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「で、どうだったの、ニコラウス?」

「んー、いや、うん。」

「いや、どっちだよ。せっかく資料貸してやったのに。」

するとレオンハルトは口を尖らせ、右手に持っていたペンをくるくると回し始めた。

そう、ニコラウスは現在レオンハルトの執務室に入り浸り、調べ事をしている。


「なぁカインツ~俺もそっちがいいんだけど!」

「あんたは執務でしょ、早く済ませて下さい。」

「敬語とタメが混ざってんぞ~!別に良いけど。」


現在、俺の前で会話を繰り広げているのは、この国の第2王子、レオンハルト・ディア・カルトレアと、その側近のカインツ・エルフィストンである。


カインツはレオンの側近として、俺はこの城の近衛兵団副団長としてこの城に務めているのだ。

この2人とは幼少期からの付き合いで、こうして執務室に入り浸り、世間話やら何やらをする事も多々ある。この2人は、俺が唯一気を許している友人と言っても過言では無いだろう。


「そんでニコラウスの方はどうなんだ?」

「驚く程見つからないよ。」

そう言うとニコラウスは1つため息をついた。

「それは残念だな!残念ついでに俺のも手伝ってくれても……「意味が分からん、却下。」

「デスヨネ………」

レオンハルトは1度項垂れると、再びペンを握り、大きなため息をつきながら、目の前に積み上げられた紙を1番上から崩し始めた。


一体俺がこの執務室で調べていたのか、と言うと彼女、レティシアについてだ。


この執務室には公爵家から男爵家まで、爵位を持つ家の娘の絵姿と名前が全て記された記録紙が保管されている。これらは、レオンハルトの婚約者探しをより迅速に、という事で用意されたものである。

長らく使われることがなかったソレを俺が有効に利用させてもらっている、と言う訳だ。


それなのに、だ。

男爵、子爵、全ての者を調べ尽くしたが彼女に該当する顔と名前は一切見つからない。

流石に伯爵ともあれば、大抵は把握しているつもりだったんだけど。偽名、を使う意味も無いしな。

ニコラウスは先が思いやられるなと、ひとつため息を漏らした。

ダメ元でレオンハルトにでも聞いてみるかと思い、ニコラウスは口を開いた。


「ねぇレオン、レティシアって名前に聞き覚え無いかな?」

「ふぅん、レティシアって言うのか……でも、記憶には無いかなぁ?あんまり公の場に出てこない男爵家とかなんじゃない?」

今しがたその男爵家を網羅したはずなんだけど……


「うーん、カインツなら知ってるんじゃないか?」

カインツはそう問われると、顎に指を添え、何かを考え始めた。

しばらくすると、何かを思い出したかのようにはっと顔を上げ、口を開いた。

「…………、ノイラート家のご令嬢では?確か名前はレティシアだった気がするけれど……」

ノイラート家……、あの大商家のご息女、つまり…

「おい、でも彼女って社交界に出てる所見たことないし、あんまりいい噂聞かないぞ?」

「………………。」

「ニコラウス、聞いてる?」

「…………本当に面白いね、レティシアは。」

「まぁニコラウスがそう言うなら否定はしないさ。よく分かんねぇけど頑張れよ~」

レオンハルトがゆらゆらと手を振るのを後目に、ニコラウスは、何故かその口元を緩めている。



まぁ、運命とやらに従ってみるのも案外悪くないのかも知れないな。

そう心の中で呟くのであった。




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