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27.

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レティシアは深呼吸をし、胸を撫でた。


今日は式の当日。今日の為に誂えた特注のドレスに身を包み、今日のためにと、加工が加えられた琥珀色のペンダントを首から提げている。

すると急に誰かに後ろから抱きしめられた。

「ねぇティア、緊張してる?」

「そりゃあもう、もの凄くね。」

「大丈夫、俺がいる。」

そう言ってニコラウスはレティシアの額に唇を落とし、抱きしめる腕を強めた。

「そ、そうよね。だいじょうb「ティア……?」」

「あ、アル兄様久しぶりですねっ!!」

そう言うと、レティシアはニコラウスの肩を思い切り突き放した。

ニコラウスは少々不服そうな顔をしているが、仕方あるまい。流石に身内にこんなのを見られるのは恥ずかしい、大いに。

「ニコラウス、久しぶりだね。」

「こちらこそです、お義兄様……で宜しいですか?」

「あぁ、構わないよ。それより、あのティアが婚姻を結ぶなんて信じられないよ。本当におめでとうティア。」

そう言ってアルフレートは膝を折り、レティシアの手の甲に口付けを落とした。

「我が妹に幸せが在らん事を。」

そう言って微笑むと、アルフレートは立ち上がった。
 
「ありがとう、アル兄様。」

「今はティアの衣装も見に来ただけだし、一旦は退散することにするよ。あ、ニコラウス、仲がいいのはもちろん良いけど程々にね~。」

そう言い残すと、アルフレートはひらひらと手を振り、颯爽と立ち去ってしまった。


すぐ隣では、ニコラウスが顔を横に向け思い切り赤面している。

その姿に、レティシアも一足遅れて兄の言葉を思い返し、ふしゅーっと顔を赤く染めた。

そして互いに沈黙が続いた後、どちらからとも無く笑い出してしまった。



ひとしきり笑ったところで、扉の向こうから教会の人に「そろそろお時間です。」と声をかけられた。



「ねぇニコラウス、今の私たちならなんでも出来るんじゃない?」

「では世界征服でも始めましょうか、姫?」

「それはいい考えね。」

そう言って2人は肩を揺らしながら再び笑い合った。







♢♢♢



「レティしあぁぁぁあああ!!!」


そんなことを言いながら私に飛びついてくる人なんて一人しか見当がつかない。

「なぁにマリー、…ふふっ、顔がベタベタ。」

そう言ってレティシアはハンカチーフを取り出し、涙でぐしょぐしょなマリーの顔を拭った。

「ニコラウスさんどう”が、レティジアを幸せに…ズズッ、してくだしゃいねぇえええ!!」


マリーはレティシアの手からハンカチをぶん取り、あっという間に余すことなく濡らしてしまった。

「あ、あぁ、もちろんだよマリー嬢。」


ニコラウスですら、そのマリーの勢いに飲まれて若干、いや相当引いている。

「マリー、喜んでくれるのは嬉しいけれど、ねぇ?今世紀最後の別れとでも言うまいし。」

「だって、だってあのレティシアがぁあああ!!」

「はいはい、分かったから。すみません、侍女さん彼女を頼んでも?」

「承知致しました。お嬢様、ほら行きますよ。」

「まっでぇ、レティシアまだぁあああニコラウス様ともお話したいですぅううう」

「また後でお話しましょうね。……はーい、ドアにしがみつくな。はい、またね。」


はぁ………。なんと言うか、本当に、嵐のようであった。


「ティアの友人は本当に面白いね。是非今度はちゃんと話してみたいね。」

「あはは……さっきほぼ会話していなかったものね、伝えておくわ……。」


苦笑を漏らしていると再び扉がノックされた。


コンコンコン_____


「ニコラウス、俺だ。入っても良いか?」

「あぁ来たのか。ティア、良いかな?」

「ニコラウスのご友人なら勿論ですよ。」

レティシアがそう告げると、ニコラウスは扉に手をかけ、ゆっくりとその扉を開いた。

そう言えばニコラウスの交友関係ってあまり知らないわね。それこそ私が知っているのはカインツさんくらいだし。

その予想は見事に的中し、そこには予想どうりカインツと、もう一人の男の姿があった。


「この時間によく来れたね。絶対無理だと思ってたよ。」

「俺にかかればこのくらいどってことないよ。」

そんな軽口を叩いた男に対してカインツは見事にあたまのど真ん中にチョップをお見舞した。


「ね、ねぇニコラウス?カインツ様ともう一人、あの方はどなたです?」

「あぁ、レオン、フードを取ってやってくれないか?」

レオン……どっかで聞いたことあるような、無いような?

「あ、そう言えば忘れてたわ、ティアちゃんは初めてだもんね、はーい。」

その男はニコラウスが声をかけると、そのフードをひらりとめくった。


「うわぁぁあ、れ、れレオンハルト殿下!?!?」

「そう、大正解!俺は正真正銘レオンハルト(?)・カルトレアだ。」

 レオンハルトは頭上で大きな丸を作り、ニカッと笑った。

「た、大変失礼致しました!」

「あー、いいのいいのコレ被って来たからしょうが無いって。」


あまりにも砕けた話し方をするので彼がこの国の王族である事を忘れてしまいそうになる。

「分かってはいたけど、ニコラウスのご友人って、その、なんて言うの……そう、癖が強いわね。」

「マリー嬢も中々だったよ。」

「やっぱり私達、似たもの同士ってことかしら?」

「そういう事にしておこうか。」

そう言って互いを見合うと、2人は小さく笑いを漏らした。


「客人の目の前でイチャつくの、止めてくんね?」

「………ゴホン。」

レオンハルトとカインツは2人の糖度の高い会話に胃もたれしそうだ、と言わんばかりに、げっそりとした顔をしている。

「じゃあもういいだろ、ほら早く帰った。」

ニコラウスはそんなふたりの背を無理やりに押し、扉の方へど追いやった。

「ティアちゃん、ニコラウスの笑顔はレアものだから大事にしてやってね。」

「え、あ………はい、もちろんです!」

レアなのかどうかはよく分からないが、まぁ、細かいことは気にしないことにしておこう。


「じゃあ!」

「お騒がせしました。」

レオンハルトは手をひらひらと振り、カインツはぺこりと一礼すると、2人はその扉から去っていった。


2人が去ってしばらくすると、レティシアが口を開いた。

「ねぇ、ニコラウス?」

「どうしたの?」

「私、こんなに沢山の人に祝福されて、すごーく幸せ!」

そう言うと、レティシアはニコラウスに正面から抱きついた。

「うん、俺もだよ。」

そう言ってニコラウスは目を細め、レティシアの腰に手を回した。
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