35 / 39
25.
しおりを挟む
「ニコラウス様、ノイラート公爵家からです。」
「ありがとう。」
何故か二通ある手紙を不思議に思いつつも、ニコラウスは差し出された手紙を手に取り、引き出したからペーパーナイフで封を切った__
婚、約………?ちょっと待て、
そんな話今まで一切聞かなかった筈だ。少し前まで貴族との関わりなんて、それこそ俺以外になんて。
それに”愛していた”と………
その手紙の内容に、正直に喜ばしい気持ちと、婚約したと言う事実に深い嫉妬心が渦巻き、その混同した気持ちに何とも言えない痛みが走る。
焦る気持ちを抑え、2通目の手紙の封を切った__
その手紙はユリアからの物であった。
そこには、ビルヴォート家及び、ルーク・ビルヴォートについて事細かに調べ上げられた、まさに報告書そのもののような物であった。
一応レティシアの側近の者だとは記してはあるが一体誰がこの手紙を……
その手紙の差出人がレティシアの侍女からだ、と言うことには気づいていないようであった。
現在のニコラウスの混乱した頭では、冷静に判断をする事が困難なようで、誰かと言うのを推測することは、一旦放棄した。
それより、だ。
ビルヴォート、ってまさか……
そう思い立ち、ニコラウスは棚に保管されていた記録書に手を伸ばした。
「やっぱり、だよな。」
ニコラウスは大きなため息を零した。
勿論今すぐにでも事情を伺いにレティシアの元に飛んで行きたいが、先ずは伯爵の方と話をつけないとだな……
ビルヴォート家とシュテーデル家とは先代からの付き合いで、今も友好なの関係を築いている。無闇にニコラウスがその関係を壊すことは出来ない。
「いや、でも…………いける、な。」
何かを思いついたようで、ニコラウスはその報告書じみた手紙を机に置き、近くに掛けてあった上着を羽織ると、侍女に一言告げ、部屋を飛び出した。
今まで何も言わなかったレティシアに対し、少しの苛立ちと後悔の念をその胸に、ニコラウスは頭をわしゃわしゃと搔き回した。
「どうして……………、」
その呟きは、自らの足音に掻き消された。
♢♢♢
「突然尋ねてすまなかった。俺はニコラウス・シュテーデルだ。」
「私はルーク・ビルヴォートです。」
そう言うと2人は握手を交わした。
「で、何故今日は家を尋ねてこられたのですか?」
「あぁ、レティシア公爵令嬢についてなんだが…」
「もしかして、あぁ、あなたが………」
「…………どうしたんだ?」
「いや、なんでもありませんよ。それより、レティシアについて、でしたよね。」
「あぁ、そうだが……」
他人の口からその言葉が漏れるのさえ、あまりいい気はしない。
「では少し、私の話を聞いてくださいね。」
その言葉を皮切りに、ルークは今までにあった事を全て話した。
あの日、レティシアと街で出会ったこと。それからは、彼女の居る薬屋に足繁く通っている事。彼女とは幼少期からの知り合いで、その頃から一方的に好意を寄せていること。
そして何故婚約という運びになったのかについて。
「結局私は父の手の上で転がされていたんです。」
「………つまりはどういうことだ?」
ルークは、薬屋に通うようになってからしばらくがした時、父に、レティシアへ好意を寄せていることを打ち明けたのだ。
それが間違いであった。
その話が父の耳に入った後に、レティシアに他に想い人が居るという事を知った。そこでルークは父に異言を提したのだ。だが、体のいい言葉で、その話は避けられ続け、結局婚約を結ぶ事になった。
そこでルークは酷く後悔した。と同時に、婚約が白紙にならなくて済むという事実に、心の何処かで安堵している自分に嫌気が差した。
そしてルークは気がついた。父はただ、公爵家との強固な繋がりが欲しかっただけだったと言う事に。
結局のところ、ビルヴォート家の利益のために自分とレティシアは利用されていただけであった。
「………………という訳です。」
「ちょっと待て、つまり…………」
レティシアは彼の事が好きな訳では無い、ということで良いのか……?そしてこの婚約はビルヴォート伯爵によって取り決められた物で…
「ルーク、ビルヴォート伯爵は何方に?」
「2階の執務室に居ます。父を尋ねるのですか?」
「あぁ、少し話したいことが。」
「そうですか、では侍女を付けさせますので。」
そう言ってルークは立ち上がり、ニコラウスを部屋から送り出した。
「やはり、貴女を幸せに出来るのは僕ではないらしいですね。」
♢♢♢
コンコンコン_____。
「ビルヴォート伯爵、本日訪問させていただいているニコラウス・シュテーデルです。」
そう声をかけると、扉が開かれると同時に内からビルヴォート伯爵が現れた。
「いやぁ、わざわざここまで御足労ありがとうございます。さぁさぁ、どうぞこちらに腰掛けてくださいな。」
促されるままに、ニコラウスは指示された場所へと腰掛けた。
「本日はどのような要件で?」
「本題に入らせて頂きます。レティシア……ノイラート侯爵令嬢についてなのですが。」
すると、ニコラウスの傍付きの1人が紙をビルヴォート伯爵の目の前へと提示した。
「これでどうでしょうか?父上……シュテーデル公爵の確認と了承は既に頂いております。」
「こっ、こ、これはっ!も、もちろんですよ!ではノイラート侯爵家との婚約の話は白紙にするという事で!!」
ビルヴォート伯爵は机から紙とペンを取り出すと、その旨を伝える手紙を書き始めた。
こちらからこの程度の条件を提示すれば簡単に折れるのか。やはりルークの言っていた通り、金と権力にしか興味が無いのか。
この紙きれひとつで動いてくれるのは、こちらにとっては好都合だが。
「感謝します、ビルヴォート伯爵。では、今日の所はこれで。」
「書面の内容は後々よろしくお願い致しますね。」
「もちろんですよ。」
ニコラウスは立ち上がると、ビルヴォート伯爵と握手を交わし、部屋を後にした。
これで全て準備は整った。あとは……
「ありがとう。」
何故か二通ある手紙を不思議に思いつつも、ニコラウスは差し出された手紙を手に取り、引き出したからペーパーナイフで封を切った__
婚、約………?ちょっと待て、
そんな話今まで一切聞かなかった筈だ。少し前まで貴族との関わりなんて、それこそ俺以外になんて。
それに”愛していた”と………
その手紙の内容に、正直に喜ばしい気持ちと、婚約したと言う事実に深い嫉妬心が渦巻き、その混同した気持ちに何とも言えない痛みが走る。
焦る気持ちを抑え、2通目の手紙の封を切った__
その手紙はユリアからの物であった。
そこには、ビルヴォート家及び、ルーク・ビルヴォートについて事細かに調べ上げられた、まさに報告書そのもののような物であった。
一応レティシアの側近の者だとは記してはあるが一体誰がこの手紙を……
その手紙の差出人がレティシアの侍女からだ、と言うことには気づいていないようであった。
現在のニコラウスの混乱した頭では、冷静に判断をする事が困難なようで、誰かと言うのを推測することは、一旦放棄した。
それより、だ。
ビルヴォート、ってまさか……
そう思い立ち、ニコラウスは棚に保管されていた記録書に手を伸ばした。
「やっぱり、だよな。」
ニコラウスは大きなため息を零した。
勿論今すぐにでも事情を伺いにレティシアの元に飛んで行きたいが、先ずは伯爵の方と話をつけないとだな……
ビルヴォート家とシュテーデル家とは先代からの付き合いで、今も友好なの関係を築いている。無闇にニコラウスがその関係を壊すことは出来ない。
「いや、でも…………いける、な。」
何かを思いついたようで、ニコラウスはその報告書じみた手紙を机に置き、近くに掛けてあった上着を羽織ると、侍女に一言告げ、部屋を飛び出した。
今まで何も言わなかったレティシアに対し、少しの苛立ちと後悔の念をその胸に、ニコラウスは頭をわしゃわしゃと搔き回した。
「どうして……………、」
その呟きは、自らの足音に掻き消された。
♢♢♢
「突然尋ねてすまなかった。俺はニコラウス・シュテーデルだ。」
「私はルーク・ビルヴォートです。」
そう言うと2人は握手を交わした。
「で、何故今日は家を尋ねてこられたのですか?」
「あぁ、レティシア公爵令嬢についてなんだが…」
「もしかして、あぁ、あなたが………」
「…………どうしたんだ?」
「いや、なんでもありませんよ。それより、レティシアについて、でしたよね。」
「あぁ、そうだが……」
他人の口からその言葉が漏れるのさえ、あまりいい気はしない。
「では少し、私の話を聞いてくださいね。」
その言葉を皮切りに、ルークは今までにあった事を全て話した。
あの日、レティシアと街で出会ったこと。それからは、彼女の居る薬屋に足繁く通っている事。彼女とは幼少期からの知り合いで、その頃から一方的に好意を寄せていること。
そして何故婚約という運びになったのかについて。
「結局私は父の手の上で転がされていたんです。」
「………つまりはどういうことだ?」
ルークは、薬屋に通うようになってからしばらくがした時、父に、レティシアへ好意を寄せていることを打ち明けたのだ。
それが間違いであった。
その話が父の耳に入った後に、レティシアに他に想い人が居るという事を知った。そこでルークは父に異言を提したのだ。だが、体のいい言葉で、その話は避けられ続け、結局婚約を結ぶ事になった。
そこでルークは酷く後悔した。と同時に、婚約が白紙にならなくて済むという事実に、心の何処かで安堵している自分に嫌気が差した。
そしてルークは気がついた。父はただ、公爵家との強固な繋がりが欲しかっただけだったと言う事に。
結局のところ、ビルヴォート家の利益のために自分とレティシアは利用されていただけであった。
「………………という訳です。」
「ちょっと待て、つまり…………」
レティシアは彼の事が好きな訳では無い、ということで良いのか……?そしてこの婚約はビルヴォート伯爵によって取り決められた物で…
「ルーク、ビルヴォート伯爵は何方に?」
「2階の執務室に居ます。父を尋ねるのですか?」
「あぁ、少し話したいことが。」
「そうですか、では侍女を付けさせますので。」
そう言ってルークは立ち上がり、ニコラウスを部屋から送り出した。
「やはり、貴女を幸せに出来るのは僕ではないらしいですね。」
♢♢♢
コンコンコン_____。
「ビルヴォート伯爵、本日訪問させていただいているニコラウス・シュテーデルです。」
そう声をかけると、扉が開かれると同時に内からビルヴォート伯爵が現れた。
「いやぁ、わざわざここまで御足労ありがとうございます。さぁさぁ、どうぞこちらに腰掛けてくださいな。」
促されるままに、ニコラウスは指示された場所へと腰掛けた。
「本日はどのような要件で?」
「本題に入らせて頂きます。レティシア……ノイラート侯爵令嬢についてなのですが。」
すると、ニコラウスの傍付きの1人が紙をビルヴォート伯爵の目の前へと提示した。
「これでどうでしょうか?父上……シュテーデル公爵の確認と了承は既に頂いております。」
「こっ、こ、これはっ!も、もちろんですよ!ではノイラート侯爵家との婚約の話は白紙にするという事で!!」
ビルヴォート伯爵は机から紙とペンを取り出すと、その旨を伝える手紙を書き始めた。
こちらからこの程度の条件を提示すれば簡単に折れるのか。やはりルークの言っていた通り、金と権力にしか興味が無いのか。
この紙きれひとつで動いてくれるのは、こちらにとっては好都合だが。
「感謝します、ビルヴォート伯爵。では、今日の所はこれで。」
「書面の内容は後々よろしくお願い致しますね。」
「もちろんですよ。」
ニコラウスは立ち上がると、ビルヴォート伯爵と握手を交わし、部屋を後にした。
これで全て準備は整った。あとは……
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる