上 下
15 / 39

10.

しおりを挟む
「本当に美味しかった!お店を紹介してくれてありがとう。」

「礼には及ばないよ。」

そう言ってニコラウスは、微笑を零した。


いやぁ、この『プディング』がものすごく美味しくってね………はい、私の右手をご覧下さい。お察しの通り、お土産用に沢山買ってきちゃいました!

だって港町なんて滅多に来ること無いし、このくらい贅沢しても誰も怒らないわよ。うん、絶対そう!

レティシアはそう結論づけ、再びニコラウスの方に視線を向けた。

「ねぇニコラウス、せっかく遠出したんだから色んな店を回らない?」

「もちろんだよ。じゃあ、とりあえず広場の方に行こうか。」

そう言うと、ニコラウスはレティシアが右手に提げていた袋をサッと取り、前を歩きだした。

サラッとこういう気づかいができちゃうのね……。流石モテ男(?)ね。今までも何となく感じてたけどニコラウスって相当………

うーーん、としばらく考え込んでいると、先方から「レティシア、どうかした?」と声をかけられたので、一旦脳内会議を中断し、ニコラウスの背を追いかけることにした。



♢♢♢



「ねぇあそこのお店なんてどう?すごく面白そうじゃない?」

「魔法具の店か、俺も見に行きたいな。じゃああそこに寄っていこうか?」


そう言って2人は向かいにあった魔法具店へと向かい歩きだそうとした。


するとその瞬間、先程来た道から小さな男の子が緑色の風船を手に持ち、こちらに向かって思い切り駆けてきた。

そして、運悪く道のレンガが欠けた場所を踏み切ってしまい、思い切りその場に倒れ込んでしまった。

そしてお察しの通り右手に大事そうに持っていた風船は、空へ旅立ってしまった。


「…………っ、いきます!!!!」

何を思ったかレティシアは謎の宣言をし、思い切り床を踏み切りると、風船へと手を伸ばした。

「やった…………ぁああ!」

今日のレティシアには運が着いていなかったようで、着地点には、広場のど真ん中に構えた噴水。


バシャン____。


着地は体操選手さながらの見事なものであったが、靴とワンピースの裾は見事に濡れてしまった。


今彼女が立っている場所は、町の中央部にある広場なので、もちろんのこと人通りは多い。そして、その人々の視線と言う視線が全て、レティシアの元に突き刺さっている。

レティシアはそんなこと我関せず、と言わんばかりに、「よいしょ。」と噴水の縁を乗り越え、転倒してしまった男の子の元に歩み寄り、目の前でしゃがみ込んだ。

「ほら、男の子は強くなくっちゃね!はい、これ持って。ほらあっち、お母さんが待ってるんでしょ?行っておいで。」

そう言ってレティシアは風船を手渡すと、その男の子は立ち上がり「お姉ちゃんありがとう!」と言い、ぺこりと頭を下げた。


すると1人2人と、その場にいた人々が手を叩き始めた。次第にその音は大きくなり、その場は拍手喝采に包まれた。

「姉ちゃんやるね~!」

「かっこよかったよ!」


しばらくの間、呆気に取られていたレティシアだが、自分に注目の目が集まっていることに気が付き、次第に顔がかぁっと真っ赤に染まっていった。

その時は、完全に反射的に体が動いていたため、完全に周囲の視線を気にも止めていなかったらしい。

今はそういう訳にも行かず、周囲の視線が嫌という程突き刺さっている。

「ま、ま、まって、に、ニコラウスあっちいこ!」


レティシアは完全に頭が真っ白になり、ぺこぺこと頭を下げニコラウスの手を取ると、人の間をかき分け、できる限りその場から遠くへ遠くへと走り去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夜会の夜の赤い夢

豆狸
恋愛
……どうして? どうしてフリオ様はそこまで私を疎んでいるの? バスキス伯爵家の財産以外、私にはなにひとつ価値がないというの? 涙を堪えて立ち去ろうとした私の体は、だれかにぶつかって止まった。そこには、燃える炎のような赤い髪の──

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...