の王子を見分けてみせます!

犬咲
恋愛
神殿の巫女であるクレアは突然、神の子と呼ばれ讃えられている王太子ウィリアムの花嫁に選ばれる。王太子に恋心を持っていたクレアはそれを引き受けるが、そんな彼女を待っていたのは“二人の”王子。なんとウィリアムの本当の姿は、ウィルとリアムという双子の王子だった!? すでに彼らとの結婚は避けられないが、それでも重婚は嫌! クレアは二人と交渉し勝負を行うことになる。それは一か月後までに二人を見分けられるようになれば、重婚を回避できる、というもの。クレアは二人を見分けられるよう観察を始めるが……ご奉仕王子と無邪気王子にゆっくりじわじわ絆される、とろあまシンデレララブロマンス!

処理中です...