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「お嬢様、ハーブティーをお持ち致しました。」

「ありがとう、ユリア。あなたもどう?」

「いいえ、私は大丈夫ですよ。」

レティシアは、ユリアが注いでくれたハーブティーを口に運ぶと、鼻の奥へとラベンダーの香りが抜けていく。



「お嬢様………大丈夫、ですか?」

ユリアは手に持っていたトレーをギュッと握りしめ、重苦しそうに口を開いた。


「心配してくれてありがとう。十分元気よ。」



嘘だ。



「ニコラウス様とは直接会ってお話されたんですか?」

「………えぇ、まぁ。」



嘘だ。



「お嬢様、侍女如きが差し出がましいかも知れませんが、本当に宜しいのでしょうか?お嬢様はニコラウス様の事が…………」

「いいえ、もう良いの。」



また嘘だ。



お嬢様は嘘をつく時に必ずその綺麗な亜麻色の髪をくるくると指に巻き付ける癖がある。

ユリアはついに意を決したかのように、抱えていたトレーを机に叩きつけると、両手でレティシアの頬を挟み、むにゅっとその頬を寄せた。

「ふぇっ!?!?!」

「お嬢様!いい加減にしてください!私がお嬢様と何年一緒だと思ってるんですか~~!!!」

するとユリアはレティシアの頬とともにその手をくるくると回し始めた。

「ひゃい!!ふりは!!やめへ!!!!」

「いい加減素直になってください!勿論ルーク様が良い方だと言うのは存じております!ですが何故婚約のお話を受けられたのですか!」


「ひゃってぇ……ひゃってぇ………………」

レティシアの目には、みるみるうちに涙が溜まっていった。

私は知っていますよ、。貴女が誰よりも優しい事を。自分のことよりも他人の事を考えて、1人で考え込んではいつも影で泣いている。

でも心配をかけたくないから表では明るく振る舞う、そして貴方自身が誰よりも傷ついてしまう。そんな貴方を私は何年間もお側で見てきましたから。


するとユリアは頬から手を離し、レティシアの背に手を回した。

「まだ本当のお嬢様のお気持ち、伝えていないのではないですか。」

そう言ってユリアは、昔のようにレティシアの背中をとんとんと優しく叩いた。



そうしてどのくらいの時間が経っただろうか、レティシアがぽつりと口を開いた。

「私、ニコラウスに手紙を書くわ。」

「そうですね。」

レティシアは、引き出しから紙とペンを取り出すと、机に向かい、文字を連ね始めた。



一体お嬢様がどんな手紙を書くのかは分からない。  

どうかお嬢様が幸せになれる道を歩めますように。


ユリアは、レティシアがペンを滑らせ始めたことを確認すると、静かに部屋を後にした。



そして自分が宿泊してる部屋へ戻ると何やら、引き出しから紙とペンを取り出した。

ユリアは手紙を書き終えると封をし、その手紙を右手に握りしめた。


「後は任せましたよ。」


そう言ってユリアは小さく微笑んだ。
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